第21話 三十分間の戦い 後編
「くそっ! 離れろ!」
オブジェクトになったシュードが重荷になりユウが苦戦する。
死ぬ前にうまいこと腕を絡ませたらしい。
死体オブジェクトはおおよそ一分間、その場に残る。その後、光の粒子となって砕ける。
一分間の間に三千円する【
そう。復活できるのだ。
「”不死鳥の羽”を実行! 甦れ! シュード!」
ポケットに手をつっこみ【不死鳥の羽】を消費。
「ボ、ボクは……」
蘇ったシュードはすぐさま、ダガーでユウを突き刺す。
「ぐっ! こいつ……。先にいけ!」
それを見届けると、追い越そうとするバウの前にたちはだかる。
「いかせるか! お前の相手は俺だ!」
剣の柄を強く握り、システムアシストの働いた剣劇を繰り出す。
バウは槍を捨て、短剣を取り出す。
「これを使わせるとは!」
声を張り上げるバウが、切先を短剣で受け止める。
「ちっ! これが本命かよ!」
俺の持つ魔剣”クロノス”は大剣に分類される。その大きさに見合う威力と破壊力を持ち合わせているが大技になり、攻撃前後の硬直も大きい。
一方で短剣は取り回しが良く、威力は小さいものの、硬直が小さいので連続攻撃を得意とする。
どちらも一長一短ではあるが、その特性を知っている者が有利になる。知っている者同士なら、確実に短剣が有利になる。
なぜなら、
「く。押し込まれる……」
「捌ききれないだろ? 大剣じゃな!」
そう。手数で押されるのだ。
大剣の取り回しでは簡単に動きの予測がついてしまう。
そのため、防戦一方になるのは必然。
だが、俺が求めているのは
「シュティまだか!?」
『もう少し! 今、コウセイの端末へダウンロード中!』
残り時間は?
「あと十分か……」
「その十分で形勢逆転といきますか!」
「ばいなら~♪」
リリィがバウに支援魔法をかけたあと、城に向かっていく。
「突破された! ジーク!」
『応戦するよ!』
「はっ! ジークってあの80くらいの雑魚か。おれっちは95以上なんだよ!」
そう。20のレベル差は大きい。とはいえ、
「そこがVRMMORPGの面白いところだよな!」
「……はぁ?」
「VRってさ。何もレベルだけが全てじゃないんだわ。人間の身体能力、電気信号のやりとり。そういった違いが生れる」
「何を言いだすかと思えば、笑わせてくれる! そんなのシステムアシストにより誤差と判定される」
「それはどうかな?」
にやりと笑みを浮かべ、クロノスの力を使う。
”クロノス”
父殺し、子殺しの魔剣。
瞬間的に加速した思考が、視野を広げる。
バウの剣劇に対し、同等か。あるいはそれ以上の速さで剣を振るう。
「な、何!? その剣はなんだ?」
「レアドロップだよ。神々を殺した時の!」
剣劇で押され始めたバウは顔をしかめ、アイテムを取り出す。
”加速ポーション”
一定時間、全ての動作を早める。
「悪いな。俺も持っているんだ」
こちらも加速ポーションを使い、加速する。
「くそっ! 効果が重複するのか!」
「いいや! まだだ!」
Gpで加速度を購入。使用。
加速度的に剣の軌道が早まり、バウの短剣を宙に飛ばす。
「ま、待て。たかがゲームじゃないか! や、やめてくれ!」
「命乞いか。こっちは本当の意味で命がかかっているんだよ! 妹の!」
剣を横薙ぎに振るい、胴体を切り裂く。
クリティカル。
バウはエフェクトを残し、オブジェクト化する。
「よくも!」
シュードを振り切ったユウが猛突進してくる。
ひらりとかわし、その背中に深々と剣を突き刺す。
「……悪いな。邪魔させる訳にはいかないんだよ」
ダメージエフェクト。
もう一撃。
ダメージエフェクト。
三度、一閃。
ダメージエフェクト。
「さすがに硬すぎるだろ……」
「へ。そこらの奴らとは鍛え方が違うんでね」
「そいつは良かった。なあ、シュード」
「へい!」
シュードはダガーを突き刺す。
ダガーは短剣に分類される極めて貧弱な攻撃力だ。だが、
「毒……か!」
ユウがうめく。
予め、毒薬を剣に塗ることで、その状態異常を与える。
”毒”は最大HPの5%を毎秒ごとに減らしていく。つまり20秒後には死ぬ。
普通はステータス回復系ポーションを持っているはずだが、
「な、ない!? なぜだ?」
ユウは自分のインベントリを確認するが持っているはずがない。
それは先ほど、俺がGpで購入してしまったのだから。
「一度でもフレンド登録をしたのが仇となったな」
苦笑し、目の前でポーションを破棄する。
「く、くそ! お前、えげつない奴だな!」
「なんとでも!」
俺はユウの首根っこを摑まえると、遠くに飛ばす。
「シュード頼むな」
「へい!」
この場はシュードに任せ、俺はシュティのもとへ向かう。
あちらにはリリィが向かったはずだ。
急がないと、邪魔をされてしまう。
加速ポーションが効いているお陰で、いとも簡単に最奥部に辿り着く。
ジークがシュティと香弥を庇っている。
「どうやら、他の方々は負けてしまったようね~♪ 時間も残り少ない」
リリィはこちらを一瞥すると、シュティに向き合う。
「背を向けるとはいい度胸だ!」
リリィの背中に切先をつきさーーらない!? 手ごたえがない!
後ろから熱波が飛んでくる。
「火炎魔法か!?」
背にダメージを受ける。振り向き、剣を構え直す。
「あら? 気づいたのね~♪」
「幻惑系魔法だろ。一時的に当たり判定のない虚像を生み出す」
「あら。そこまで分かってしまうのね~♪」
リリィは続けざまに火球を放ってくる。
アースウォール。
土壁で火球を受け止めると、光の剣を持つリリィが横合いから切りかかってくる。
とんとん。
バックステップで回避。
直後、リリィの足元にアーススピアが発生。
幾重にも重なった槍がリリィの半身を貫く。
「あら。いっぱい食わされましたわ♪」
「いつまでも楽しそうだな」
たまったイライラをぶつけるように吐き出す。
「ええ。楽しまなければゲームではないでしょう? 違いますか?」
「……違うとは言えない。が、俺にも譲れないものはある!」
剣を逆手に持ち替え、もう一方の手でワイヤーフック。
この仮想世界のバグを、俺は知っている。
本来なら、そのバグは運営に報告すべきものだったが、あえて俺は隠してきた。そして、封印してきた。
残り時間は、六分。
「やるぞ! 地獄の六分間を!」
「な、何をする気ですの?」
リリィの顔に緊張の色が見える。
ワイヤーフック。
かぎ爪のついたワイヤーがリリィをからめとり、引き寄せる。
近づいたところを斬撃で吹き飛ばす。
「きゃっ!」
ついでワイヤーフック。
引き寄せては、斬撃。
引き寄せては、斬撃!
引き寄せては、斬撃!!
「きゃぁぁぁぁぁ!」
女性特有の甲高い悲鳴がこだまする。
HPがゼロになるまで続く連続攻撃。
ワイヤーを放つ瞬間と斬撃の一瞬。その間は無敵時間になる。
つまり、もし仲間がいてもこの攻撃は止まらない。
ちなみに俺自身も止めることのできない悪魔の連続攻撃。
相手が死ぬまで続く処刑時間。
「くっ」
「きゃっ!」
「ひっ!」
「まだまだぁ!」
まだだ。リリィのHPは未だに半分に至ってない。
四分。
「まだか? シュティ!?」
「あと2%!」
三分。
二分。
「終わったか!」
「……分からない」
「なぜだ!?」
「仮想モニターがホワイトアウトしたわ!」
一分。
「何!? それはバグか?」
「ええ。そうだと思う」
受け身の硬直がいつまでも解けないリリィはコマ回しのように、くるくると回転し続ける。俺と壁の間を。
【攻城戦 終了!】
【ギルド”コウセイ”が”田舎のお城”を死守しました!】
「終わった、のか……?」
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