第39話 二人の絆
浮遊感から解放されると重力に従い、自由落下を始める。
落下地点にはユウがいる。
空中では身動きがとれない。
「くそ。あたれ!」
アースレイでユウを狙うが、盾で防ぐユウ。
「それでは倒せんよ!」
「確かに。すべて盾に持っていかれるんだな。それ!」
アースレイをもう一発放つ。
「何度も同じことを!」
一条の光がユウを避けるように落ちる。そして地面にぶつかり、爆発する。
爆風で俺の落下速度が落ちる。さらに、
「くっ! 熱い!」
ユウの視線をそらすことができた。
ふらりとユウの盾に乗ると、それを足場にバックステップ。
体制を整えると、剣をかまえる。
「ユウ。お前には負けない!」
「は! おれの方がレベルも、技術も上なんだよ!」
「それはどうかな? 確かに、お前は強いよ! だけど、俺のことを見くびりすぎた!」
俺はユウの回りを駆け抜ける。
砂埃が舞う。
「げほっ! こほっ! くそ。砂が入ってくる」
砂が目や鼻、口に入り、集中力が途切れる。
それを狙っていた!
トントンと砂の海を何カ所か、叩く。
剣を正面に構え突っ込む。
「はっ! それでおれを落とせるとでも思ったか!」
ユウは剣先をかわし、盾で俺の背中を殴打する。
「ぐっ!」
痛みで視界が揺らぐが、走り抜ける。
トントン。
「は! まだやんのか!」
ユウの剣先が背中の空気を持っていく。
直後、最初のアーススピアが発動する。
「なにぃ!?」
ギリギリでかわしたユウの後方で二度目のアーススピアが発動。
「こっちも!? こっちからもくるのか!!」
「周囲にアーススピアを設置した! 時間差で波状攻撃がくるぞ!」
「それでも、おれは上位ランカーなんだ!」
最後に突き上げるように岩の槍が隆起する。そしてユウを下から貫く。
「がっ! おれが負ける訳がない!」
HPゲージは未だに三割も残っている。
「出し惜しみしすぎたな……」
ユウは剣で岩を砕くと、もう片方の手でワイヤーフックを取り出す。
「は! お前の専売特許じゃないんだよ! おれだって!」
ワイヤーは俺の右腕にからまり、シュルシュルと巻き取られていくよ。
「くそっ! 切ってやる!」
ワイヤーを切り落とそうとするが、なかなか切れない。
それでも近づいてくるユウ。切っ先をこちらに向け、突きの体勢をとっている。
このままだと、ワイヤーの勢いもあり、貫かれる。
なら、
踏ん張る足を止め、突きの体勢をとる。
「は! 真っ向勝負かよ! いいぜ!」
「ふっ。アースボム!」
左手で実体化したボムを投げつける。
「バカな! 自爆するつもりか!」
俺とユウ。その間でアースボムが光り、爆発する。刹那、剣と剣が交わり、鈍い音が響く。
地面を転げ回る俺とユウ。
立ち上がると、HPゲージが残り20しかない。
「ユウは? あいつのHPは?」
目を凝らし、ユウのHPゲージに焦点を合わせる。
ゼロ。
「は。まさか二度も負けるとは、な……」
光の粒子となり散るユウ。
安堵のため息を吐き、その場に
【You Win】
簡素な文字列が並び、転移する。
五戦目も勝つと、途中休息が入る。
その間にもリアルに戻り、四時間のプレイ時間をリセットする。
ベッドから立ち上がろうとすると、手がぷるぷると震える。
精神的疲労が大きい。
しかたない。三時間近くも戦闘を行っていたのだ。それで五戦しかできない。
今後も強敵とあたることを考えると、四時間めいっぱい使うことになるだろう。
額の汗を拭う。
気持ちが悪い。
ずっと仮想の砂漠にいたせいも相まって、汗で衣類がびっちょりしている。
「シャワーを浴びよう……」
お風呂場で気持ちの悪い汗と一緒に疲れも流す。
着替え終わると、食卓に向かう。
少し食事でもしないと、空腹で倒れてしまいそうだ。
「あれ? なんだかめまいがする」
視界がぐらぐらと揺れ真っ直ぐに立っていられないような感覚が襲う。
手元にあるスマホを操作し、電話をかける。そこで意識が途絶えた。
目を開けると、近くに亜海の顔が映る。
「……大丈夫?」
「え。ああ」
どういう状況だ? 後頭部に感じる柔らかく暖かな触覚。異様に近い亜海の顔と体。そして胸を下から覗きこんでいるような視点、
「って! ひ、膝枕!?」
「もう! 恥ずかしいから言わないで!」
乱暴に降ろす亜海。
本当に恥ずかしいのか。耳まで真っ赤にしている。
「でも、どうしたの? 気を失っていたみたいだけど」
「亜海はなんでここにいる?」
質問に答えるのが嫌で、訊ねる。実際、疑問に感じていたことでもある。
「何を言っているの」
苦笑しつつ、話を続ける亜海。
「康晴が電話をくれたんじゃない」
「え。そうなのか?」
「ええ。声が聞こえてこなかったから、びっくりしちゃった」
それは本当に心配そうな声色で、胸が締め付けられるような気持ちになる。
「あれ? でも鍵は?」
開けっぱなしにした覚えはない。
「昔から、隠している場所が一緒なんだもん」
チャリンと鍵を鳴らしてみせる。
ちろりと舌を出し、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ははは。さすが腐れ縁だな」
「幼なじみ! もう、そんな言い方はひどいよ」
「……すまん」
この間のこともある。俺はちゃんとした謝罪をすべきなのだろう。
亜海をないがしろにし、妹の香弥を助けることだけを考えていた。
自分一人だけでは何もできないと知っていたはずなのに。
俺は何も喋らずに亜海を突き放した。
「亜海。……話がある」
「何? 改まって。今回のことと関係しているの?」
「ああ。……実はAIの香弥は、今SSFに囚われている」
「え! 香弥ちゃんが。また?」
「ああ。こっちにハッキングして、データを盗まれたんだ」
「それって、警察に届けるべきなんじゃないの?」
「いや、もともとは金剛型AIはあちらのものだ。俺たちが盗んだことになる。それに、こんな画像も送られてきた」
パソコンを操作すると、脅迫に使われた画像ファイルが映し出される。
「え! これって……」
「脅迫だよ。俺たちを監視している証拠でもある」
画像には赤い文字で、「殺す」などと書かれている。
ショックが大きかったのか、亜海は口を抑えたまま立ち止まっている。
「ご、ごめんなさい。何も知らずに、康晴だけを責めるようなことを言って……」
「いや、いい。俺ももっと早くに相談すべきだった」
「そんなことないよ。この会話も聞かれているかもしれないンでしょ?」
こくりと首肯する。
「しかし、どうするか。”ピラミッド”は複数人での対戦ではないしな」
「ピラミッド? あのSSFに実装されたもの?」
「ああ。あの頂上に香弥が囚われている」
「……そっか。ところで、シュティにも何か言ったんじゃないの?」
「連絡、取り合っていたんだな。……正直、俺はあのAIを香弥と完全に認めた訳じゃない。『お兄ちゃん』と呼んだだけだし」
「その気持ちは、分からなくもないけど。でもお父さんの、その遺産なんでしょ?」
「そう、だな。ははは。何悩んでいたんだろうな。オヤジの遺産なら、俺が回収すべきなのに」
「でも一人で抱え込んじゃ疲れるよ」
「亜海。俺は、どうしたらいい? 戦うことしかできないんだぞ?」
「……分からないよ。私にも」
亜海が持ってきてくれたスポーツドリンクをあおる。
「分かった! 私も参加する! そのピラミッドに!」
「は? なんで?」
「二人で参加すれば、勝率も二倍でしょ?」
「……単純にそういう訳じゃないが。しかも、俺が精神疲労で倒れたんだぞ? 亜海にはできない」
「勝手に決めつけないで! 私だって成長しているんだから!」
亜海の瞳の奥には、確かに炎が宿っている。
「……分かった。一緒に戦おう」
「うん。ありがと」
「それはこっちのセリフだ」
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