第19話 吸血鬼の憂鬱1

私とヨアニスは引き離されて別々の天幕で尋問、じゃなかった、事情聴取を受けていた。

意外と丁寧に扱われてはいるけれど、偉そうな態度の聖騎士たちは湖で起こった事件だけでなく、二人で旅を続けている理由についてもしつこく質問してきた。


私たちの関係を示す身分証の束をヨアニスが持っていると言えば、「そちらは現在確認中です」などとはぐらかし、また同じような質問を繰り返す。彼らが気にしているのは湖の事件というよりヨアニスに出会った経緯から今日までの出来事のようで、はっきりと言われたわけではないのだけど、どうもヨアニスの不利になるような証言を引き出したいようだった。


しかし正午を過ぎても私からは望みの答えをもらえないと理解したのか、担当官の3人は揃って天幕を出て行った。

外から何やら相談する声が聞こえる。耳を澄ませると「あの魔族」だの「吸血鬼が」だのと差別的なセリフが何度も聞こえてきた。


いいかげん頭にきていた私は勢いよく天幕を飛び出して、ヨアニスがいそうな場所を探して視線を走らせた。と言っても他に中が見えないようになっている天幕はあと一つしかなかったのでそっちに向かって突進した。


後ろから引き止めようとする焦った声が追いかけてきたけど私も全速力で走った。途中で転ばなかった自分を褒めてあげたい。


その天幕の入り口には見張りが二人立っていた。しかし突然正面から走ってくる謎の女の子に面食らったようで、一瞬の躊躇の隙をついて彼らの手が伸びる前に何とか突入することができた。


そこで固まってしまった。

中央にヨアニスがいた。下着姿にされ、両手を後ろに縛られて椅子に座らされた状態で。彼は力なく顔をあげると驚いた顔をし、次に羞恥の表情を浮かべた。額から流れる汗、どこか焦点の定まらない弱々しい目つき。……何かされてる。


彼を取り囲んでいる数人の騎士が一斉に私をみた。全員の顔に明らかな敵意が浮かんでいる。私も彼らを睨みつけた。もう完全に頭に血がのぼっていた。私は可能な限りの力を込めて声を張り上げた。

「あなたち何をしてるの!彼を放しなさい、今すぐに!!」

見張りの一人が遠慮がちに私の腕を掴んできたけど力任せに振り払った。「不当な拘束だわ!抗議します!」


偉そうな聖騎士たちの中でも輪にかけて偉そうな男が隣の男と目を合わせてからゆっくりと口を開いた。

「困りますな。任務の邪魔をしてもらっては。ご覧の通り取り調べ中なのですよ。ああ、ご安心を。あなたは保護の対象となりました。後のことは我々にお任せください」男は出口に向かって顎をしゃくった。「さぁ、早くお連れしろ」


やけに慇懃無礼な口調だった。子供の相手なんてしてられないって態度ではあるけれど、それだけじゃないみたい。大司教であるヘンレンスさんの娘ってことになってるからかも。

向こうが少しでも蔑ろにできない存在だと思ってるなら付け入る隙もある。私はできるだけ威厳を見せようと胸を張って大きく息を吸い込んだ。


「あなたたちの調査対象は『湖』でしょ。事件に関わったというだけで無抵抗の者を不当に拘束して尋問するなんて許されることではないわ。これは明らかな人種差別であり人権侵害です!今すぐ彼を解放しないと正式に抗議文を提出することになります。この過剰な暴力行為は必ず明るみに出るでしょう。当然加害者側の責任を問うことになるわ!」


一気に言い切った。どこに?どうやって?そんな疑問が次々と頭に湧いてきたけどぜんぶ無視した。絶対にこちらの不利を悟らせないこと。こういうのはとにかく一貫した論理と毅然とした態度を貫き通すことが大事なのだ。

自分の倍はありそうな体格の男たちの冷酷な眼差しについ怯んで弱気になってしまいそうになる自分を叱咤した。


感情の見えない冷たい目をした男がいっそう冷ややかに目を細め、そっと隣の上司らしき男に耳打ちする。「……書類は本物……例の大司教様の……厄介なことに……」

私はどんどん険しくなっていく男の顔を負けるものかと睨み続けた。男は苦虫を一気に100匹ぐらい噛み締めたような渋面をし、やがて忌々しげに吐き捨てた。

「……よかろう。解放しろ」


命令によって即座に一人の騎士が動いた。ヨアニスの背後に回ると金属が捩じ切れるような音が響いて腕と足を拘束していた金具が外れた。

もっと激しい言い合いを予想していたのに意外にもあっさり解放されたもんだからちょっと拍子抜けしてしまった。


顔を伏せたままのヨアニスはよろけながら立ち上がると、一度も私の方を見ずに自力で出口へ向かった。慌てて追いかける。外がやけに眩しく感じた。

まだおぼつかない足取りのヨアニスを支えようと近づいたけど、彼は傷付いた心を曖昧な笑顔でごまかしてそっと私を押しやった。


どうしたらいいのかわからない。動けずに立ち尽くしていたら、まだ見習いっぽい若い騎士が天幕から出てきて、侮蔑と戸惑いが入り混じった表情を浮かべつつも私に衣服と身分証の束を押し付けてきた。彼は「こちらへ」と私たちを隅の方に案内する。


どうやら勝手に調べられていたようで、離れた場所に繋いであったはずの馬と馬車がこっちに移動させられていた。

この場合助かるけど、そんな話一言も聞いてない。後ろに回り込んで確かめたら、案の定中はメチャクチャに荒らされていた。

ヨアニスが服を着ている間、せめて乗り込めるだけのスペースを開けようとほとんど空になっていた木箱に散らかった旅の物資、着替えとか袋からこぼれ出たナッツとかをできるだけ拾い集めて放り込んだ。


怒りを押し殺して黙々と作業を続ける私に、若い騎士が早口で捲し立てた。

「まだ容疑は晴れていません。許可が降りるまで街から出ないように。宿泊先をご用意していますので、私についてきて下さい」

「なんの嫌疑よ?」ジロリと睨むと若い騎士はちょっと怯んだ。こいつだってあの偉そうな上司に言われただけなんだろうし、私は文句を引っ込めて大人しく従うことにした。


彼よりもさらに若い侍従が馬を連れてきた。騎士が馬に跨ると、ヨアニスは無言のまま御者席に乗り込んで大人しく待っていたアプリとコットに合図を送った。


先導されて湖沿いの道を進んでいる間、何度もヨアニスに話しかけようと荷台の中から御者席を覗いたけれど、あんまり話しかけてほしくなさそうで、儚げなぼんやりとした視線を道の向こうに向けたままだった。

考え事をしているようにも見えるけど、あの連中が彼の自尊心をめちゃめちゃに傷つけたことは間違いない。胸が締め付けられるような思いだった。


湖のほとりにある街へは明るいうちに到着した。街の門兵も任務中の聖騎士に連れられた私たちの詮索はしたくないようで、騎士に命じられるまま素早く通してくれた。


用意されていた宿はかなり立派な裕福層向けだった。洒落たダークグレーの石造りの外観で、トーアンセクトで泊まった宿よりずっと格式が高そうだ。

馬車を預けて宿の中に入ると、聖騎士は従業員に軽く会釈しただけでどんどん先を歩いていく。吹き抜けのあるかなり広いロビーを抜けて階段を登り、三階まである宿の最上階の一部屋の前で立ち止まると、若い騎士はなぜかハッとしたような顔を私に向けた。


「あの、失礼ですが、お二人の関係は?」ちょっと顔が赤くなってる。私は初めて彼に好感を抱いた。この部屋は大司教の娘のために用意した部屋で、ヨアニスが釈放されることは想定してなかったんだろう。

私はそっけなく答えた。「ここで構わないわ。私たちのことは放っておいて頂戴」

「は、あの、ですが、あなたは未婚、なのですよね?」しどろもどろになってる。いいところの出なんだろうか。未婚の男女が同じ部屋に泊まるなんて想像もできないみたい。


この世界では婚姻関係にある相手以外と性交渉を持つことは固く禁じられている。もちろん正教会が言ってるだけなんだけど、大陸のほとんどの地域で強い影響力を持つ教会が定めた『禁忌』は、同時に大陸の非常識でもあった。

そのせいか大抵の若者は15歳の成人を迎えるとすぐに相手を探して結婚し、大抵はそのまま一生をその相手に捧げる。離婚も一応認められてはいるけれど、男女ともに相応の理由が求められるみたい。


騎士は責めるようにじっと私を見つめた。高位の聖職者の家族なら当然そこら辺の倫理は守るべきだと言っているのだ。私はピシャリと言ってやった。

「いいのよ。彼は友人で、優秀な護衛でもあるの。いつも側にいてくれるのよ。警備上の理由から部屋も一緒。あなたが心配することじゃない。わかったわね?」


彼は俯いて顔を真っ赤にしながらも素直に引き下がった。なぜか悔しそうにヨアニスを睨みつけている。何かを堪えるように荒い息を吐き出しつつ私に部屋の鍵を渡すと、さっと一礼して踵を返し、早足で去っていった。


私が赤く塗られた天井を見上げてウンザリだとジェスチャーで表すと、少しだけヨアニスも微笑んでくれた。無理やりって顔だったけど、それでもようやく笑顔が見れた。


部屋はやっぱり豪華で素敵な部屋だった。

庶民の生活レベルから、かなり低い文明なのだと思い込んでいたけど、この部屋には信じられないほど手の込んだ作りの家具が並んでいるし、開け放たれた寝室から見える四柱式のベッドはキングサイズで、何枚も積み重ねられた色とりどりの敷布団がこれでもかと存在を主張している。


家具はどれも高級品だけど、田舎の風合いを出すためにあえて荒々しさを残した柱が使われている。こうしたセンスのあるデザインはこの世界にきて初めて見た。建築デザイナーが存在するんだわ。


相変わらず無表情を貫いているヨアニスは、着替えの入った荷物を壁際に放ると力無く近くの椅子に座り込んだ。

「ねぇ、大丈夫?あいつらに何をされたの?」質問しながら彼の肩に触れようとしたら緩慢な動きで立ち上がった。拒否されたのだとわかってドキリとした。

彼は私を見ずに「体を洗ってくる」とだけ言い残して寝室の向こうに行ってしまった。


手持ちぶたさになってなんとなく部屋を見渡し、落ち着ける場所を探した。結局ベッドを選んで仰向けに寝転がって待つことにした。

ものすごく豪華なベッドは何枚も積み重なった敷布団のせいでやけに高くて、踏み台を使ってよじ登らなければならなかった。

天井には森の中で飛び跳ねて遊ぶ白い鹿の絵が描かれている。ものすごい凝ってる。こんな状況でなければ豪華な部屋を体験できて幸運だと思っただろう。


隣のバスルームから風呂を使う水音が聞こえる。

心配だわ。どうやって慰めてあげればいいのか検討もつかない。私自身、百合子だった時に親から励まされたり優しく抱きしめられたりといった経験がないから、こんな場合にはどうすればいいのかさっぱりわからなかった。


目を閉じて次に開いた時には、ヨアニスが隣で寝ていた。心臓が飛び跳ねた。目を閉じているけど、髪はまだ湿っていて額に張り付いている。枕を使わず片腕を曲げて枕代わりにしてこちら側を向いていた。綺麗な寝顔。無垢な幼いこどもがそのまま大きくなったみたい。

つい見惚れていたらヨアニスの唇が動いた。

「奴らはお前を攫うつもりだったんだな」

「へ!?」心臓がバクバク打ちつけている。眠っているんだとばっかり思ってたのに。

「こんな部屋を用意して、俺から奪うつもりだったんだ」目を開けた。暗い瞳に力が漲っている。怒ってる。それもものすごく。

「奪うって、あの人たち教会の人でしょ?」

「ああ。ヘンレンスが所属している派閥は少数派なんだよ。大抵は魔族を憎んでる。残らず大陸から追い出そうとしてるんだ。それか、誰にも助け出せない場所に連れて行って殺すか」

「……そんな」私はごくりと唾を飲み込んだ。


ありえない話じゃない。ここより人権については厳しく追及する地球だって、そんな話はいくらでも転がっていた。

激しい人種差別、どれほど月日を重ねても終わることのない憎しみ、そして暴力。


圧倒的なマイノリティであるにも関わらず『魔族』が、とりわけ『ハーフヴァンパイア』が大陸全土で恐れられるには理由がある。彼らは何度か歴史上に登場して、その度に稀に見る悪役を演じてきたのだ。


特に有名な昔話として大賢者ガーレンの冒険物語が挙げられる。私たちが向かっている魔術都市ガーレンを作った人だ。

ガーレンが戦った相手は500年前の大戦で大陸統一を目指したある帝国なのだけど、その黒幕の一人がハーフヴァンパイアだったらしい。


もちろんその話でも大半の悪事はヒューマンの仕業で、大戦に関わった多くの登場人物の中で『ハーフヴァンパイア』はたったの一人だけ。にも関わらず当のヒューマンたちは都合よく事実を改竄して他種族にすべての『悪』を押し付けているのだから、まったくひどい話だった。


魔大陸との交易で潤う港町のダーナスを出てからというもの、どの街もヒューマンばかりで、たまに見かける亜人は住人というより流れのハンターらしい格好をしている人がほとんどだったのを思い出す。


ヨアニスは皮肉気に言った。「ユリだってどうなるかわからないぞ。神人なんだ。たぶんどこかに監禁されて、そのうち誰か有力な相手と結婚させられるだろうな」

思わず頭をあげた。「……嘘でしょう!?」

彼は私を見つめて微笑んだ。「大丈夫だ。俺が守るよ。いざとなったら……」最後まで言わなかったけど、その言葉には危険な響きが込められていた。私は慌てて言った。

「ダメよ、ヨアニス。向こうが何をしようと手を出してはだめ。あなたを処罰できる正当な理由を与えることになる。もちろんよくわかってるでしょうけど。ね、何かあったらまた私が助けてあげるから、大丈夫よ」

彼は不服そうに唸った。

「あのね、思ったんだけど、あの人たちあなたが思うほど力がないみたいよ。ちょっと脅したらすぐに解放したじゃない?きっと私は奴らと対立している勢力の側だと思われているのよ。それも今日で確かなものになったわ。だから心配しないで。大丈夫だから」

ヨアニスは仰向けになって天井を睨んだ。

「ふんっ。ヘンレンスのやつはお前を守ろうと教会の手が届かないガーレンに送ろうとしてるんだよ。……その必要はなかったかもな!」

私は笑った。なんで不満気なの。

「ヨアニスったら子供みたいよ。可愛いけどね」

「可愛いだって?ったく」彼は不貞腐れて寝返りを打ち、私に背を向けた。

「協力していきましょう。私は教会からあなたを守る。あなたは魔物から私を守る」なんとなく何かが足りない気がして付け加えた。「これからもよ」

ヨアニスから返事はなかったけれど、もう殺伐とした空気ではなくなっていた。


翌日目を覚ますともういつもの彼に戻っていた。少なくとも表面上は。

私を食堂に連れていって朝食を食べさせ、部屋に戻ると洗濯物を回収してどこかに持って行った。洗濯室的な場所があるんだろうか。


普段は石鹸水で洗った後にヨアニスが氷の魔術を使って凍らせて、それを振って氷を飛ばせばほぼ乾いているというすごい荒技をつかっていたんだけど、皆が皆そうしているわけじゃないだろう。衣類も傷みそうだし。

手ぶらで帰ってきたヨアニスに聞いてみたら、宿の専属の洗濯屋に渡してきたという。クリーニング店みたいなものだろうか。


太陽が西側に傾いた頃、昨日の若い子とは別の聖騎士が訪ねてきた。

突然ノッカーをダンダン叩かれる音がして飛び上がった。

「失礼!ヘンレンス大司教のご息女、ユリどのはいらっしゃるか!」


緊急事態かと慌てて扉を開けると、銀よりも白っぽい謎の金属の鎧に身を固めた騎士が立ち塞がっていた。聖騎士になれる条件の一つに、身長についての項目が含まれているに違いない。背の高いヨアニスよりさらに背が高く、横幅も大きかった。腕は丸太みたいに太い。


「何か?」冷ややかに尋ねると、聖騎士はぎゅっと眉間に皺を寄せた。何かを咎めるように素早く室内の様子や私やヨアニスを交互に確認する。どうせ未婚の男女が、とかなんとか思ってるんだろう。


「ユリどのですね?私は正教会から改めて派遣された者で、ジェンツと申します。昨日は何やら手違いがあったと聞きました。どうも一部の騎士が先走ったようで、申し訳ない。まずは謝罪させていただきたい」

なんていうか、うるさい。騎馬の仲間に号令でも出してるみたいな声量だった。口調は丁寧だし、新手の嫌がらせではないみたいだけど。


「手違いって、ヨアニスのこと?」はっきりと敵意を込めて言ったけれど、昨日の子とは違ってたじろぐような様子はなかった。太い眉の間に渓谷のような深い溝ができる。それが魔族への軽蔑の現れなのか、本当に悪いと思っているのかの判断がつかなかった。態度だけは妙に堂々としている。彼はあっさり非を認めた。

「それもあります。随分と手荒な真似をしたとか。彼らの行動はミドラ神の意思に基づいたものではない。騎士団を代表して謝罪に参りました。それと、改めて湖で何が起こったのか、もう一度話を聞かせていただきたい」

「ちょっと!私たち何時間も拘束されて何度も同じ話をさせられたのよ。どうしてまた繰り返さなきゃなんないの!」

「お怒りはごもっとも。しかしこれも手続きの一つなのです。時間をおけば蘇る記憶もあるでしょう」聖騎士はチラリと私の後ろに立っているヨアニスを見た。「さらに言わせてもらえば、そちらの魔族の方から事情を伺う際に取った手段も通常の手順です」落ち着いた低い声でキッパリと言い切った。

「なんですって!?」

「ご不快に思われるでしょうが、こちらとしても隊員の命を危険に晒すわけにはいかないのです。どうか事情を理解していただきたい」

なんという言い草。頭に来て文句を言ってやろうとしたけれど、先にヨアニスが口を開いた。

「もういい。それで?どうすれば解放されるんだ?」

「再度事情を伺いたいのです。それからあなたはハンターのようですし、討伐した魔物の権利を持っている。死骸は我々の調査後にハンター協会に引き渡されるので、もう少し時間がかかるでしょう」

「どのくらいだ?」

「早くとも一月は見ていただきたい」

「そんなに!?」思わず叫んでしまった。

「その間の宿泊費はこちらで持ちます。ハンター協会にしても初めて扱う魔物だ。あちらの調査も待たなければならないはずです。悪い待遇ではないと思うが。今後の説明もあります。部屋に入れていただけませんか?」

「……聞こう」

追い返したかったけれど、ヨアニスが片手を部屋に向けて招き入れてしまった。


渋々リビングのテーブルセットに座って話を聞いたところ、まだまだ解決とは言えない状況なんだそうな。『怪異』の歴史の長さから考えるとあの巨大な血煌貝が一匹だけとは考えづらいと言う。言われてみれば確かにそれはそうなのだった。


私たちは街の中では自由にしていてもいいけれど、被害者の遺体から血が抜き取られていた上にハーフヴァンパイアが事件に関わっていたことが問題になっているらしい。

ようするに、ヨアニスの無実が証明されるまでは街から出るなと言うことらしい。

何か言ってやりたくて「それって強制?」と挑戦的に聞いたら、「現在は容疑者の扱いになっている。無理に街を出れば疑いは強くなるだろう」と強い口調で言われてしまった。


この聖騎士は苦労性なのか、疲れたように息を吐き出して「ただし、今年の事件もすでに解決に向かっています」と微妙な言い方をした。まぁ、毎年の恒例なんだろうし、1ヶ月という期限があるのだから、慣れた形式上の手続きがほとんどなのかもしれない。



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