第20話 三十分間の戦い 中編
「ちっ! 硬いね。あんた」
俺は魔道士を蹴り、剣を引き抜く。
「さすがにコウセイさん、マスタングさん相手に対策しないわけないでしょ」
魔道士は苦痛で顔を歪め、杖を振るう。
それを跳躍でかわし、距離をとる。が、それが徒となった。
火球が目の前に飛び込んでくる。
「”クロノス”!」
魔剣の能力を発動する。
尋常ではない速さで火球をかわし、魔道士の背後をとる。
剣を振るい、投げ飛ばす。
吹っ飛んだ魔道士。その先にいるマスタングが一撃で胸を貫く。HPが消し飛ぶ。
「人の獲物に手をだすなよ」
「んなの知るかよ! それより見ろ」
顎で指し示す。
「プレイヤーが引き下がっているな……」
多くのプレイヤーがリスポーン地点である控え室から出ようとしない。
あの位置だと弓矢や魔法の攻撃はできない。かといって、接近すれば城の守りは手薄になる。
「どうする?」
「誘っているかもしれねーな。だが、時間を稼ぐなら、こっちが有利になるだけあdろ?」
「ああ。十五分、守り切れば勝ちだ」
時計を一瞥し、周辺マップを注視する。
音声チャットをオンにし、
「シュティ。状況は?」
作業の邪魔になるかもしれないが、今くらいしか余裕がない。
「データをリンクさせたわ。金剛自身のプログラムはコウセイのパソコンに保存されるよう、設定したの。ただ……」
「ただ? なんだ?」
言葉に詰まるということは悪い情報なのだろうが、焦りが続きを促す。
「仮想世界と金剛の人格プログラムの切り離しがうまくできないの。このままだと、人格の一部が削除されてしまうかもしれないわ」
「なに!? なんとかならないのか?」
「今やっている!」
互いに焦燥から、声を荒げてしまう。
音声チャットを閉じると、
「ああ。もうくそっ!」
苛立ちがつのる。
「なんだか知らねーが、やべーぞ!」
マスタングの声も心なしか荒い。
「なにが?」
言いながら、マスタングの指し示す方を向く。
大型の木製の枠組み。その中心には金属の大きなフライパンのようなもの。縄やバネがところどころに見え隠れしている。
「”投石機”だ! あいつら、城壁破壊アイテムの量産をおこないやがった!」
「いや、時間が短くなると無料で配布されるのかもしれない」
迂闊だった。
プレイヤーが飽きないように運営側もなにか支援を行うとは考えていたが、一回線目から行うとは思ってもみなかった。
「ジーク! 退け! シュティの援護!」
「オレらはどうするよ? コウセイさんよぉ?」
焦点を投石機に合わせる。HPゲージの表示を確認。
「マスタングは投石機の破壊。その周辺のプレイヤーの排除。俺は城門の防衛に回る」
「おいおい。オレに死んでこい、と?」
「いいや、破壊してこい」
「はっ! 言うに事欠いて」
マスタングは一直線に投石機に走り出す。
それを見計らったかのように、別方向から敵影。
数、五。
「コウセイ! 許さないぞ!」
「ユウか!」
後ろにはリリィやバウもいる。
ガチ勢のお出ましという訳か。しかもゾンビアタック。
俺は魔法を唱え、剣で斬りかかる。
盾で防ぐユウ。その両隣を抜けていく二人の男女に魔法を放つ。
ダメージエフェクトが表示された二人は、一瞬距離をとり身構える。
「……は? なんのダメージもねぇ」
「ワタクシの耐性の高さを見くびっていたようですわね
「お前らは先に行け!」
ユウが盾で抑え込んでくる。
そのまま二人は抜ける。
チャットを開き、叫ぶ。
「二人抜けた! 城内に向かっている! マスタング以外は迎撃用意!」
『了解』『分かった!』『……』
バウとリリィが後方から襲いかかる。
「くっ!」
バウとユウの波状攻撃。そこにリリィの支援魔法。
「こいつら!」
連携の高さなら、間違いなくトップクラスだろう。
少なくとも俺たちの寄せ集めのギルドにはない戦術だ。
「まさか、これを使うとは思ってもみなかった!」
剣が肩を切り裂き、エフェクトが走る。
ついで、後方に控えていたバウの切っ先が飛んでくる。
剣を交え、火花を散らしながら弾く。
火球が上空に出現。俺を捉え真っ直ぐに落ちてくる。
Gpで買った火球を取り出し、投げつける。
火球と火球がぶつかり合い、激しく爆発する。
その熱波に煽られた俺は必死で踏みとどまるが、
「はっ! 軽いな!」
装備品には重量設定がある。本来なら筋力パラメータが高くないと装備できないそれは、瓶書生の低下をまねく。
が、この状況では総重量の軽い方が不利。
ユウは爆風の中でも余裕の笑みで、斬撃を放つ。
足の力を抜き、わざと空へ舞う。
斬撃は間一髪でかわせたもの、視界が五・六回回転する。
気持ちが悪い。
乗り物酔いでもしたかのような気分の中、受け身をとり、立ち上がる。
後方で重低音。
一瞥すると、放たれた大岩が城壁にめり込んでいる。
大丈夫。あそこなら問題ない。それにジークは逃がした。
続いて二発目の大岩。
「何やってんだよ! マスタング!」
『ちっ! うるせぇ!』
「遅い!」
「ユウか!」
目の前に迫った白銀の盾を足で止め――やばい!
跳躍。
爆発。
その爆風も相まって飛翔能力が高まる。
着地。
「やったか?」
黒煙の中から銀色の光が見える。
「まだかよ!」
「いや~。見事な攻撃だったねぇ。コウセイ」
直後、ユウの盾の内側に岩の槍が出現。
”アーススピア”
その槍を難なく破壊するユウ。
「油断しなければ、この程度」
「硬い……」
今までのプレイヤーとは比較にならないほどの堅さだ。
未だにユウのHPは九割を保っている。
剣。アイテム。魔法。
どれを使っても、その耐性の高さで防がれる。
俺とは違い、βからプレイしているβプレイヤーなのかもしれない
汗が伝う。
ユウの後方からリリィとバウも姿を現わす。
正直、期待はしていなかったが、リリィとバウへのダメージはゼロ。無傷。
タンク。攻撃。支援。
優秀なギルドメンバーだ。
「コウセイ。お前は強いよ。ただおれらを舐めてもらっては困る」
「はっ。舐めたつもりはないんだがな」
「ならなぜ全力でこない? 仲間は? なぜ一人で戦う」
「……俺はソロでいた時間が長いからな」
コロセウムでPvPばかり行っていた奴だ。そう簡単に仲良くできるプレイヤーなどいない。そればかりか、反感や怒りを買うことの方が多い。
ゲーマー。特にガチ勢は一人の人間が活躍する傾向が強い。
英雄なんていらない。
自分にとって損か得か。その二択が存在するだけ。
俺も自分の得だと思った選択をしただけ。
それが巡り巡って今の状況を作っている。
「頼れる仲間がいないなんて……可愛そうな奴」
ユウは剣を振り下ろす。
HPは?
83
終わった……。
目を瞑る。
カキン。
金属音。
……痛みが、ない?
瞼をゆっくり開けると、目の前にはダガーで抑え込むシュードの姿。
「お、おい。お前何しているんだ? 城内の守りは?」
「やるだけのことはやった。あと、僕にはこれくらいしかできない」
「でも、なぜ俺を? マスタングではなく?」
「マスタングは遠すぎる。それにキミはあの子が大切なんでしょ? あのシュティさんも、大切なことをしている」
「あ、ああ。そうだが……」
ユウは「あの子?」と眉をひそめる。
「命が関わっているなら、なおさら、死なせない!」
シュードはダガーを強く握りしめる。
「命? たかがゲームで何を言っている!」
ユウも剣に力をこめる。
「……ありがとうな」
俺は剣を構え直す。
黒く輝く切っ先。
マナポーションの使用でマナゲージを回復。
「ぬっ……」
「弱い!」
「シュード!?」
剣がシュードに突き刺さり、HPが削れていく。
剣を引き抜くと、倒れ込むシュード。
目の前で死体オブジェクトに変わるシュード。
「こいつ!!」
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