第10話 荒野へ

ビターナのおかげでようやく乗馬から解放されたと思ったのに、馬車の乗り心地は思っていたほど快適ではなかった。

あまり人の通らない荒野の街道がきちんと整地されているわけもなく、ほとんど自然のままのでこぼこの上を走ることになり、頑丈だけが売りの木製の馬車はたびたび荒馬のように飛び跳ねた。

サスペンションとかゴムのタイヤなんていう気の利いた技術はまだ発明されてないみたい。


(主に馬のための)休憩が時折り挟まれるぐらいで、厳しい旅になるとの予告通り、ヨアニスは私に対してまったく容赦しなかった。彼曰く、荒野にも『それほど危険じゃない場所』と『かなり危険な場所』があるんだそうで、私にはどこも同じに見えるんだけど、今現在突っ走っている地点は特にコヨーテの群れが多いらしい。


馬車の中でただ揺られているのも辛いので、時には気分転換に御者台に座って手綱を握ってみたりした。

ヨアニスの隣に腰掛けて、枯れたように見える木やブッシュの茂みの間を駆け抜ける。熱気にゆらぐ薄茶色の大地は地平線の果てまで続いていて、動物もすれ違う旅人もおらず、世界にはもう私たち二人だけしか残っていないかのようだった。


隣を向けば当たり前のようにものすごいイケメンがいる。彼が瞬きするたびに、『私は今夢の中にいるの?』と自問自答を繰り返した。私だってそれなりだと思うけど、彼には到底敵わない。


こうして隣に座って前を向いているとヨアニスは時折り私をじっと見つめてくる。科学者が他と違う動きをするマウスに注目するような、ひどく客観的な視線で。

初めて会った日に一目でヒューマンではないと言い当てた彼だけど、それでもそれ以降私の正体について聞いてくることはなかった。


小規模な自治体で構成されているこんな未熟な社会の倫理や道徳なんてたかが知れているもの。長期の旅とはいえ、ただの護衛に過ぎない雇われハンターにプライベートを探られずにすんで内心ほっとしている。

なのに、ビジネスライクな冷たい視線を感じるたびに少しだけ、ほんの少しだけ胸にちくりとした痛みを感じてしまうのだった。


人の手が入っていない大自然の雄大な眺めや馬車での旅が珍しくて、最初は乗っているだけで楽しかったけれど、あまりにも変わり映えしない景色にすぐに飽きてしまった。

暇を持て余し過ぎて前世のなんとなく覚えている歌をめちゃめちゃに歌ってみたりもしたけれど、巻き上がる砂埃に喉を痛めて、観客が一人だけの寂しいライブはすぐさま強制終了となった。


ヨアニスはそんな私を笑った。街を出てからというもの、彼は解放されたかのように表情も豊かになってよく笑うようになった。

大抵はどこか不満そうな無表情かあるいは皮肉げに口元を歪めているだけなのだけど、慣れない私が何かしら失敗するたびにそれがおかしくて仕方がないらしく、思わずといったふうに吹き出しては俯いてくつくつ笑う。

まぁ、それはいい。気になるのは、声を出して笑った時に決まって気まずそうに肩をすくめて取り繕うことだった。まるで笑うことが罪だとでもいうように。


理由は隣にいてすぐにわかった。彼が大笑いした時チラリと見えた。歯だ。犬歯がある。いや、私にだって犬歯ぐらいあるけども、あんなに尖ってない。ぜんぜんそうは見えないけど、彼がヴァンパイアだというのは本当なんだとあらたらめて思った。


その美しい唇に真っ赤な血を滴らせたヨアニス。あの尖った歯で人の首に噛み付くんだろうか。獣のように。

つい想像してゾッとしてしまう。人間を糧とする化け物。そんなふうに断罪してしまえば彼との友情はここで終わる。それだけは嫌だった。


私はヨアニスがビターナに信頼されていて、孤児院の子供たちからも好かれていた事実を懸命に思い出そうとした。

『まとも』といっていいかわからないけど、ちゃんと仕事をしていて、貧しい子供たちのために寄付をして、馬が大好きで、ちょっとスパルタな彼。

社会に馴染もうと懸命に努力してるじゃない。彼にとってもこの旅は命懸けの仕事のはず。それでも請け負ったのは自分の人生を勝ち取るためだ。

ハーフヴァンパイアとして生を受けても、親がいなくても、不貞腐れることなく前を向いている。彼は立派だわ。とても立派だと思う。


なのに人前でまともに笑うことすら出来ないなんてひどすぎる。彼が不憫でたまらない。私はけがれのない透き通った水色の空を仰いだ。

私だけでも友達でいてあげよう。この世界の人種差別がどの程度なのかわからないけど、決してつまらない理由で彼を遠ざけるようなことはしないと誓う。


私は笑うのをやめて咳払いで誤魔化しているヨアニスを励まそうと、にっこり笑いかけた。「常に味方でいる」と伝えたかった。

しかし照れくさいのか、彼はため息をついて勘弁してくれよという顔でそっぽを向いてしまった。それでも少しは私の意思が伝わったんじゃないかと思う。


私の哀れみの視線からなんとかして逃れようと、ヨアニスは長い指を進行方向の斜め前方に向けた。

「ほら、見ろよ」

彼が指差した方向、熱気に揺らぐ荒野のブッシュの中に大きな角を持つ鹿のような動物の群れがいた。鹿というよりガゼルかしら。スラリとしたベージュの体をゆったりと動かして硬そうな草を食んでいる。

私は目を丸くして見入った。こんな荒れ果てた大地にも動物がいるのね。


ヨアニスによると鳥類も多く生息していて、中でも『七宝鳥』という美しい名を持つ鳥は、その名の通りの色鮮やかな長い羽を持っていて、少ない傷で仕留めることが出来れば高額で買い取ってもらえるらしい。

まあ、彼はハンターだものね。


まだ太陽が熱く輝いているうちに野営の準備に入った。

なるべく平たい場所を選んで幌馬車をとめ、ヨアニスの指示に従って大きめの石を集める。石はそこらじゅうにあるのに、なぜか良さそうな形の石はなかなか見つからなかった。

私がもたもたしている間に、ヨアニスは効率よく枯れた枝を拾ってひとまとめにすると、私の集めた石を使って焚き火の準備を済ませてしまった。


内心早すぎるのでは?と思っていたのに、さっきまで昼間と変わらない明るさだった荒野はいつの間にか眩いオレンジに染まっていた。ゆらゆらと真っ赤に燃える太陽が地平線の向こうに沈んでいく。


ヨアニスは馬車の荷台を探って小さな巾着袋を取り出すと、中身を一つつまみ出して焚き火の炎の中に放り込んだ。途端に炎の色が白っぽく変わる。興味津々で首を伸ばしたら、彼は笑ってその巾着を渡してくれた。

中を覗き込んだ。小石がいくつか入っている。摘み上げて良く観察してみてもその辺に落ちてる石となんら変わらない。ただ、なんとなくだけど石の表面に不思議な揺らぎが見えるような気もする。

私は眉を顰めた。この感覚、どこかで覚えがある。ひどく懐かしいような、つい最近再会したばかりのような。


ヨアニスは「『結界石』だよ。魔物が嫌がるんだ。あんまり効果は高くないけどな」と説明してくれた。

魔物除けのアイテムは数多くあるそうだけど、この小石はビターナが力を込めてくれた魔物除けの『聖石』なのだそう。ただしニムオン大陸の『聖なる水』のように時間が経つにつれてその効力も落ちてくるらしく、最初の目的地であるヒューマンの街に到着する頃にはただの石に戻ってしまっているんだそうな。


砂漠は日暮と共に急激に冷え込みはじめる。昼間とは打って変わって闇に包まれた荒野の風が寒風となって襲いかかるのだ。私は馬車から毛布を取り出してくるまり、焚き火の近くに置いた石の椅子に座って冷えた体を温めた。


そんな私とは対照的にヨアニスは薄着のままだった。まったく寒さを感じていないみたい。慣れた手つきでパンのかけらにハードチーズを乗せ、小鍋を火にかけている。

炎に照らし出された彼の顔は衝撃的なほど美しい。つい見惚れてしまう。花びらのような唇を動かして何か呟くと、鍋からカランと音がした。いつの間にか鍋の中に丸い氷あって、火の熱にあたってじわじわと溶けていく。


あれ?どこから氷が?もしかして、これって『魔術』なんじゃ。ヨアニスと目が合ったけれど、彼は肩をすくめただけだった。

「ねぇ、それ魔術よね?このせ…..世間じゃ皆んな使えるものなの?」

「え?…….いや、俺が使えるのは氷だけだよ。こんなんでも使えるやつはそういないだろ。魔術師から教わるには大金がいるからな。俺は……幸運だったんだ」

「そうなの?『生活魔術』ならすぐ覚えられるって聞いたけど」

「はぁ?ヘンレンスが言ったのか?」

「そうよ」

「馬鹿だな。あいつらは金持ちなのさ。お前をガーレンに送るぐらいなんてことない連中だぞ」吐き捨てるように言ってから私の顔色を窺って言い直した。「聖職者ってのは一般人とは違うんだよ」


彼は炙ったパンを私に押し付けてきた。黙ってろってこと?ただの質問じゃない。なんで怒ってるんだろう。

茶色いパンは相変わらず硬かったけど、チーズのおかげで塩味がついていて美味しかった。

メニューはチーズのパン一切れと干し芋とお湯。お腹いっぱいというわけにはいかないけれど、一年に渡るニムオン砂漠の極貧生活のおかげで苦ではなかった。


簡単な食事が終わって、焚き火の火が不規則にゆらゆらと踊っているのをただ見つめていた。

沈黙が続くと急に暗闇が恐ろしくなる。闇が心の中まで迫ってくるようで、私は不安げに闇の向こうを見つめた。

荒野の暗闇は恐ろしい。見えるのは焚き火の周辺だけだし、風の音が魔物の叫び声みたいに聞こえる。それでもヨアニスが慣れた様子でくつろいでいるのを見ていると、友人同士の気軽なキャンプにでもきたのかと錯覚してしまう。


彼と目が合った。その瞳は出会った時と同じように好奇心で輝いていた。黒い瞳に炎の熱を宿して。ついさっきまで不貞腐れていたのにどういうこと?なんだかわからないけど、そんな風に突然熱っぽい目を向けられるとドギマギしてしまう。せめて何か言って欲しい。そう思っていたら、彼が口を開いた。

「今日は疲れたろ?」思いがけないほど優しい声。「一日中馬車に揺られてたんだ。もう寝ろよ。明日も早いぞ」

私は天の助けとばかりに立ち上がって幌馬車の中に逃げ込んだ。


積まれている大量の荷物の間に潜り込み、毛布にくるまって目を閉じる。

眠りの国の使者はすぐさま私を迎えにきた。どんな所にいても一瞬で眠れるのは数少ない私の特技。百合子だった時、発展途上国のタクシーの中でついうたた寝してしまって仕事仲間に呆れられたこともあった。


「ユリ」

目を開けるとヨアニスの美しい顔が目の前にあった。彼は隣に寝そべって私の頭を撫でていた。慌てて飛び起きる。頭に手のひらの体温が残っている気がして思わず首を振った。猛烈に気まずい。

ヨアニスは気にするようでもなく起き上がると謎めいた微笑みを浮かべた。


今のはなんなの?痴漢じゃないの?それともこの世界ではギリギリセーフ?もしかして、それぐらい子供だと思ってるの?疑問が次々と頭に浮かぶけど、彼は平然とした顔で言う。

「悪いな。疲れてるだろうけどもう出発しないと」


唖然としているとサンドイッチを渡された。考える力を使い果たした脳みそが勝手に腕を動かしてサンドイッチを口に入れた。

あれ?これ、柔らかいお肉が入ってる。


驚いてパンの中身を見つめる私にヨアニスが笑った。「夜明けに草むらに仕掛けた罠を見に行ったんだ。うまいことかかってた。ネズミだよ。文句ないだろ」

「ネズミ?」

困った顔で言う。「嫌か?」

私は慌てて首を振った。「ううん、大丈夫。美味しいわ」

「そっか」

輝くような笑顔。朝日のように眩しい。つい見惚れてしまった。この美貌に慣れる日が来るの?美人は3日で飽きるというけれど、約束の日にちはとっくに過ぎてる。


全部食べ終わってから毛布をよけて四つん這いで外に出た。すでにあたりはすっかり明るくなっていて、野営の片付けも終わっていた。私が熟睡している間、彼は早起きしていつの間にか設置していた罠を確認したり、調理したり、片付けを済ませていたのかと思うと申し訳なくて恥ずかしくなった。


何か他に手伝えることはないかと見回してふと疑問に思う。ヨアニスは昨夜どこで寝たんだろう。もしかして私の隣?

そんな不埒な考えを見透かすように彼が私を見ていた。ニヤリと笑って首を振り、「乗れよ」と声をかけて御者席の方に消えた。私も慌てて幌馬車の中によじ登る。ほっぺはバカみたいに熱くなっていた。


初めての魔物体験は、翌日のまだ暗い早朝だった。犬の遠吠えが聞こえて飛び起きた。

ヨアニスは馬車の中にはいなかった。焚き火の側で寝ているみたい。私が幌をめくって顔を出したら、一言「出るなよ」と言い残して、野生動物のようにしなやかな動きで闇の中に消えていった。灯りも持たずに。


出入り口にかけられた分厚い布のせいで外の様子がわからない。顔を出すのさえ怖くてやきもきしながら聞き耳を立てていたら、彼はすぐに帰ってきた。

闇の中で一瞬だけ瞳が黄金色に反射した。ドキリとする。野生動物みたい。ヨアニスは俯くとそっけなく言った。「仕留めたぞ」


魔物は考えていたよりずっと多かった。

ヨアニスが薄闇の向こうから担いできたのは全部で6匹。狼とトカゲを合わせたような生き物で、この辺りではポピュラーな魔獣なのだそう。小柄だけど群れで襲ってくる厄介な魔物なんだとか。

これを全部彼一人でやっつけたの?ほんのわずかな時間だったのに。


ヨアニスは狼をじっくり吟味して、そのうち三匹だけを選んで血抜きをはじめた。吊るす為の道具を馬車から取り出すと手際よく処理をしていく。

初めて嗅ぐ濃い血の匂い。思わず吐きそうになった。口を抑えていると彼が振り向いて「馬車に入ってていいよ」と言ったけれど、私は首を振って断った。興味があったし、何よりこの生き物の死の責任が私にもある気がして、隠れているのは忍びなかった。


氷の魔術を使って空気中から水分を取り出して火にかけた鍋(食事用とは違うと信じたい)に水を溜め、よく洗ってから毛皮を剥ぐ。

ナイフ一本で手際よく脂肪と内臓を取り除いていき、綺麗に洗い流してから冷凍する。この状態で売れるらしい。狼の肉は食用ではないけど一定の需要があるし、毛皮も売れるという。


作業の間にハンターの仕事というものを簡単に教えてくれた。

実は凍らせずとも魔物は体内に濃厚な魔力を血液と共に巡らせている為、動物より腐敗が遅い。血も内臓も薬の材料として売れるから、大抵のハンターは魔獣を狩ると血抜きもせずにそのままハンター協会に持ち込むんだそう。だけど、ヨアニスのように氷の魔術を使えるなら凍らせたほうが新鮮だから査定も高くなるという。


協会では魔物解体のプロが請負ってくれて、査定額にそうした手間賃を差し引いた金銭を受け取ることができる。もちろん解体は済ませておいたほうが高く買い取られるから、ヨアニスは面倒でもやるのだという。ハンターって結構生々しい仕事なのね。


この旅では荷物の量も限られるという理由で今回は高く売れる部位だけを切り取って空の木箱に狼を放り込んだ。

手早く片付けを済ませると、ヨアニスは鍋の水の中から黒光りする尖った石を取り出して私の前にかざした。朝日に透けてほのかに輝いている。古代人として生を受けた日に備わった、別の『眼』には凝縮されたエネルギーの塊が小さく閉じ込められているのが視える。


「『魔石』があったよ。これじゃ大した額にはならないけどさ、こいつを見つけた日は今でも「やった!」て思うんだよな」

「綺麗なのね。魔力を感じるわ」

「ああ、そうだよ。魔力の高い魔物の心臓あたりにあるんだ。使い物になるぐらい大きく育った魔石は珍しいからさ、一応それなりに貴重なんだぜ」

「ふぅん。それも売るの?」

「売らないでどうするんだよ。欲しけりゃやるけど」

私は急いで首を振った。「ううん!いらない」綺麗だけど、心臓にくっついていたなんて気味が悪い。アクセサリーには使えないもの。


その昔、古代神人や闇の神々が生物兵器として創り出したとされる魔物。神々の戦争が終結した後も野に放たれたまま繁殖して独自の進化を遂げるに至った。

体内の魔石は成長とともに強化されるそうで、魔力が蓄積されると魔物本体をより強い生命体に進化させると言う。現代でもその仕組みは解明されていない。まさに神秘の石なのだった。


彼は期待を込めて言った。「もしかしてユリは魔術を使えるのか?『魔石』は魔力を取り出して使えるんだよ」

私はため息をついた。「それがね、ヘンレンスさんが練習を禁止したの。呪文っていうのかしら。古代語の歌は覚えたんだけど、唱えた途端暖炉が爆発したの。軽くだけどね。それで制御できるようになるまでは絶対使うなって言われちゃって」

彼は肩をすくめた。「そういうことか。そのすごい魔力量じゃ制御も大変なんだろうな」

「本当は使えると思うの。実はこっそり練習してたから」

「よせよ。魔術ってのは怖いんだぜ。俺だって使いこなすまでに指を失いそうになった事が何度もあったんだ。ユリの魔力が暴発したら指じゃあ済まないぞ」

「残念だわ」

彼は眉を顰めて神妙な顔つきで言った。「絶対やめろよ。練習も禁止だ。いいな?」

「わかってるってば。ヘンレンスさんにも怒られちゃったし」


ヘンレンスさんが魔術に関して語学以外で教えてくれたのは『瞑想』だけだった。

これを地道に続けていると続けているとそのうち自然と魔力の使い方が身につくんだそう。しかし、うまく意識を無にした時に感じる、世界と一体になったような奇妙な感覚には未だに慣れない。肉体の感覚が希薄になって、体から魂が飛んでいってしまう気がするのだ。


お昼休憩で少しだけ狼の肉を食べさせてもらった。

魔物のお肉は高級食材なんだそうで、多くの魔力の宿る魔物のお肉は滋養強壮に効果があると信じられている。味のいい魔物はお金持ちや貴族が高額で買い取るんだそうだ。


町ではとても食べられない高級お肉に期待してかぶりついたけど、かなり硬くて正直美味しくなかった。食用にならないと言うだけあって獣臭いし、固くて変な味がした。ネズミの方がよっぽど美味しい。


食が進まない私に「虫系にはかなり美味しいのもいるよ」なんて言うもんだから吐き出しそうになった。「絶対食べないからね!」と全力で拒否したら、「エビと大して変わんないだろ」なんて不思議そうに返されてしまった。


え?エビって虫なの?そういえば姿は似てるかも。

頭に浮かんだ恐ろしい疑問を慌てて振り払う。ヨアニスは遠慮なく笑った。牙を隠さない年相応の可愛い笑顔に、私の心臓はバンビみたいに飛び跳ねた。

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