第33話 レベル上げ
実装された”ピラミッド“はPvPの連戦を行い、頂上を目指す仕組みになっている。
最初ということもあり、十回連勝すれば達成する。一回でも負けると最初からになり、再び十回の勝利を目指す。
アイテムの使用は不可能で、武器と魔法のみで戦う形式だ。
シュティがサポートする、とは言っていたものの、どうやってサポートするのだろうか?
パソコンに向き合い、黙々と情報とその反応を眺める。
制限時間もあるので、意外と十回の勝利は難しい。そんな意見が多く、上級者に向けと諦めるユーザーも多い。
そもそも砂漠エリアが湿原エリアの先にあり、高難易度で上級者向けになる。
「さて、と」
PROギアを接続し、ゲームを立ち上げる。
SSF内に入ると、音声チャットが立ち上がる。
『康晴。ログインしたんだ』
「ああ。亜海……ジークこそ、ログインしていたんだな」
『うん! 私、あれからもっと強くなったんだよ!』
「すまん。俺はこれから湿原エリアでレベル上げするから」
『私も一緒に行く!』
「……は? 何を言っているんだよ。あそこの敵は80から90くらいだぞ?」
『私のレベルは今、76だよ? それでもダメ?』
SSFは、レベル差が10前後ならなんとかなる調整にはなっている。
ステータスやスキルよりも脳の反射神経などを求められるのがASPシステムを搭載したVRMMOの特徴でもある。
「お前、そんなにレベル高いのか?」
フレンド登録しているので【ジーク】をタップしてみる。
確かにレベルは76と表示されている。
「マジかよ。本当に76だ」
『え! どうして分かったの!?』
「あとで説明する。とりあえずは合流だ」
『分かった! 西の
音声チャットを切ると、漣カフェへ向かう。
漣カフェは近くに砂浜があるので海の家感が強いが、どこにでもあるようなカフェだ。
外装は一階建ての一軒家で、こじんまりとした印象がある。
金額などは安めで来客も多い。とはいえ、ゲームの中。席が足りなくなることはない。中に入ると、それぞれ別サーバーへ転送されるのか、プレイヤーでごった返すなんてことはない。
漣カフェに着くと、
【店内に入りますか?】
【はい いいえ 待ち合わせ】
と三択が表示されるので、待ち合わせでプレイヤー一覧をみる。
まだジークは来ていないようだ。
はい、を押し店内で待つことにした。
コーヒーを飲むこと数分。
店先に見慣れてた顔を見つける。
「ジーク! こっちだ!」
「ごめん。待たせちゃったね」
「いや、いいよ。それよりも少し注文するか?」
「え! いいよ。今回はレベル上げが目的なんでしょ。休息時間もあるし、少しでもレベル上げよ?」
「分かった。でもその前にアイテムや装備の確認だ」
「うん。分かった」
湿原エリアは、地面がぬかるんでおり、その足場の悪さから高難易度にもなっている。そして、それを防ぐアイテムや装備は存在しないのだ。
これが雪原エリアなら防寒具で様々なデバフや足場の悪さを防げるのだが、湿原にはそれがない。これが湿原エリアが目下、最大の難易度になっている理由だ。
もちろん、敵モンスターも強い。
一筋縄ではいかないのだ。場合によってはレベル100のプレイヤーですらキルされるらしい。
「とはいえ、俺とジークの二人だから問題ないだろう」
「そっか。なら良かった! それじゃ行こー! おー!」
足早に店内を出ようとするジークを捕まえる。
「待て待て。最後まで話を聞け!」
「え~。まだ何かあるの?」
「ああ。万が一に備えて、Sポーションや転移玉を用意するぞ」
「あれって高いじゃん。いらなくない?」
「いやいや、俺たちだけでも死ぬかもしれないから。特に物理攻撃ではキツイし」
「そ、そうなんだ。私一応は魔法も使えるよ!」
「魔法はマナの消耗が激しい。短時間で大量の経験値を稼ぐにはもってこいだが、いざという時に対応できない」
「それもそっか……」
ジークは顎に指をあてて、なるほど、と呟く。
「それに一番怖いのはPKだ」
「PK? プレイヤーキルのこと? 確かプレイヤーがプレイヤーを倒すことだよね?」
「ああ。コロセウムの実装で減ってはいるが、未だにPKを行う奴は多い。そもそも、このゲーム自身がPvPやPKを推奨しているからな」
でも、普通に遊びたい人もいたので、コロセウムというシステムが実装されたのだ。
「それって、あのマスタングさんみたいな人もいるのかな?」
「恐らくな。マスタングはフェアな戦いを好むぶんマシだけどな。本当に怖いのはトラップPKや不意打ちを行う奴らだ。あとMPKが怖いし」
「MPK?」
「モンスタープレイヤーキル。わざとモンスターを惹きつけて、他のプレイヤーになすりつける。そうしたPKのことだ」
ジークは身震いをして、眉をひそめる。
「それってダメなんじゃないの?」
「いや、禁止されていないし、システム的には改善できない。それに、ただ単に逃げているだけにしか見えないから、GM側も判断が難しいみたいなんだ」
「そっか。なんだか怖いね」
「ああ。一番怖いのはプレイヤーだったりするからな」
「それじゃ、今度こそレベル上げだね!」
コーヒーを飲み終え、こくりと肯定的に頷くと、店を出る。
「うわぁ~……。気持ち悪い」
ズボズボと、ぬかるんだ土地を歩きながらジークはゆっくりと前に進む。
湿原ということもあり、ところどころに大きな水たまりと樹木が生えている。
ジャングルエリアや森林エリアとは違い、ワイヤーを使ったトラップがないので安心できる。が、
「きゃああ!」
ボンッと破裂音とともに水柱があがる。
「だから気をつけろと言っただろ? 地雷タイプのトラップもあるんだから」
先ほどのは踏むと発動するタイプのトラップだ。ワイヤーと比べて値が張るので、あまり使うプレイヤーも少ないが。
「くるぞ! 右!」
「ああ。もう! 動きづらい!」
涙目で、文句を言うジーク。その手には弓矢が構えられており、接近してきたプレイヤーに狙いを定める。
そして放つ。
矢は吸い込まれるようにプレイヤーに向かって飛翔する、が――かわされる。
「おっと。危ない。危ない」
「でもかすったよ?」
「へっ! この程度で何が……?」
矢のかすったプレイヤーは自身の異変に気がついたのか、その場で急いで毒消しポーションを取り出す。
その瓶が割れるまでに一秒もかからなかった。
「今度はあてるよ」
先ほどとは違い、冷たい雰囲気を放っているジーク。
「ひっ!」
それに怯えた敵プレイヤーは咄嗟に笛を吹く。
「マズい!」
「え! なんで?」
「ぎゃああぁぁぁー!」
ジークの放った矢は敵プレイヤーの脳天を撃ち抜く。
「さっきあいつが使ったのは『ほら吹きのホラ貝』だ! 魔法攻撃用意!」
「何それ?」
訊ねながらも杖に持ち直すジーク。
「”ほら吹きのホラ貝”は周囲の敵モンスターのヘイトを集めるアイテムだ。モンスターが一斉に襲ってくるぞ!」
「ひょえ! そんなものあるの!?」
ジークが目を凝らしていると、
「いたっ! 何かに攻撃された!」
「恐らく水生モンスターだ! 気をつけろ!」
足下が水なので、ピラニアのようなモンスターが襲ってきたりするのだ。
そいつらが今まさに足下から攻撃を仕掛けてきている。
「こいつらは”ワイルドサーモン”。攻撃力が高い上に素早いが、HPは非常に少ない。打撃でも倒せる!」
「わ、分かった!」
俺は剣を、ジークは短剣でワイルドサーモンを倒していく。
「ま、まだくるよ!」
ジークが指をさした先には青い水がウネウネと近寄ってきている。
「きたぞ! ”メルトスライム”だ!」
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