絶対に妹は殺させねぇっ!

夕日ゆうや

第0話 終幕後

「うふふふ! コウセイはアタシのものよ!」

「違うって~! 私の幼なじみなんだから!」

「お兄ちゃんはわたしのお世話係になるから、シュティさんやジークに構ってられないんだもん!」

 俺は小さくて未成熟な子をお迎えしたいな……。

 かといって実妹はダメだろうけど。

「コウセイはアタシの大人の色香に囚われているのよ」

 そう言ってシュティは片手剣を振り、ゴブリンを切り裂く。

 仰け反ったゴブリンに大量の火球が降り注ぐ。

「それなら、私にだって権利はあるよ!」

 ゴブリンのヘイトがシュティからジークに移る。

「そんなこと言ってもお兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんだもん! それは変わらないよ!」

 そうだな。お前が俺の妹であることに変わりないな。

 俺はジークを庇うようにゴブリンを切る。

「ほら! やっぱり私を助けてくれる!」

「何を言っているのかしら。あなたはただの奴隷よ。肉奴隷よ。そんなことも分からないから、一生幼なじみ止まりなのよ」

「あの~。そんな会話はどうでもいいからゴブリンを蹴散らせてくれよ……」

 俺は懇願するが、誰も聞いてくれない。

「バカ女!」

 ジークの振りかざした杖が光り輝く。

「それはあなたでなくて?」

 シュティの魔剣が光り輝く。

 魔法のエフェクトが、剣戟のエフェクトが、ぶつかり合う。

 周囲にいたゴブリンはその余波でHPを削られていく。

「えっい」

 弱ったゴブリンを木の棒で突く妹、香弥かや

 ゴブリンは光の粒子となって消えていく。

 視界端の過去ログに【ゴブリンが倒れました。――は経験値10を獲得。Gp2を獲得。Cをドロップ】と記載されていく。

 その隣で俺もゴブリンを捌いていく。

 シュティとジークの私闘に巻き込まれたゴブリンに心の中で黙祷を捧げる。

 ごめんね、と。

「この分からず屋!」

 ジークは魔法で生成した剣を飛ばす。

 シュティがかわすが、その後方にいたゴブリンは攻撃を受け、砕ける。

「あら。アタシがあなたのルールに縛られる必要はなくて?」

 シュティが氷の刃で横薙ぎに振るうが、ジークはかわし、ゴブリンは切られる。

「あいつら、香弥のレベル上げだって分かっているのか?」

 首を傾げ、疑問符を浮かべる。その隣で採取クエをこなす香弥。

 その後ろを狙うゴブリンを蹴り飛ばし、投擲用の針を投げる。

「香弥、あのゴブリンは弱っているぞ」

「うん! わかった!」

 HPの減ったゴブリンに木の棒で突く香弥。

「そもそも、康晴こうせいと付き合いは私の方が長いんだから!」

 必死で訴えるジーク。

「あら? 付き合いの長さは関係ないでしょう? アタシならコウセイの性欲を満足させてあげられるわ」

「せ、せせ……ななんてことを言うの! この破廉恥女!」

「うふふふ。子孫繁栄は動物の本能よ。それを否定するあなたはやっぱりお子ちゃまね」

 煽るシュティに、ジークは怒りで顔を真っ赤にする。

「お兄ちゃん。これは換金率たかい?」

「どれどれ? ああ。赤キノコは高くないよ。それよりも隣のテングダケにしな」

「え。どうして? どくがあるんでしょ?」

「ああ。でも狩りの時に毒矢とか、麻痺毒とか。いろんな使い道があるんだよ」

「そうなんだ。わかった!」

 元気よく応える香弥。

 その声に反応したゴブリンがこちらを向く。

「遅いよ」

 俺は剣を振るう。

 システムアシストにより、高速化した剣筋はゴブリンを次々と叩き切る。

「うふふふ。コウセイの白いアレはアタシが頂くのよ」

「そ、そんな不純な動機!」

 ジークは肩をわなわなと振るわせながら、魔法を発動する。

「そんなこと言って、あなたもコウセイのコウセイ狙いなんでしょ? 恥ずかしがっていると、処女だとバレるわよ? もうバレているけど」

「そ、そんなことない! 私はモテモテだよ! 街を歩けば棒にあたるんだから!」

 そんなモテモテのジークを見たことがないんだよな~。まあ、かわいい方ではあるけど。

「あら。棒にあたるのね!」

 堪えきれずにクスクスと嗤うシュティ。

「同じパーティなんだから、もっと仲良くしてくれよ……」

「あら? パンティがどうかしたの? ちなみに今日は黒を履いているわ」

 おう。思いがけない有力な情報!

 ……俺だって年頃の男の子なんだよ。止めろよ。そんな目で見るなよ、ジーク。

「わ、私だって黒を履いてみせるよ~!」

 涙目でそんなことを語られてもなー。それと、本題からずれているからな? パンツの話じゃないからな?


「あらかた、片付いたわね。そっちはどうかしら?」

 シュティの視線は香弥に向く。

「ん。たくさんあつまった」

 実を言うと俺、シュティ、ジークはゴブリンの討伐クエ、香弥だけは採取クエを行っていた。

 たまたま、討伐クエと採取クエが同じエリア内であったので高レベルのゴブリンのおこぼれで香弥のレベルを上げつつ、採取クエも同時にこなそう! という魂胆だった。

 結果うまくいったのでよしとしよう。

 とはいえ、ジークとシュティにはあとで厳しく説教をしなくては。

「私、マナが尽きたよ……」

 仲間ステータスを確認すると確かに青いゲージが残り僅か。

 マナ消費量の少ない初級魔法くらいなら使えるだろうけど。さっき連発していた大技は無理だろうな。

「それじゃ、街に帰るとしますか」

 そんな時、視界上段の右のコールサインが鳴る。

 なんだろう?

 そう思いタップすると、個人パーソナルチャットが立ち上がる。

『俺様と戦え! コウセイ!』

 と短く書いてある。

「ああ。マスタングか。しつこいな……」

「ん。今日だけでもう五十回」

「何それ。ストーカーじゃない! いやだ」

 ジークが身をよじらせ、ぶるぶると震える。

「あら。どうせコウセイが勝つのだから相手してあげたら? GpもCも稼げるでしょう?」

「今はいいや。それよりもこいつと一緒にいたいし」

 そう言って香弥の頭を優しく撫でる。

「シスコン」「シスコンね」

 冷たい視線を浴びるが、俺は決してシスコンではない。

 ただ幼い者は可愛がるべき! だと。そう言いたいのだ。

 ただし、小学生までだがな。中学生とか、おばさんだよ。

 そもそも小学生までは尊い存在であって、気軽に触れていいものでもない。

 かと言って、妹の香弥が小学生なのかは不明だ。


 なぜなら小学五年の時に亡くなっており、それから三年は経っているのだから。

 香弥が死んだ。その一報を聞いたのは一年前。

 こうして香弥と会えるようになったのはここ一週間ほど。

 シュティと出会ったのも一ヶ月も経っていない。

「懐かしいな。あの頃は一人でなんでもやろうとしていたし」

「あら。それはコウセイが名を上げたばかりの頃かしら?」

「ああ。その後にジークが参戦したんだよな」

「そうだよ! だってコウセイてば無理なレベル上げとGp稼ぎしていたんだよ」

「そっか。もう一ヶ月前になるのか……」


 時間の流れを感じつつ、ここ一ヶ月を振り返る。

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