第17話 戦いの行く末
「なっ! ギルドの解除だと!」
そんなことができるのか!?
直前で二人のプレイヤーがチーム”ネビュラ”に参加した。
つまり攻城戦の規定の”五人以上で参加可能”をクリアしてしまった。
「えへへへ! じゃあ、いただくね~♪」
リリィは魔法で火球を呼び出し、投げつける。
「”金剛”」
俺は少女を抱き寄せ、跳躍する。
「お、おにぃ……」
NPCのカーソルに”金剛”という文字が浮き上がる。
あの人からの個人チャットがないので、不確かだが、この子はやはり人工脳”金剛”のようだ。
しかし、目の前の敵を排除しなくては……、
『何々!? どうなっているの!? 私たち、チームじゃないの?』
「ジーク! ギルドは解消された! 俺とジークは未だにチームの扱いになっている。今すぐにその場を離れ安地へ移動しろ!」
『わ、分かった! 攻撃は?』
「必要だと思ったらしろ!」
ジークとの通信を終えると、リリィに視線を向ける。
「あらあら? こちらに興味はないのかしら?」
不適な笑みを浮かべ、火球を振りかぶるリリィ。
奥歯がぎりっと音を立てる。
迫り来る火球。
地属性の魔法で土の壁を作り、火球を防ぐ。
「大丈夫か?」
後ろにいる金剛を見る。
こくこくと頷いているが、未だに声は出せない。
何かしらの不具合なのか、それとも仕様なのかは分からないが、この子がオヤジの遺産でもある。
なら、守るしかない。
爆発。
圧力と熱波で土の壁が穿たれ、俺と金剛は倒れ込む。
「くそっ!」
苦々しく吐き捨て、立ち上がる。
「あらら。もう終わりそうね」
リリィは再び火球を振りかざす。それも複数。
一発でHPが半分も削れた。しかも防御魔法越しで。
攻撃と速度ばかりで防御をほとんど上げていないのが、ここに来て裏目にでるとは。
「だけどな!」
金剛を片手で抱え、駆け抜ける。
「逃がさないわよ!」
大量に降り注ぐ火球。
その爆発の中、たった一つの出入り口へ向かう。
ドアを開けた瞬間、
「おやー? どこに向かうのかな? コウセイくん」
にやりと笑うユウ。
「しまった! 挟まれた!?」
後ろにはリリィ。前にはユウ。
しかもたった一つの退路をユウが塞いでいる。
ごくりと喉を鳴らす。
「あー。そのNPCには興味ねんだわ。なんで嘘ついてまで守ろうとしたのか、なんで5万も使ったのかもわかんねーけど」
「へ、へへへ。お前らには一生分からないだろうな。簡単に人を裏切るような奴には」
「おいおい。何を言っているんだ? これはゲームだ。ただのゲームだぞ? それくらいのことも分からないのか?」
苦笑するユウ、リリィ。
「まあ、ソロにしては頑張った方じゃねーの!」
ユウは剣を振りかざし、
「そうそう! あたしらには敵わないって♪」
リリィは杖をかざし、真っ直ぐに俺を見据える。
剣が、杖が光る。
ずるりと落ちる金剛。
「お、おい! しっかりしろ! こん、……香弥!」
金剛、いや香弥は薄く笑う。
やっぱりこの子には香弥の記憶がある。
「絶対に、」
一度死んだはずの香弥を、
「絶対に妹を殺させねぇっ!」
俺は剣を構え、徹底抗戦を示す。
ユウが嫌なものでも見るかのような薄ら嗤いを浮かべ、吐き捨てる。
「バカじゃねーの! ゲームごときにマジになりやがって!」
剣を振り下ろす。
肩に食い込む鈍痛。
「ぐっ!」
「はっ! やっぱ、ザコはザコだな!」
『ぐ、ぐわー!』『こ、こいつ!』
「……どうした? バウ。るる?」
音声チャットが途切れたのか、ユウが顔を曇らせる。
そこには焦りの色が伺える。
その隙に香弥を抱え直し、駆け出す。
部屋の端に移動すると、回復ポーションでHPを回復させる。
「残り12。危なかった……」
素手でも攻撃パラメータを上げていれば、20くらいのダメージはでる。
つまり、死にかけだったのだ。
俺が死んだら、デスペナルティとして、所有物のいくつかをランダムで失う。ただし、NPCなどの特殊系統では選択の余地もなく消滅する。
つまり、未だにプレイヤーではなくNPC扱いの香弥も消滅してしまう。
「香弥、覚えているか? 小さい頃にこのくらいのお城に行ったことあるよな」
あれは確かオヤジのお盆休み。
遊園地にある洋風のお城で遊んだものだ。
こくこくと頷く香弥。それを見て、気持ちが安らぐ。涙が溢れてくる。
「何を泣いているのかしら~♪」
リリィは空を裂き、火球を放つ。
先ほどと同じく土の壁で軽減するが、HPが半減。
「ははは。せっかく出会えたのに……もう終わりかよ」
悲しげに目を伏せる香弥。
降り注ぐ火球。
が、突然火球の進路がずれる。
隣で爆風と砂礫を浴びる。
「なんだ……?」
「は~い。そこまで~」
「……シュティ。お前、どういうつもりだ? 俺は――」
「はいは~い! 今は四の五の言っている場合じゃないでしょ?」
【チーム”コウセイ”に”シュティ”が参加申し込みをしています】
【受領しますか?】【Yes/No】
「はっ。分かったよ」
【”シュティ”がチーム”コウセイ”に参加しました!】
「これで思いっきりやれますわ!」
シュティが氷魔法でいくつもの氷柱を作り出す。
「そんなもんにぃ!」
リリィの放つ火球と氷柱がぶつかり合い、爆発する。
水蒸気で満たされた部屋は視界が悪く、数センチ先も見えない。
有利!
暗視ポーションを飲み、視界を確保。
部屋の中を颯爽と駆り、出口を塞ぐユウの懐に飛び込む。
「へぇ。やるじゃないさ!」
ユウは盾で俺の剣を受け止め、切っ先を向ける。
「邪魔済んじゃねぇ!!」
「がっ!」
ユウは後ろから袈裟切りされる。
「そいつを殺すのはオレの使命なんだよ!」
「……マスタング? なんでお前がここに!?」
「はっ! おめーを倒すのはこのオレ様なんだよ! 他の奴に殺されるんじゃねーぞ!」
「な、なんだ? 貴様ら……」
「へぇー。まだおしゃべりする余裕があるのかい! 全く……殺しがいがあるってもんだ!」
斬撃。斬撃。斬撃!
マスタングの容赦のない攻撃がユウのHPをゼロにする。
「ユウ!」
リリィが反転、こちらに向かってくるが、横合いから氷柱が突き刺さる。
「あら? あたしを忘れてもらっちゃ困るわね」
「くっ……!」
「あら? まだ生きているのかしら……、不愉快だわ」
シュティはリリィに矢継ぎ早に魔法を叩き込む。
「ひゅ~。いかしてるねぇ。あの姉ちゃんも、さぁ!」
マスタングはユウに剣を突き刺し、高々と持ち上げる。
「がっ……!」
ユウは短く呻き、剣をカシャンと落とす。
「どういうつもりだ? マスタング」
こいつがなんの用もなく、俺の前に現れる訳がない。
「はっ! まだわかんねーのか?」
「分からないから聞いている」
「おいおい。鈍いぜ。ラノベ主人公かよ……」
クククと笑うマスタング。
「オレ様はあの時の決着をつけてーんだよ! そのためならなんだってしてやら!」
その言葉を聞き、俺は自分の頬が緩むのを感じる。
「……そうかい。ああ、いいだろう。だが勝つのは俺だぞ?」
「はっ! ほざくな」
そうか。マスタングはやばい奴じゃない。誰よりもこのゲームを楽しんでいるだけの人間だ。
それこそ、普段は味わえないような正々堂々真っ正面からのPvPを望んでいる。
だからこそ、決着のついていない試合があるのが悔しい。
ある意味では俺に近しいのかもしれない。
オヤジとの決着をつけるためにゲームを始めた俺と。
「ほれ。やるよ!」
マスタングは突き刺したユウを投げ捨てるように振り下ろす。
「はっ! よくも俺をだましてくれたな」
「ち、違う! お、おれはあの方から、め」
言い終える前に剣戟を放つ。
ユウは光の粒子となり、消えていく。
「へっ! やるんなら正面から挑めや! ハイエナども!」
吐き捨てるように言うマスタング。
「へ。あの続きはこれが終わってからだな」
「ちげーねぇ」
俺とマスタングはハイタッチをする。
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