第22話 攻城戦終了後
「どう、なった……?」
恐る恐るシュティに訊ねる。
ジークが抱いていた香弥が消えていく。
「……分かりませんわ。あなたの端末へアクセスしてみないと」
「それにはログアウトが必要だね」
ジークが急いでコンソロールを操作する。
『おめでとうございます! ギルド”コウセイ”さん! よければご感想をお聞かせ願えますか?』
実況をしていたアナウンサーが問う。
「ここはジークに任せた。俺とシュティはリアルに戻る!」
「え! ええ~!!」
ジークの目の前にアナウンサー用アバターが現れる。
『それではこの”田舎のお城”を占拠したご感想を!』
「ええと。その、嬉しいです?」
俺とシュティはすぐにログアウト。
現実世界に戻るとスマホ片手に、ゲームにつないだパソコンに向き直る。
「端末……ってこれだよな?」
ブラウザのいくつかを閉じ、デスクトップを確認する。
フォルダ”204605291602-04.zip”
見たことのない圧縮フォルダ。これか?
右クリック。プロパティ。
スマホがシュティとつながる。
「どうなっている。プロパティが確認できなぞ?」
『圧縮したけど、それでも数テラバイトにはなっているはずよ』
顔を抑え、一つ嘆息。
「そりゃ、最新AIだからデータ量も半端ない訳か……」
『ええ。もしかしたら、あなたの端末の空き容量を超えているかもしれないわ』
「……それって、中途半端に転送された可能性も」
電話越しに重いため息。
『……そうよ。下手をすれば、削除された項目もあるかもしれないわ』
プロパティの容量17T
「重すぎだろ……。でもどうすれば香弥だと確認できる? それに、現実世界には持ち込めないよな?」
『ええ。妹さんの人格がどこまで反映されているか、その確認には同じコンテンツでの解凍・展開が必要だわ。現実世界へ、は現状は無理ね。ただ……』
「ただ?」
その声にどこか自信があるように思えて訊ね返す。
『いえ。なんでもないわ。とりあえず、SSFでの展開を試みるしかないでしょうね』
「……そうか。分かった」
『その前に、アタシに預からせてくれないかしら?』
息を呑む。
「どうするつもりだ……?」
『これでもアタシ、個人研究施設を持っているの。そこで圧縮フォルダの解析。場合によっては展開可能な環境も整えるわ。少なくとも、コウセイの家よりは安心・安全よ』
確かに俺のパソコンではデータ容量が大きすぎる。全体の八割を独占している。
空き容量はたったの14
そのせいか動作が遅い。セキュリティにも問題がある。
「電源を落としても大丈夫なのか?」
『ええ。問題ないわ。アタシは近くの駅までいくからパソコンごときてちょうだい』
「分かった」
未だに成功したのかも分からない訳か。
シャットダウンを待っている間に、シャワーを浴び、着替える。
これから人に会うのに、ボサボサヘアのジャージで行くわけにもいかない。
冷や汗を流し終え、気分も少し晴れた。
「さて。どうしたものか」
大型パソコンを持っていくのには、それなりに大変だ。
電源からHDまで、すべて自作したパソコンだ。市販品ならば、確実に容量オーバーしていただろう。
パソコン本体を緩衝材とともに段ボールに詰め込み、自転車の荷物置きにしっかりとくくりつける。念のため、五回ほど。
「さてと。行くぞ」
気合いをいれ、自転車のペダルを押し込む。
「あいや! ちょっと待ったー!」
目の前に立ちはだかる女子。
「なんだよ。亜海。邪魔しないでくれ」
「私もついていく! 康晴一人じゃ心配だもん!」
「俺はあんなに強かったじゃないか」
「ゲームの中だけでしょう? リアルの康晴は鈍くさいじゃない」
「ぐっ!」
痛いところをついてくる。
幼稚園の運動会からずっと最下位争いをするってのを知っているだけのことはある。
それにここで断ったら、あとが面倒そうだ。
「分かった。でもこれは遊びじゃない。大人しくしていろよ」
「言われなくても。私も大人ですし!」
俺たち、まだ十六なんだけど? 世間的には
そんな言葉は説教されそうなので呑み込み、亜海と一緒に駅前に行く。
雑踏であふれかえる駅前。
丁度、下校時間と重なっているせいか、人口密度も高い。
若干の息苦しさを覚えつつ待ち合わせの場所、銅像前でシュティを探す。
「あら? あなたがコウセイね?」
後ろから甘く囁くような声が耳朶を打つ。
驚いて飛び退き、距離をとる。
着地。
グキッ!
「あっ!」
足首に痛みが走る。
「何をやっているのよ。康晴」
涙目の俺をジト目で睨む亜海。
「あら? あなたはコウセイの彼女さん?」
小柄な体躯の、金色のショートヘア。見た目年齢は十五・六。服装は大人っぽいが、正直子どもが背伸びをしているようにしか見えない。
しかし、俺を”コウセイ”と呼んだ。そして先ほどのスマホ越しで聞こえた声音。
「シュティか?」
「問われるまでもなく」
シュティはスカートの端をつまみ、丁寧なお辞儀一つ。
「え! う、嘘!?」
亜海は驚きのあまりポカーンと口を開けたまま固まる。
未だ足首を押さえていた俺も立ち上がり、頭を下げる。
「こんにちは。俺は
「ええ。アタシはシュティこと、
大人っぽい言葉遣いと、子どもっぽい見た目が壊滅的に合っていない。
そんな印象を抱きつつ、
「ええと。唐屋敷さん。こちらはジークもとい」
「
敬礼をする亜海。
苦笑しつつも、シュティは手を差しのばす。
「こんにちは。麻倉さん」
握手した二人。
シュティはこちらに向き直り、握手を求め、応じる。
「アタシのことはシュティでかまいませんわ」
「ええと。はい。シュティ」
ネットネームをリアルに持ち込むのは本来マナー違反だが、相手が求めるなら応じるべきだろう。
しかし、何歳なんだろうか? 研究所を持っていることからしても大学院を卒業しているはず。最低でも二十四。博士なら二十七。それに加えて、オヤジと一緒に研究をしていた期間がある。
最低でも二十七。もしくは三十か。
「あら? 何を気にしているのかしら?」
「ええと。本当に研究者さんなんですよね?」
「え! 研究者!? シュティが?」
亜海がオーバーなくらい驚く。
「ええ。アタシは確かに研究者よ。志摩博士は大切な恩師でした」
またその名前か……。
辟易とした気持ちを隠し、問う。
「そうですか。……どうします?」
「アタシについてきて。アタシの研究施設に案内するわ」
自転車を駐輪場に置き、パソコンをかつぐ。
俺以外は全員女子だしな。でも足首はまだ痛い。これは腫れてそうだな。
IC乗車券を手に、駅構内に向かう。
電車に乗り込み、六駅。バスでさらに三十分。
視界に大きなドーム状の施設が見えてくる。
「あれがアタシの研究所よ」
「ホント、なんだ……」
かじりつくように窓にへばりつく亜海。
子どもか!
「しかし広いな……」
「ええ。おおよそ四万平方メートルありますわ。東京ドームと同じくらいです」
「人工知能の研究はそんなに土地が必要なのか? てっきりパソコンさえあればいいのかと」
「そうですわね。守秘義務があるので詳細を話せませんが、あそこには量子コンピュータや冷却システムなども併設されますわ」
「ああ。その維持・管理で規模がでかくなるのか」
「……どいうこと?」
頭に疑問符を浮かべる亜海。
「量子コンピュータは液体窒素などで冷却しながらじゃないと使えないんだ。だから冷却するための施設も必要になる」
「なんだか、面倒くさいね」
本当に理解したのだろうか?
シュティと顔を見合わせると、苦笑していた。
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