第36話 復活のゲーマー
「はっはっ!」
試合開始早々、マスタングが大剣を振りかざし突っ込んでくる。
作戦も何もないな。
直線的な動きを回避し、”アーススピア”を設置する。それでHPを削れる。
トントンと、アーススピアの設置をする。
剣は軽く構えるだけ。
マスタングは相も変わらず、真っ直ぐ接近してくる。
剣を振り下ろした瞬間、俺はサイドステップでかわし、アーススピアが発動する。
岩の槍が飛び出し、マスタングを貫――いたはずだった。
「はっ! おれにそんな攻撃は通じないんだよ!」
マスタングは岩の槍に手を当てて直撃を回避。岩を蹴り、空中で転身。肉薄してくる。
「――っ!」
俺は慌ててバックステップでさがる。
「へっ! 逃げるだけかよ!」
マズい! さっきので攻撃が成功すると考えていた。だが、実際にはマスタングが意外な軌道を描いた。
マスタングの剣の軌道を読んでかわすので手一杯だ。
「遅い! 遅い! 遅い!」
魔法を使う余裕もない。
連撃からの突きがくる。
回避行動をするが、肩に痛みが走る。
「ぐっ! 強い!」
「へ! てめーがなまっているんだよ!」
マスタングは剣を引き、構えなおす。
このままじゃ追撃がくる。ポーチから閃光玉を取り出し、投げつける。
「くそっ! 閃光玉かよ!」
マスタングはそれを剣でいなす。後方へ流れていく閃光玉はマスタングの後方で爆破。閃光を放つ。
システム的に閃光で目がくらむこともなく、マスタングは真っ直ぐに突っ込んでくる。
それでも距離をとることはできた。
連撃を回避し、どんどん壁際に追い込まれていく。
「おいおいおいおい! そんなザコだったか? おれの相手としては不足だな!」
「くそ! うっせーよ!」
俺の回避を予測しているのか、マスタングの攻撃は的確で、壁に追い込まれる。
ドンと壁に背中がつく。
退路を塞がれた。
背筋にぞわりとした感覚が走る。目の前には銀色に光る切っ先。
「くそったれ! 死ねばもろともだ!」
アーススピアを設置。アースボムを投げつける。
手のひらサイズの岩をマスタングの剣に触れると爆発し、爆風と熱波が届く。
「ちっ! こんな攻撃!」
アースボムは初級魔法。あまり威力もないし、連続攻撃もできない。
耐性を持ち直したマスタングは再び剣を片手に右手から突っ込んでくる。
次の瞬間、岩の槍が俺ごと、マスタングを突き刺す。
「ぐはっ。 へっ! てめーらしくねーな!」
突き刺さったまま、マスタングは大剣の切っ先をこちらに向ける。
「まだだ! 俺はまだやれる!」
「……今さらかよっ! 終わりだ!」
ワイヤーフックを取り出し、射出。ワイヤーがマスタングの大剣に絡みつき、自由を奪う。
「なっ! これは……」
本来、ワイヤーフックは高い位置や低い位置へ移動するための、ただのかぎ爪のついたロープだ。
さすがに、以前やったような連続使用ができないよう修正されているが、それでも当たり判定はある。
突き刺さった槍が砂塵に変わり、自由になれる。
ポーションを取り出し、HPを回復する。
「なんだよ! これは!」
ワイヤーに手こずるマスタングに接近し、一閃。
ダメージエフェクトが走り、マスタングは振り返る。
「てめーはおれが殺すんだよっ!」
マスタングは閃光玉を投げる。
「しまった!」
閃光が視界を白一色に染め上げる。それと同時にキーンという音が耳をつんざく。
視界も、聴覚も奪われた。
「だが、――」
剣を振りかざす。
視界が開けると同時にマスタングの喉元を突き刺す。
「見えるんだよ」
アクセサリー”覇者の指輪”。あらゆるデバフの時間を大幅に短縮する。
故に閃光玉による”ブラインド”と”無音”のデバフもすぐに効果切れになる。
「へっ! やっぱ、その顔しているんじゃねーか」
マスタングが光の粒子になり消えていく。
視界が暗くなり、コロセウムの控え室に転移させられる。
【You Win】
「……勝った。勝ったぞ!!」
歓喜に震える体を持て余し、コロセウムを出る。
出た瞬間、マスタングが待ち構えていた。
「へっ! やっぱ貴様は天性のゲーマーだぜ」
「ゲーマー……?」
唐突に言われて呆けてしまう。
「はっ! てめーは楽しみたくてしょうがない。より高みを、より強者を求める目をしてやがる。そんなてめーに、ゲームを止めるって選択肢はねーだろ?」
違うか? とその目が問うている。
そうか。俺は一人のゲーマーなんだ。どうしようもなく、ゲームが好きで好きでしょうがない。そんなゲーマーなんだ。
「なら、最強を目指さないとな!」
「はっ! おれがそうはさせねーよ! コウセイ!」
「バカも休み休み言え!」
マスタングの掲げた拳に、俺も拳を掲げる。
カツン。
そう聞こえた気がした
「そんじゃ、まあ今からでも”ピラミッド”を攻略しましすか!」
「はっ! 最後に勝つのはおれだ! もう、てめーには負けね-ぞ!」
「言ってろ!」
不思議と今までの葛藤も、悩みも吹き飛んでいた。
マスタングとの会話が妙に心地よい。
砂漠エリアへ転移し、アイテムを買いそろえる。
「これで準備万端だ。マスタングはどうだ?」
「こっちも絶好調だぜ! さっさと殺したい!」
「おいおい。ザコ相手に負けんなよ?」
「それはこっちのセリフだっての!」
「そんじゃ、まあ」
ピラミッドの受付につくと、
「「決勝戦で!!」」
二人は叫ぶ。
ピラミッドに入ると、
【
【Yes No】
もちろん、Yesをタップしマッチングを開始する。
【マッチングクリア】
目の前が暗くなる。
一秒もかからずに、すぐ目の前には砂漠が広がっている。
砂漠には隆起や沈降した波のようなものがあり、ところどころに岩や遺跡の遮蔽物が存在する。
どうやら広さはコロセウムの比ではいようだ。コロセウムでは必ず見える位置に敵プレイヤーがいる。加えて、遮蔽物の多さが目につく。
これなら、トラップ系の魔法も絶大な効果を発揮するだろう。
地形そのものを利用しての攻防が繰り広げられるのは目に見えている。
「となると、まずは自分の位置を隠すか」
近くにある沈降で身を隠し、周辺を確認する。
周囲五百に敵影なし。
マナやアイテムにはどの道、使用限度がある。となれば、接近戦にもつれ込んだ方が有利だろう。
だが、この広大なマップで
「くそ。感知系の魔法やスキルを取得しておくべきだった……」
しかし、悔やんでも仕方がない。
ここはもう戦場なのだ。今、自分にある物で対応するしかない。
できることをするしかない。自分のために。
喩え、他人を利用しようとも。
コンソロールを操作し、普段つかわない魔法一覧を確認する。
まずは現状の把握。取得したまま、放置している魔法も多い。なんせ取得済みの魔法は五十を超える。全てを覚えている訳がないのだ。
めぼしいものを見つけると、ショートカットキーを設定。
トントンと地面を二回叩き”アーススピア”が発動するのもショートカットキーのお陰だ。
普段なら言葉にして発動するものも、体の動きに合わせて発動できるようになる。
ただ普段の動きで、それを設定してしまうと無駄に発動しすぐにマナが枯渇する。
一通り設定を終えると、近くにある遺跡に向かう。
大きさは十階建てのビルくらい。
全てが砂岩でできているので、構造上の欠陥がありそうだが、そこはゲーム。
崩落することもなく、内部に侵入できる。
不意打ちに注意しつつ、屋上まであがる。
視界端にある時計を見ると、その下にはタイムリミットが表示されている。
恐らく、膠着状態になるのを防ぐための措置だろう。
「よし。敵をあぶり出す!」
魔法陣を設置する。
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