第38話 ユウ再び

【マッチングクリア】

戦闘バトルを開始します】

 視界が暗転し、砂漠フィールドに投げ出される。

「さてと。敵はどこだ?」

 もう慣れたようで、この日差しと照り返しによる高い気温に肌を焼かれているようだ。

【状態;高温】

 徐々にHPゲージが減っていく。これは砂漠だけでなく火山などの気温が高い地域で見られるステータス異常だ。

 それを防ぐためにも近くにある遺跡に滑るように入り込む。

「へっ! やってきたな。コウセイ!」

 横を向くと、そこには”ユウ“がいた。

 以前、俺とギルドを組み、”攻城戦”に参加したプレイヤー。俺を裏切った者。

「お前は逃がさない!」

 剣を振り下ろすユウ。

 その軌跡から逃れると、さっきまでいた地面がえぐれている。

「コウセイ! お前のせいで、おれがどんな思いで戦ってきたのか、分かるか!」

「知るかよ! 俺にも譲れないものはあんだよ!」

 会敵するのが早すぎた。こっちに設置型のトラップはない。

 幸いにも初撃はかわせた。

 放置されたロッカーの後ろに隠れると、どうすれば距離をとれるのかを熟考する。

「隠れても無駄だ! お前はおれが切り刻んでやる!」

 ロッカーごと粉砕するユウ。

 ユウは盾持ちの剣士だ。その防御力と、攻撃力は半端ない。だが、そのかわりに敏捷性を犠牲にしている。

 盾を装備すると、敏捷性は下がるのだから。

 壁を突破し、机を壊し、一直線に俺を付け狙うユウ。

 マズいな。俺とユウのレベル差は10はある。高レベルになればなるほど、差は生まれにくくなるが、とても無視できるような範囲じゃない。

「逃げてばっかで勝てるのかよ。コウセイ!」

「ユウ! お前はなんでここにいる?」

「お前を殺すためだよ! お前さえいなければあの攻城戦でトップになれたんだよ!」

 トントンと床を二度叩く。

「はっ! 立ち止まったな!」

 切っ先をかわし、大広間に走る。

「ぐわぁ。は! やるじゃねーか。ただ逃げているだけだと思えば!」

 アーススピアの直撃を確認。

「ちっ! 硬いんだよ!」

 アースボムを投げつける。

 かわす素振りすら見せないユウ。

 爆発。直撃。

 HPゲージは未だに九割を保っている。

「大ボス並みのHPだな……」

「もともとタンクだからな! だが、お前のお陰でおれの戦い方を見つけたぜ!」

「戦い方?」

 くそ。アーススピアは近接魔法の中でもトップクラスの攻撃力を誇っているんだぞ。それゆえに、発動までの時間も長いが。

 そんなに何度も使えるような魔法でもないし、かといってマナポーションは十個まで持ち込み可能になっている。まだ三回戦目で、使う訳にもいかない。

「とはいえ、出し惜しみして勝てる相手でもないよな……」

「何か言ったか! コウセイ!」

 ユウの振り下ろす剣をいなす。

「重い! このままやれてたまるかよ!」

 初級魔法のアースボムをもう一度放つ。

 それは空中で光を孕み、爆発する。

「ぐ!」

 ダメージとしては8。とてもじゃないが、倒せるような攻撃力ではない。

 だが、逃げるには十分な隙を作ってくれた。

「くそっ! どこに隠れた! コウセイ!」

 物陰に隠れ、息を潜めると、視線を巡らせる。

 ユウの後ろ、二百の位置にあるタンスの影に隠れている。

 周辺には雑貨や調理器具などが転がっており、逃げ道がある訳でもない。


 せめて、窓くらいあればな。

 そんな文句を言っている場合でもないか。

 視界をユウに戻すと、机の耐久値が減り砕ける。

 所構わず攻撃しているようだ。

 待てよ? それなら……。

 視線を上に向ける。

 一か八か、やってみる価値はあるだろう。

 アイテムの”粘着ボム”を実体化し、天井に投げつける。

 天井に張り付いたボムは、すぐに爆発する。

「そこか! コウセイ。お前はおれが殺す!」

 殺気を孕んだ視線を受け止め、

「じゃあな! ユウ」

 俺はワイヤーフックのトリガーを引く。

 ワイヤーが巻き取られ、天井に向かっていく。

「はっ! 天井に頭をぶつけて、それでしまいだな!」

 ユウの話した通り、に天井へワイヤーフックを使うと、天井に頭をぶつけて、終わる。

 が、さっきのボムで穴の空いた天井にはもう一つ上の天井が見える。

 ユウは驚いたように目を丸くする。彼からは、俺が天井の中に消えていったように見えるだろう。

 穴を空け、そこを通っているだけだが。

 ワイヤーの巻き取りが終わると、振り子のように体を揺らし、二階の床に降りる。

「くっそー! はめやがったな! コウセイ!」

 一階でユウが吠えているが、気にせず三階へ向かう。

「しかし、助かったな。天井にも耐久値が設定されていて」

 本来、天井や床は壊れないように設定されているものだが、今回のPvPでは建物すらも壊せるのだろう。

「前回の戦いでも、屋上でボムを使った時に、耐久値ゲージが表示されていたからな。全くの賭けではなかったが、」

 とはいえ、状況を五分に持ち込んだに過ぎない。

 ユウはβテストからやりこんでいる超上級者だ。このSSFでも屈指の実力者で、価値の目は低い。

 屋上に辿り着くと、手を振り下ろす。

 各階に設置された魔法陣が起動し、爆発する。

「な、なんだ!? コウセイ。何をした!?」

 ユウの悲鳴に似た声が聞こえる。

 柱という柱が爆破され、建物が崩壊していく。

 ワイヤーフックで、崩壊よりも先に地面へ降りたつ。

 背にあるのは瓦礫の山。

 その瓦礫を突き破り、手が現れる。

「くそ。まだ生きているのか」

 真っ向から戦っても勝てる相手ではない。ここは一度退くか。

 次の遺跡へと足を進めようとしたところで、

「なんだ!? 体の身動きがとれない?」

 まるで体中に鎖でも巻かれたように、動けない。

「は! まだまだだな。コウセイ!」

「くそ。”威圧”か!」

「その通り! 威圧スキルは自分よりもレベルの低い相手の動きを止める効果がある! これで終いだ!」

 ユウは剣を振り下ろす。

「”クロノス“!」

 俺ば魔剣の効果を発動する。

 瞬間、ユウの動きが止まる。

 クロノスの効果は一時的に相手の動きを止めるもの。そして、”速度上昇”のバフが十秒間かかることにある。

 ユウの正面から逃れるとユウの体に剣を突き刺す。

「な、なにが……、ぐっ! どうやって抜け出した! まだ威圧の効果が切れるには早いぞ」

「へ。覇者の指輪はどんなデバフでも制限時間を早める!」

「あの、覇者の指輪を持っていたのかよ! あれは高難易度のクエストだろ……」

「ああ。そうだな。まあ、そのクエストをクリアしたから、こうして持っている訳だが」

「へ。あのつまんねークエストをやっておけば良かったな」

 速度上昇バフが消える前に退しりぞく。

「ははは。マジかよ。剣の直撃を受けてもHPを半分も残してやがる」

 ユウHPゲージは黄色。半分を切ったことを示している。

 このゲームでは剣による直接攻撃が一番、高い威力を持っている。ゆえに剣により、弱点を貫けばたいていは一撃で殺せる。

 俺が狙ったのは肺。

 肺、脳、喉などは弱点ウィーク・ポイントと呼ばれ、ダメージが二倍になる。

 つまり、今の一撃は俺の最大値だ。

 それでも、半分くらいしかダメージを受けていない。

 となれば、

「もう一撃!!」

 ユウの周辺を動き回り、攪乱する。

「く。早いな!」

 ユウは耐久値、防御力、攻撃力を上げているため、敏捷性は低い。それを利用する。

 それしか、俺に勝ち目はない。

「でもさぁ。おれにも対策は立てているんだよ!」

 地面に剣を突き刺すと、魔法陣が浮かぶ。

「なんだ!? なんの魔法だ!?」

 ユウを中心に光の波紋が広がる。

 それは距離をとっていた俺の足下にも及ぶ。

 砂がボンッと持ち上がり、俺は空中に投げ出される。

「のわっ! これは……」

 光属性の魔法”フラッシュ・リップ”。

 周辺を破壊する波紋を発生させる魔法だ。

 その威力と範囲攻撃は絶大で、SSF内でも数名しか使えないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る