第3話 亜海
視界いっぱいにPROギアの画面が広がる。そして何よりも体が重い。
「なんだ?」
PROギアを上げると、
「やっほー! 康晴! 私と一緒にゲームしよ!」
「……なんで?」
というか、切断厨と認定されたらどうするんだよ。それでなくても、切断した側にはペナルティが発生するので、デメリットしかないのだが。
ちなみに切断された側にはいくつかのメリットがあり、少ないがGpやC、経験値がもらえる。
そればかりか、白熱した試合を中断されたのだ。
誰だって苛つく。
「亜海。回線の切断は人を不幸にするんだぞ!」
「そう言われても、でも……最近全然遊んでくれないから……」
不満そうに頬を含ませる亜海。
いや、そんな顔をしても、心中穏やかではいられないからな。
俺はご立腹モードだからな。
「だから、私もそのゲームで遊ぶ!」
はぁ~とため息を吐く。
「そもそも、なんでお前は家にいる? 俺の部屋にいる?」
「え。だって、康晴の家はいつも鍵をポストに隠しているじゃん!」
ああ。そうだったな。
「で。ゲームをしたい? こんなゲームを、か?」
「ええ。って、それを康晴が言う?」
くすくすと笑い出す亜海。
確かに亜海からして見れば、そう見えるんだろうな。
俺のしていることなんて分からないのだから。
死んだ妹、
「ねぇねぇ! これでしょ? 《スキア・スレイ・ファンタジー》」
亜海はパッケージ版のディスクを指さす。
「はぁ~。ああ、それだよ。通称SSF。剣と魔法の世界で王道だな。システムや魔法にクセがあるのが特徴かな」
正直って普通のファンタジーゲームと大差ない。
あるのは
それに魔法の種類である。百を超える魔法はその属性、種類、発動時間、初速、クールタイム、継続時間など。様々な特徴があり、初期魔法でも使い方しだいでは相手の足止めに使える。
あとは
とはいえ、やりこめばやりこむほど、Cの消費も大きくなる。公式PvPでも先にCを支払うことになる。
「……と、後は中に入って、実戦で身につけるのがいいだろう」
「クリスタル……Gp。なんとなく分かった! やってみる!」
いったい今の説明で何が分かったのだろうか? 不思議に思いつつ、PROギアへのインストールを開始する。
「でも、なんでそんなにはまるものなの?」
亜海は首を傾げ、問う。
「VRMMOの一番の楽しみは自由度の高さにある。だから人によって面白さが違うのはしょうがないかな」
VRならリアルな仮想空間で思う存分、暴れることができる。
”痛覚遮断処置”と呼ばれるシステムサポートにより痛みはほぼ感じないし、何度死んでも蘇るのだから、多少無理をしても問題はない。
そうなれば、現実では不可能な自分になれる! そういった魅了は多いにある。
それにSSFはGpシステムのお陰で生産職や
「まあ。やってみないことには面白さも分からないかな……」
それこそ、人の数だけプレイスタイルがあるし。
「へぇ~。いろんなことができるんだ! あ! インストール終わったよ!」
PROギアのランプが緑色になっている。
「みたいだな。じゃあ、始めるか」
「うん! 楽しみだな~♪」
俺と亜海は頭にPROギアをかぶり、呟く。
「ゲーム・スタート」
「……ってあれ? 起動しないよ?」
私は康晴に訊ねます。
でも返事は返ってきません。
その代わりにPROギアの画面に【キャリブレートを開始します。】と表示されてます。
「きゃりぶれーと?」
画面には右を見るや左を見るといった様々な指示がでます。中には手を挙げてください。足踏みをしてくださいといった指示もありました。
その通りに動くと、画面端にある脳波計やキャラクターが動きます。赤い点や青い点がありますが、何を示しているのかは分かりません。
それでも数分後には全てのキャリブレートが終えたようで、ようやくVR空間に飛ばされました。
殺風景な白い部屋にパソコン用のキーボードと様々な選択画面、説明などがぎっしり書かれています。
そのほとんどが、VRゲームならではの注意事項でしたが、キャラクターメイキングやニックネームの入力に手間取ってしまいました。
そして、康晴のいる世界へと飛び立つことができたのです。
「遅いな……」
切断ペナルティにより、CやGpを消費しただけでなくデバフまでかかった。
これからは絶対に切断しないと心に誓い、中央広場にある噴水の手前で待つ。
ここならベンチもあるし、初心者の初期リスポーンでもある。
恐らく、最初のキャラメイキングやらなんやらで時間がかかっているのだろう。
ちなみにチュートリアルはこの広場にリスポーンした後になる。スキップすることも可能だし、仲間をつれて受けることも可能だ。
どうせなら、俺もついていた方がいいだろう。
そう思いココナッツミルクを飲みながら待つ。
ほぼ全ての感覚をコンピュータに預けているだけあって、ミルクの甘みもしっかりと感じることができる。
最近ではVRダイエットと言い、好きな食べ物はVRで食べ、リアルでは食事を控えるそうだ。
VR技術は医学や医療、職業訓練などにも活かされており、最初こそ嫌厭されていたが、今では社会の発展に貢献している。
などと、雑談に思いを馳せていると、目の前に白銀のふわふわとした髪をした少女が現れる。初期装備だし、周囲を珍しそうに見渡すことから初心者であることは明白だ。
「失礼。俺の好きな食べ物は?」
「カツ丼!」
少女に訊ねると、元気よく返ってきた。
「じゃあ。亜海か?」
「康晴ってゲームでもコウセイなの?」
「ああ。そうだよ」
今時、実名でネットゲームに参加するのは珍しいだろう。
実際に別のネットゲームをやる時は”ジークフリート”や”エウロパ”など。自分の名前とは全く関係のない名前を使うことが多い。
焦点を少女、亜海に合わせるとカーソルと名前が表示される。
「……ジーク? 変わった名前だな」
「えへへ。康晴がよくつけているジークフリートからもじってみたよ♪」
「お、おう。そうか」
その名前だと男っぽいがいいのだろうか?
余談だが、人の脳を解析するVR技術では、潜在的無意識により男女の区別がされる。つまり、自分が男だと認識と男のアバターになり、女だと認識していると女のアバターになる。だから性同一性障害などでない限りは性別を誤魔化すネカマはできないのだ。
「しかし……」
初期装備はどうしても貧相だ。
布きれを身に纏い、その上に革製の服を羽織っている程度だ。色合いも地味で、茶を基調としている。
「最初の内はレベル上げとC稼ぎだな」
「うん。分かった! それでかわいい服が買えるんだね!」
「ああ。それに楽しみ方も分かってくるかもな」
習うよりも慣れろ! をモットーにしている俺からしてみれば、試行錯誤する時間も楽しいのだ。
攻略サイトをみて効率良く進めていくスタイルもあるが、亜海も楽しければそれでいい、と。楽観主義だし。
「とりあえずチュートリアルだ。それで初期アイテムがいくつかもらえる」
「なるほど! で、どうしたらいいの?」
「腰にあるスイッチを押してみろ」
「こう?」
亜海がスイッチを押すと、目の前に半透明のモニターが現れる。
「これでチュートリアル開始だ!」
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