第25話 金剛型AI
攻城戦から四日後の日曜日。
俺と亜海はシュティに呼び出され、研究所にいた。
「それで、解析はどうなっているんですか?」
「それが解析不能なロックがかけられているのよ」
金剛の解析には未だ至っていないということか。
「なら、どうして俺たちを呼び出したんです?」
俺としてはSSFの、もしかしたらもっと上の者に監視されているのだ。
本当はこうして会うのは危険なのかもしれない。
「十桁の暗証番号になっていることまでは突き止めたのよ。コウセイや麻倉さんには心当たりがないかしら?」
モニターにはソースコードと一緒に暗証番号を打ち込めるようになっている。
「それなら、手当たり次第に打ち込んだり、それこそ解析すればいいんじゃないんですか?」
「それが最新のセキュリティシステムが採用されているの。一度でも間違った数字を打ち込むと、全データが消去されるわ」
最近のサイバーセキュリティシステムはAIによる学習と補正がかかる。
プロであるシュティになら解析できると思ったが、オヤジはやはり希代の研究者だったようだ。
「……私。心当たりがあるよ」
「「え!」」
控えめに座っていた亜海が力強い目を上げる。
「……どうして、そう言えるのかしら?」
「俺もそう思う。はっきりってオヤジは無口だったし、十桁だと誕生日や記念日ってこともないだろう」
「攻城戦のあとインタビューがあったでしょ」
「ああ。亜海に任せてしまったな。すまん」
「その時の賞金が、ええとクリスタルが丁度十桁だったの。しかも変な数字だったよ」
「……攻城戦の攻略を前提としたシステム、ということか? そんなの……」
「でも、確かに金剛も攻城戦でしか会えなかったわ。可能性としてはありえるわね」
シュティはパソコンに向き合い、打ち込む準備を始める。
「一度でも間違えたら消去されるのでは?」
「そうね。でも研究者には感で動くのも必要なのよ」
「そんな曖昧な……」
とても研究者とは思えない発言。
いや、そもそも金剛という特異性があるのだから、あながち間違いではないのかも。
「少し待って」
亜海はスマホを操作する。
きっと攻城戦の時の記録でも探しているのだろう。勝利の
「ちょっといいですか?」
シュティに近づき小声で訊ねる。
「何かしら?」
「あの、この研究施設のサイバーセキュリティは高いですか?」
「ええ。そこらの軍事施設よりも強固よ」
それってオーバーセキュリティな気もするが、今はそれくらいでいいか。
「SSFからの変なメール。きました?」
「メール? 攻城戦の話かしら? でも変?」
頭を巡らせ、周囲を確認。
「実は脅されているんです。おそらく金剛がらみだと思います」
「……そう。なら
「魁……?」
「ええ。アタシやあなたの父のセカンドチーム。AIの最先端を目指していた研究チームよ」
「目指して
「……AIの開発プロジェクトから降ろされ、今は別の研究を行っていると聞くわ」
「そうですか。なら恨みを買っている可能性も」
「ええ。間違いなく買っているでしょうね。アタシの個人的な意見だけど、彼はあなたの父である瀧士博士の死に関わっていると思うわ」
なん、だと?
ごくりと唾を呑み込む。
オヤジの死に関わっている? オヤジは事故死と聞かされている。警官からもそう聞かされている。
が、確かにオヤジ回りの人間関係などを根掘り葉掘り問われた。
もしかしたら、あれも他殺の線で捜査をしていたのか?
「シュティ。このことを警察には?」
「言わない方がいいわ。あちらは政治や警官にも潜らせているでしょうし」
「そう、ですか……」
まずいな。退路を断たれた。
「あ~! シュティ! 抜け駆けはダメ~!」
スマホから顔を上げた亜海は急いで、俺とシュティの間に入ってくる。
「これよ! クリスタルは!」
あくまでも強気な亜海。
いったい、この二人に何があったんだ……。
「うふふふ。分かったわ」
「むぅ。なんだか余裕の表情。私だって負けていないんだからね!」
いや、完全に負けているだろ。どことは言わないけど。
その貧相な胸元から視線を外し、モニターを見る。
十桁の暗証番号が打ち込まれ、パソコンがうねりを上げる。
モニターには金剛――いや、
「香弥……?」
そこには黒い髪を腰まで伸ばした、病弱そうなほどまでに白い肌をした女の子が映っている。
「……香弥ちゃん?」
亜海が息を呑むのを感じ、手を伸ばしかける。
「”金剛”ではないわね。とはいえ、パソコンの音量を上げてみるわ」
どこまで上げても声は聞こえない。
「バグ、ですか?」
「いいえ。金剛型AIには未知数な領域が多いの。おそらくSSFでも話しができなかったのは学習プログラムが完成していない影響ね」
「いつ完成するんですか?」
「それには、SSFへのログインが必要だけど……」
さっき脅されている話をしたばかりだ。ゲームに接続するのは危険だろう。
「それじゃ、今日は早めに帰ってログインだね!」
「お前!」
自分でも驚くほどの怒声。
びくっと体を縮める亜海。
「な、何よ……?」
「い、いや。ごめん」
「今日のところは止めておきましょう? まだ日はあるのだから」
俺が亜海に聞こえないように話したを察したのか、シュティがフォローしてくれる。
「そ、そうですよ! 急いでもしょうがない」
「……なんだか二人とも怪しい」
亜海の意見はごもっとも。
実際に言えない状況だから。でも亜海はそれを知りたいんじゃないか?
そう思える俺もいる。直接、聞いてみないと分からないが、聞くのは怖い。
下手をすれば、亜海の精神が削られ持たないかもしれない。
特に女の子のプライベートなんて探っていいものじゃない。
「じゃあ、連絡はこのスマホにしましょう」
シュティは帰り際に俺と亜海に真新しいスマホを渡してくる。
「これは?」
「うふふふ。アタシ特製のスマホよ。機能は少ないけど、その代わりにセキュリティが強化されているわ。核兵器よりも厳重に」
だからオーバーだろ。
操作してみると、電話、メールくらいしかない。
「分かりました」
「ええ。お願いね」
そのお願いには何が含まれているのだろうか。
でも、少しは荷が軽くなった気がした。
夜になりネットカフェでゲーム開発者、企業。様々なところで
こっちから尻尾を掴まないと、いつまでたっても防戦一方になってしまう。
それは願うところではない。
スマホが鳴り手を伸ばすが、着信はなし。
「ああ。こっちか」
シュティに渡された方を手にし、通話する。
「もしもし? シュティか?」
『ええ。
「ありませんね。一応ネカフェで情報を集めてます」
『……そう。確かにAPアドレスなどを誤魔化せるけど。あまり深追いしてはダメよ?』
「ええ。軽く調べているだけです。せめて魁が今、何をしているかを知らないと……」
『もしかしたら、魁さんではないのかもしれないわ』
「どういうことです?」
『あの人、自分は表に出ないの。その代わりを用意して表に立たせるわ。自分では手を汚さない主義なの』
「……そう、ですか」
となれば、魁を調べたところでほとんど情報も降りてこない訳だ。
「魁という人の情報はそのくらいなのですか?」
『……ええ』
そもそもシュティの方が詳しいはずなのに、この程度しか情報がない。
嘆息一つ。
「どうすれば解決できると思いますか?」
『今はアタシに任せなさい。明日、そちらに届いたメールを直接確認するわ』
「え! 直接ですか!?」
『その方がセキュリティを気にしなくてすむわ。リアルなら、監視の目も疎かになりがちだし』
「……分かりました。それでは明日」
『ええ。明日』
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