第16話 謎の少女現る

 飛び込んだドアの先には広い部屋になっていた。

 食器や蝋燭が並んだ景色は大きな中世の食堂を思わせる。

「すごい作りこみだ。でも、あの画像とは違うな……」

 画像には何もなかったが、ここには多くのもので溢れている。

 カタカタ。

 食器が揺れ、宙を舞う。そして、飛びかかってくる。

「くそ! ゴースト系のモンスターかよ!」

 軌道計算。回避。

 GvGになる前にマナやHPを消耗したくない。

 かわす。さばく。かわす。かわす。さばく。

 連続して襲いかかる皿やフォークを叩き切る。あるいはかわす。床や壁に激突するとHPがゼロになるモンスターのようで、さばくよりもかわす方が楽に処理できる。

 とはいえ、

「きりがねぇ!」

『こちらリリィ。105レベのモンスターと遭遇。救援を求む!』

『ジークよ! 敵モンスターの攻撃!』

『ユウだ。これ以上はもたねぇぞ!』

『ひゃっはー! 今、プレイヤーを、――おっと! 次の相手かよ!』

 音声チャットから漏れる声はどれも苦戦している様子だ。

 このままじゃ、埒が明かない。

 なら、

「突撃あるのみーっ!」

 正面。奥の扉を目指し突っ切る。

 多少のダメージは仕方ないとして、突破しなければならない。

 あのNPCを保護する。それがなんであれ、研究者に手渡さない方向であれ。知らないことがあるのは怖いことだから。

 だから、真実を知りたい。彼女は何者なのか? 俺の妹なのか?

 次々と襲いかかるモンスターを背に、扉を蹴破るように開く。

 次のマップを読み込んでいるのか、敵の動きが鈍る。

 部屋に飛び込み、扉をすぐにしめる。

 後方確認。敵影なし。

 左右確認。敵影なし。

 正面――敵!

 サイドステップで一条の光をかわす。

 恐らく、光属性の魔法。

 きっと睨むと、そこには、

「香弥……?」

 淡い水色の長い髪、白いワンピース。身長は百二十くらい。裸足でぺたぺたと歩く。

 その子の瞳には光がなく、手には杖のようなものを持っている。

 杖が光を放ち、一拍おいて。

 閃光がほとばしる。

 部屋の中には何もない。むろん、隠れるものもない。

 さほど広くない部屋では回避するのも辛い。

 無言のまま、襲ってくる香弥……らしき人物。

「待て! お前は何者だ!? 香弥か? それとも――」

 振り下ろされる光の刃。

「”金剛”なのか?」

 ぴくりと肩を震わせる少女。

「最新鋭人工知能四番機”金剛”なのか……?」

「…………」

 少女はぴたりと動きを止め、身じろぎ一つしない。

 今だ!

 俺は操作パネルを動かし、Gp購入画面を開く。目の前の少女に目標を合わせ、購入を選択。

 5万のGpを消費し

【NPC”金剛”の購入を受領しました】

 機械的なやりとりで戦いを終える。

「ふぅー。こちら、康晴。目標の確保に成功! 敵の掃討作戦に移行する!」

『了解!』『分かった』『マジか!』『へいへい!』


 俺は少女を引き連れ、中央の上層へ向かう。

 そこがクリスタルを納める場所。

 少女は有無も言わずについてくる。

「お前は何者だ? なぜここにいた? オヤジは何を考えていた?」

「……」

 喋ってはくれないのか。それともシステム的なブロック?

 正面のドアを開こうとすると爆発。

「後ろか!」

 少女を庇い、振り向きざまに敵NPCを切り裂く。

 少女を庇いつつ、敵を切り、かわし、いなす。

「リリィ!」

「コウセー? こちらはもう終わったわよ♪」

「マジか……」

「その少女?」

「え。あ、うん。恐らく」

「喋らないわね……。ただ買うだけではダメなのかしら? となると、別クエストのトリガーかな?」

「分からない。機能が追加されている可能性もある」

 本当はそんなことは信じていないが、会話を合わせておかなければ、後々面倒なことになる。

「ジークは?」

『今、外に出たよ! 正面』

「分かった。そこから弓による狙撃戦を開始せよ!」

「分かった! やるよ! まずは毒霧矢」

 毒霧矢って広範囲に毒を振りまく特殊な攻撃だったような……。

『うはっ! ジークちゃんやるね~。周囲のプレイヤーが状態異常になっていくよ~』

 面白そうに語るユウ。

 確かに味方にしたら心強いが、敵からしてみれば、驚異だろうな。

 遠距離から、しかも城の上からの狙撃。広範囲の状態異常。城の上から隠れて放つから魔法による反撃は不可能。

 ほぼ平行移動する魔法と、放物線を描いて落ちる弓矢。壁などの遮蔽物がある場合において、弓矢が有利になるのは明白。

 遮蔽物の多い攻城戦においては有利に働くだろう。

「あらかたの敵NPCは倒したけど、どうするの?」

「とりあえずはクリスタルの破壊と、設置。死守だな。この子から情報を引き出すのは、もう少しあとだ」

 リリィが体勢を整えている間に、俺が警戒する。

「OK~♪」

「よし。少し俺にも時間をくれ」

 素早く個人メッセを飛ばす。

 攻城戦中でもメッセを送れるのに感謝しつつ、ガラス瓶をいくつか実体化する。

「それ、見たこともないポーションだね~♪」

「ああ。特別製なんだ。生産職のプレイヤーから買い取った」

「なんでもかんでもGpで買っちゃうんだねぇ~♪」

「これが仕様だろ?」

「違いない」

 リリィを後衛にし、俺が突貫する。

 そのまま、最上層へ辿り着くと、そこには鎧型のモンスターが鎮座していた。

「レベル110。騎士タイプ。防御よりも特殊耐性が低そうだな。リリィ。俺が足止めをする」

「あいにゃ!」

 敬礼をするリリィを後ろに、俺はモンスターの周囲を駆け巡る。

 懐に飛び込み、一閃。

 トンと地面を叩き、退く。

 直後、アーススピアが発動。

 床から膨れ上がった土くれがモンスターの腹を貫く。直後、後方から風の刃が飛び込んでくる。

「リリィの攻撃か」

 そちらに気をとられた一瞬の隙をつき、モンスターが咆哮を上げ、槍を投げる。

 リリィは回避するが、その後方にいた少女は動かない。

「バカ! 逃げろ!」

 加速ポーションを使い、一気に加速。

 槍を追い抜き、少女の手前で立ち止まり、全身で槍を受け止める。

「ぐっ……」

 鈍痛がうめく。

 直後、リリィがモンスターにトドメをさす。

「だ、大丈夫か? 香弥……」

「お、おにぃ……」

「――!?」

 お兄ちゃん。そう言いかけて言葉に詰まる少女。

 間違いなく、俺を知っている。

 あとはメッセで送った話をどこまで信じてくれるのか? そもそもログインしていないかもな。

 それにしても、少女の仕草しぐさが香弥にそっくりなのは、そうプログラムされているからなのか? あるいは……、

「大丈夫? コウセー」

「あ、ああ」

 自分のHPゲージを見ると、八割ほど残っている。

「なら、ちゃちゃっと倒しましょう!」

「倒す? クリスタルか?」

「ええ。でないとまた復活するわよ?」

 よく見ると、先ほどの鎧型のモンスターはオブジェクトとして残っている。

 つまり、完全な勝利ではないのだ。

 このモンスターがクリスタルの守護者だと仮定すると、一定時間での復活。

「分かった。俺も協力する」

 リリィと二人がかりで、広間の中央に浮かぶクリスタルを攻撃する。

 クリスタルのHPゲージがみるみる減っていき、ゼロになる。

 と同時に先ほどのモンスターが完全に消滅する。

「どうにか間に合ったね♪」

「ああ。お陰様で」

 あとはクリスタルを設置するのみ。

 横合いからリリィがクリスタルを設置する。

「お、おい。話が違うじゃないか。ここは俺たちチーム『コウセイ』に預けると……」

 リリィの目が妖しく笑う。

「にゃは♪ そんなこと、いつ約束したかな?」

『おう! リリィ。よくやった!』『へへ! さすが姉さん!』

 ユウとバウが褒め称える中、リリィは杖をこちらに構える。

【チーム”ネビュラ”に《モーガン》と《るる》が参加しました】

【チーム”ネビュラ”が”田舎の城”を占拠しました】

【チーム”コウセイ”とチーム”ネビュラ”がギルドを解消しました】

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