第37話 砂上の戦い
魔法陣を設置し終えると次の目標ポイントへ急ぐ。
遺跡。遺跡。岩場。遺跡。
周辺にある高いところに次々と魔法陣を設置していく。
七つ目の遺跡に入ると、動きが鈍る。
なんだ? ラグ? サーバーへの負荷が大きいのか。だとすれば、近くに敵がいる可能性が高い。
ごくりと喉を鳴らし、周囲を警戒する。
片手に剣を構え、もう片方で魔法を放つ準備をする。
警戒を解くことなく、屋上で魔法陣を設置。
光の輪に五芒星が浮かび、それがやがて消えていく。
トラップ型の魔法は設置したプレイヤーの視界には入るが、敵プレイヤーの視界には入らないように設定してある。そのため、俺にも敵のトラップは見えない。
すでに敵が入り込み、トラップを設置している可能性もありえるのだ。
マズいな。持久戦になると精神の削りあいになる。つまりは消耗戦だ。それで十連勝するのは難しいだろう。
ペース配分を考えると、すぐにでも倒したいが、相手も本気で勝ちにきていると思うと、気が抜けない。
十を超えた高台に魔法を設置し終えると、近くの遺跡で息を潜める。
二十分経過。
「よし。動くぞ!」
まずは一発目。
「ボム!」
手で弧を描く。
最初に設置した遺跡の屋上で花火があがる。
外れ。
手で弧を描く。
爆発……外れ。
手で弧を描く。
爆発……外れ。
爆発。
「ん? あそこは設置していない遺跡だな」
敵のか?
じっと観察していると、敵は周辺に魔法をばらまいて牽制をしているようだ。
あの動きからして、初心者だろう。
頭を遺跡に隠しているが、
「お尻丸出しだ」
手を挙げ、振り下ろす!
”アース・レイ”
オレンジ色の一条の光が空をないでいく
遺跡の屋上から放たれたそれは、吸い込まれるように初心者の体を弾き飛ばす。
「がっ!」
初心者は全身を打ち付けながら、地面を転げ回る。
俺は遺跡から飛び降り、砂漠の斜面を滑り、初心者の懐に飛び込む。
”アースボム“
爆発。
黒煙の中を突っ走り、剣を逆手持ちにする。
初心者の体に馬乗りになり、突き刺す。
「がっ! ……く、くそ! 遊びじゃないのかよ! なんでそんなに必死なんだよ!」
「ははは。エンジョイ勢とガチ勢の違いかな? エンジョイ勢なら、クエ受けとけよ!」
剣を引き抜き、傷口にアースボムを使う。
爆炎が舞い、初心者は四肢を散り散りにし、光となって消える。
【一回戦目クリア】
【You Win】
「よし! 一回戦目、勝ったぞ!」
喜びに震えていると、体が光を纏い、控え室に転移させられる。
控え室に入るなり、HPやマナゲージとマナゲージが満タンになる。
装備品以外の各種アイテムは回復しないが、今回は使用していないので問題ない。
次の戦闘のマッチングが始まる。
「ふぁ~」
欠伸とともに伸びをする。
一回戦目の疲労が少し残っているらしい。
緊張感のある戦いだった。相手が初心者かどうかも分からずに戦いになる。
神経がすり減るようなバトルフィールドだった。
時間制限もあるし、敵の挙動を予測した上での戦い。連勝していくにはキツイだろう。まるで精神を鍛えるためのような施設だ。
【マッチングクリア 戦闘を開始します】
表示を見て、息を整える。
「よし。やるぞ!」
バトルフィールドに投げ出されると、先ほどとは違う風景が広がっている。
起伏のある砂漠。岩場。遺跡。それらは変わらないが、その配置や小物が変わっている。
「マナが回復するのは分かった。なら、惜しむ必要もないか」
近くの遺跡に向かい、同じように魔法陣を設置していく。
次々と高台に魔法陣を設置していくが、警戒心は決して解かない。
遺跡に入った途端、目の前に屈強な戦士が姿を現わす。
驚いたのか、戦士は一瞬動きが止まる。
その隙を逃さずに、物陰に隠れる。
「ちっ! 逃がすかっ!」
「そう言われて逃げねー奴はいないぞ!」
地を蹴り、別の遺跡に向かう。
後方から火球が飛んでくるが、それを魔剣”クロノス”で弾く。
遺跡手前に辿り着くと、ワイヤーフックを取り出し、壁を登り始める。
「おいおい。マジかよ……」
戦士は呆気にとられて、魔法を放つのを忘れている。
それも含め、俺は幸運だ。
三階の窓から入り込むと、外にいた戦士は慌てて遺跡に入り、追いかけてくる。
この”ピラミッド”の仕組みは、二回戦以上した者同士がマッチングするシステムになっている。一回戦目は一回戦目同士しかマッチングしない仕組みだ。
つまり、相手もこのバトルシステムを理解していると考えるのが自然だろう。
長引けば長引くほど、精神の削りあいになる。
あの戦士は短期戦に持ち込もうとしている。恐らく我慢弱いのだろう。
戦士が遺跡内に入ったのを見届けると、再びワイヤーフックで壁伝いに屋上を目指す。
壁には魔法陣を設置していく。
”マジックボム”
合図で爆発する魔法陣で、先ほどの戦闘でも花火のように打ち上がっていた魔法だ。
屋上に辿り着くと、瞑想を始める。
数分後。
「やっと辿り着いたぞ! アーステイカーさんよぉ!」
目を開けると、そこには戦士が剣を構えている。
「遅かったな。暇だったぞ」
「な、に……?」
「もうリタイアしたのかと思ったぞ。あまりにも弱いもんだから」
「はっ! 抜かせ!」
剣を振り下ろす戦士。
それをバックステップでかわす。その先には足場などなく、空中に身を投げる。
「はぁあ!? 何をやっている!? アーステイカー!」
手で弧を描く。
さっきまでいた屋上に魔法陣が浮かび、光を増していく。
「な、なんだ!?」
爆発。
遺跡につけたワイヤーフックをシュルシュルと巻き取る。
壁に足をつけると、横目に戦士が落ちていく様が見える。
これで落下ダメージが入る。そこにアースボムを投げつける。
「く、くそったれ!」
自棄になった戦士は火球を放つ。
そのことごとくを剣で打ち返す。
「マスタングはこんなもんじゃなかったぞ! もっと滾らせる戦いを!」
「くっそー!」
戦士は地面に落ち、砂柱が上がる。直後、アースボムが爆発し、さらに爆炎があがる。
地面に降りると、戦士は未だにHPを残しているようで、立ち上がってくる。
「ほう。硬いな」
「へ。これでもコロセウムで戦い抜いてきたからな! 貴様は覚えていないだろうがな!」
怒りを滲ませる戦士。
戦ったことがあるのか。
でも、覚えていないってことはその程度なんだろう。
冷めた目で戦士を見つめる。
「せいっ!」
戦士は剣を振るう。
「動きが遅い!」
剣の軌道をかわし、懐に飛び込むと一閃。
「それに大ぶりだ。隙が大きい」
さらに背中を切りつける。
「重心と体幹も良くないな」
「くっ! そんなの! ゲームに関係ないだろ!」
「は、舐めるな。このゲームにはその感覚が大切なんだよ!」
剣を突き刺し、最後のHPを削りきる。
「ば、ばかな……」
剣を鞘に収めると、ため息を吐く。
今度も滾るような戦いではなかったな。
初心者と大差なかった。
どのゲームにも言えることだが、ゲームのクセや大切にしているポイントがある。それを把握するのから始まる。ついでプログラミングを読み取ることだ。
しょせんはゲーム。プログラムされた世界なのだから、演算処理の予測はかなりの重要要素になってくる。
【試合終了】
【待機室へ転移します】
直後、体を光が包み込み、転移が開始される。
控え室に戻ると、そこには現在戦っているバトルがモニターで確認できる。
「次の対戦相手は誰だろうな……」
強い相手がいいな。
マスタングやユウ。シュティのような。
「シュティ……か。あいつは今、どうしているんだろうな」
俺があいつとの交流を打ち切ってしまった。
落ち込んでいるのだろうか? 諦めているのだろうか?
それとも、この戦いに参加しているのだろうか?
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