第15話 攻城戦開始!

 攻城戦開始当日。

 手に汗握り、PROギアを頭からかぶる。

 投影(Projectionプロダクション)ヘッドギア。

 脳内で起きている電気信号のやりとりを電脳世界へと導くシステム。

 気持ちを落ち着け、仮想空間へと飛び込む。

 今日、妹から生まれた人工脳に会える。

 そう思うと、心臓がバクバクと跳ね上がる。

 多少のラグを感じながら、セーフティエリアに降り立つ。と言ってもただの安宿だが。

 近くに談義できるカフェ、情報の集まる掲示板、それに攻城戦の白亜のお城がある。

 城の近くのカフェでユウたちと最終調整をする話になっている。

 もちろん、ジークも一緒だ。

 店内に入り、音声チャットを立ち上げる。

 四人ともログインしているのを確認し、マイクをオンにする。

「ついたぞ?」

『ちょっと待て。買い物に出ている』

 ユウ、リリィ、バウはポーションなどを調達しているらしい。

 とはいえ、攻城戦ではアイテム制限があるので、無制限に持ち込める訳ではない。その理由として、戦いが長引きただの消耗戦になってはゲーム性が失われるから、らしい。

 席につくと、カフェラテを注文する。

「やっほー! 康晴」

「おう。ジーク悪いな……。学校休ませて」

「ちょっと青春しているっぽいからいいよ」

 今まで真面目に授業を受けていた亜海から、こんな発言が飛び出すとは!

「なんで面白い顔をしているの?」

「え。いや、そんなに変な顔だったか?」

「うん。隠し芸に使えるね!」

 曖昧な笑みを浮かべ、ユウたちを待つ。


「……遅いね。ユウさんたち」

「だな。かれこれ三十分くらい経つな」

 カフェラテを飲むと、一つため息。

「先に打ち合わせを始めておくか?」

「うん。とりあえず私たちだけでも」

 メロンソーダを飲み干すジーク。

「まずはジークの能力を教えてくれ」

「プレイヤーレベルが71。弓が64。魔法が34」

「あれから34まで上げたのか。すごいな」

 素直に感心する。あれから四日くらいで魔法スキルを1Lvから34Lvまで上げたのだ。

「ちょっと威力不足かもしれないが、敵の足止めや削りに使えるな。30越えでトラップ系の魔法も使えるだろ?」

「うん。城の中にトラップをしかけて邪魔や侵入防止ができるよ」

「俺はプレイヤーレベルが86。魔法が103。片手剣が150。前衛だな。侵入してきた敵を撃退する」

 チャットがコール音を鳴らす。

『わりぃわりぃ。遅れた』

 ユウが軽い謝罪とともに姿を現す。

「よし。改めて作戦会議だ」

 俺がそう切り出すと、ユウが爽やかな笑みを浮かべる。

 なぜだか、その笑みに不安を覚えた。

 机にマップを開き、城の内部構造を展開する。

「城の内部にはトラップやモンスター、NPCがいる。この地図には書いてないけどな」

「あー。そうだねー」「できればのっている楽なのに♪」「へいへい。がんばりましょうや」

「リリィは魔法と回復担当。バウは弓と剣の中距離。おれは盾と剣のタンク。そっちは?」

 ユウはあらかた説明し、訊ねてくる。

「俺は魔法と剣による近接。ジークは弓と魔法の遠距離だ。配置は……こうした方がいいだろ」

 城の外壁、その上にある回廊にジーク。城門には俺とバウ。最奥部にはリリィとユウ。

「よぅし。分かった。NPCを蹴散らしたあと、そうさせてもらう」

「こちらから一つ頼みがある」

 真剣な面持ちでユウを見据える。

「なんだ?」

「この画像ファイルのNPCは俺がGpで買いとる。貴重な情報源になるらしい」

 少しの誤情報を交え、交渉にのりだす。

「……それがなんの得になるんだい? ただのNPCから情報がもらえるなんて訊いたことがないぞ?」

 お説ごもっとも。

「しかし、こうして画像が添えられている。確証はないが、攻城戦において大切な役割があるかもしれない」

「……それはいいが、買い取ってもおれたちが占拠したら消えるんじゃないか?」

 ユウはしかめっ面で問う。

 確かにその可能性は捨てきれない。が、

「初の攻城戦だ。少しくらいの賭けは必要経費だと思っている」

「ま、それはおれたちも思っていたけどな」

 ユウは少し思案し、

「分かった。その提案にのろう。ただし、そのNPCからの情報はこちらにも流して欲しい」

「分かった。SSFに関する情報は無償で提供することを約束しよう」

 硬く握手を交わし、攻城戦の参加受付に足を運ぶ。


 攻城戦の参加者、見学者含め、大勢のプレイヤーが一堂に会しているため、ラグが大きい。

 そのうち、見えてきた攻城戦の受付。

 ここ以外にも多くの都市があり、各都市ごとに城が用意されている。

 城ごとに内部構造なども違うが、あの人工脳がいるここは、西洋風の城になっており、比較的簡素な作りになっている。

「ここか……。よし! みんな行くぞ!」

 ユウが先陣を切って受付へとのりこむ。

 俺たちもその後に続く。

 ここに、本当にオヤジの遺産があるのなら……。

 力のこもった手で受付のドアを開く。

 混み合わないよう、チームごとに違う個室をあてがわれ、順番に城を目指す。

 そういったルールになっているらしい。

 個室内ではユウ、リリィ、バウがひそひそと話しており、あまりこちらを気にする様子はない。まるで統率力のないチームだが、一週間も経っていない。

 そんなに仲良くなれる訳でもないだろう。

 俺はソロプレイヤーだしな。

「康晴。あの子は本当に……」

 耳打ちをしてくるジーク。

 いよいよ本番となり、ジークも不安や緊張を持っているのかもしれない。

「分からない。でも可能性があるなら」

 実のところ、不安の方が大きい。だが、それ以上の情報は何もない。だから、藁にもすがる思いなのだ。

 個室の出口に設置されたカウントダウンが開始される。


 3


 2


 1


「行くぞ!」

 俺は迷いを断ち切るようにドアを開き、地を蹴る。

 その後を、ユウ、ジーク、リリィ、バウが追ってくる。

 先陣を切る特攻兵。俺の役割は、敵陣に穴を開けること。

 その後で、ユウ、ジークによる波状攻撃。リリィは後方支援。バウは後ろからの敵への対策。

「他プレイヤーは?」

 あの人工脳を助けるには、俺たちが最初に城を攻略しなくてはならない。

 つまり、一緒に並走している他のチームは全て敵だ!

「やれ! ジーク!」

「う、うん! やるよ!」

 そもそも、GvGを推奨している攻城戦。咎める者などいない。

 すでにGvGは始まっているのだ!

 ジークの放った矢が隣を並走していたチームの指揮官、その頭を貫く。ダメージエフェクトに続き、頽れる。

 俺も地属性の魔法で、敵の攻撃を防ぎつつも、リリィの支援を受け加速する。

 城門にとりつくと、ユウとバウが左右へ展開。

 俺とジーク、リリィで内部に突入。

 目的はあいつを見つけること。

「俺は右、ジークは左。リリィさんは一人でも大丈夫か?」

「分かった」「ええ♪ NPCくらいなら余裕ですよ~♪」

「じゃあ、中央を頼む」

「りょ~かい♪」

 各自別れると、即座に上へ続く道を探す。

 城の仕組み上、最奥部は上層にある。

 階段のある部屋にいたNPCを剣でいなし、後ろに魔法を叩き込む。

 NPCは光の粒子として砕ける。

 邪魔をするNPCを倒しながらも、城の内部を探索する。

「くそっ……。どこにいるんだ?」

 息を切らし、壁に体を預ける。

 マップの展開。

 ジーク、ユウたちとの音声チャット。

 そこから流れてくる情報には、どこにもあいつの名前は出てこない。

 あいつの映った画像を一瞥。光の入り込みからして、方角は間違っていないはずだ。

 額の汗を拭い、再び足を動かす。

「待っていろよ。”金剛”」

 今はまだ、妹と、香弥と呼べないあいつを探しに奥の部屋へ続くドアを開ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る