第42話 運命のマッチング

 SSFのメンテナンスが終了すると、同時にログインをする。

 必要な手順を踏み、最初の街。その中央広場に転移すると、隣にはジークもいる。

「まずはアイテムなどの確認をした方がいいぞ」

「え!」

「緊急メンテでは一部のデータが破損している場合もあるんだ。下手をするとレベルやら、ステータスやらが戻っている可能性もある」

「わ、分かった」

 コンソールを開き、色々と確認するが問題は見つからない。

「よし。大丈夫だ。戦闘記録も残っている」

「私も大丈夫だよ。さっそくしようか? Gp」

「ああ。そうだな。でももっと静かなところで」

 周囲の喧騒。雑踏。次々と転移してくるプレイヤーたち。

「うん。そうだね」

 俺とジークは近くの喫茶店に入り、コンソールを操作する。

【30000Gpを受け取りますか?】

【Yes No】

 承認すると、Gpが一気に増える。自分のと合わせて8万ものGpがある。

 これでだいたいのものは買える。

「よし。じゃあ、俺は”ピラミッド”に行くから」

「うん。気をつけてね」

「ああ。無理はしないさ」

「ホントかな~?」

「うぐっ」

 痛いところを突かれた。

 確かに俺は精神的疲労で倒れた。だから言い返せないし、ジークが心配するのも分かる。

「でも、必ず帰ってくるんだよね?」

「あ、ああ。俺にはやらなくちゃいけないことがまだ、たくさんある」

「そっか。なら、いってらっしゃい」

 俺はジークに送り出されると、転移駅を利用する。

 クリスタルを消費し、ピラミッドのある街まで移動する。

 ピラミッドの受付に入ると、表示が現れる。

【中断していたデータがあります。続きから始めますか?】

 全てが表示される前にYesをタップし、控え室に転移される。

「ふぅ。ここまでは問題なし。データの破損もない、と」

 メンテが始まった時、ヒヤヒヤしたが、問題なく引き継がれているようで安心した。

 壁に設置されたモニターにタップし、マッチングを開始する。

 数分後。

【マッチングクリア。戦闘バトルを開始します】

 周囲が白い光で覆われる。

 次に目を開くと、やはりそこは砂漠。ただし遮蔽物の中には壊れた戦車やジープなどが転がっており、とてもファンタジー溢れる世界とは思えない。

「”スマートウイング”が実装されるってのにな」

 スマートウイングは装備スロットにセットすると、空を飛べるようになる装備品だ。

 飛行能力はあるが、防御や攻撃が低下するため、戦闘向けではなく、あくまでも世界感を楽しむエンジョイ勢向けの装備品になる。

 飛行にも色々と制約があるらしく、現在調整中とのこと。

「しかし、まあ、」

 そんなファンタジーとは無縁の、どこまでも空虚な世界が眼前に広がっている。

 そこには俺と対戦相手の二人しかいない。

 マナもHPも全快していることから、不安なく戦闘に向かえる。

「とりあえず、今まで通りの戦略でいくか」

 遺跡に魔法陣をセットし、隠れる場所をなくす。あるいは、そのまま圧殺させてもらう。

 遺跡に入ると、ピリリとした雰囲気を感じ取り、慌てて物陰に隠れる。

 瞬間、鼻先を氷の矢がかすめていく。

 こちらの侵入に慌てて攻撃してきた――となれば、相手にも想定外の出会いということか。

 いきなり会敵するとは思わなかったが、これはありがたい。

 早期にこの戦いを止めることができるのだから。

 今までの戦闘から分かったが一回の戦闘が長引けば長引くほど、次の戦闘に影響してくる。

 やはり、早めに倒すべきか。

 物陰に”アシッドボム”の魔法陣を設置し、ワイヤーフックで天井にぶら下がる。

 上からは人影が物陰を慎重に覗う姿が丸見えだ。体型からして女か。

 そして、その人影が物陰に氷の刃で斬りかかる。

「今だ!」

 パチンっと指を鳴らすと、アシッドボムが爆発し、強酸を辺りにまき散らす。

「きゃあ!」

 人影は悲鳴を上げ、逃げまどう。

 ワイヤーフックをそのままに、剣を構え降りる。

 人影の逃げ道を防ぐようにして降りると、

「……シュティ」

「その声、コウセイなの……?」

 大きく見開かれた目は動揺しているように見えた。

「なんであなたがここにいるのかしら? とっくに止めたのではなくって?」

「気が変わったんだよ。俺だって、上にいる奴を保護する権利がある」

「そう。なら、」

 氷の矢が飛んでくる。それを剣で弾く。

「戦うしかないわね!」

 シュティは背に無数の氷塊を出現させる。そのどれもが槍の形をしている。

 ”アイススピア”

 それも”重複効果”によって強化されたそれが一斉に降り注ぐ。

 ソファやロッカーを盾にして、逃げる。

 砕けた氷がキレイな光を放ち、消えていく。

「なんでシュティが参戦しているんだよ! オヤジの遺産がそんなに欲しいのか!?」

「ええ。そうよ! アタシは瀧士博士の研究データが欲しいわ!」

 氷の刃が切り刻み、槍が降り注ぐ。

 逃げ場は天井か? いや、もう少し引き寄せる。

「はっ! やっぱり魁と同じじゃないか! それで香弥を引き渡せるものかよ!」

「違うわ! アタシは香弥ちゃんの製造データが欲しいの。香弥ちゃん自身を求めているわけじゃない!」

「その言い方だと、魁とは違う目的みたいだな! 奴の狙いはなんだ?」

「魁の狙いは香弥の演算処理能力よ! それを応用して、完全なる電子生物の構築。それの軍事転用よ!」

「ぐ、軍事?」

 突然の話に、頭をハンマーで殴られたような衝撃が走る。

 ニュースでAIが軍事利用される可能性を示唆していたが、ほとんど都市伝説だと思っていた。そんな自分が確かに存在していた。

 でも、違った。あれは本当の話だ。

 いや、

「その証拠はあるのか? 香弥を軍事目的で利用するという」

「ええ。あるわ! ここにはないけどね!」

 氷の槍がソファを貫き、ロッカーに突き刺さる。

 もう少し、もう少しだけ耐えてくれ。

 アシッドボムの設置。アースボムを頭上に投げ、穴を空ける。

「どこに投げているのかしら?」

 嘆息するシュティ。

「以前に戦った時はもっと闘志溢れていたのに残念だわ」

「うるせー! 俺はお前に構っている暇はないんだよ!」

 ロッカーの影からアースボムを放り込む。

 それを蹴り返すシュティ。

 ”アースウォール”

 岩の壁で爆発を逃れると、二階まで空いた天井にワイヤーフックを打ち込む。

「あらあら。これで終わりかしら」

 氷の刃を片手にロッカーの前に立つシュティ。

 斬りかかる!

 俺はワイヤーフックを巻き取り、空中に逃れる。

「終わるのはそっちだ!」

 指を鳴らすと、アシッドボムが発動する。

 爆風とともに強酸をばらまく。

「きゃあ! コウセイ!」

 シュティはすぐさま、体勢を整え、氷の槍を放つ。

 そのことごとくを切り払い、二階に辿り着く。

「逃げられましたわ!」

 インベントリを開き、いくつかのアイテムを実体化しておく。

 シュティは遠回りをして二階に上がってくるだろう。アシッドボムを設置し、元来た穴へ引き返す。

 一階へ降りた俺は周囲に魔法陣を設置していく。

 どんな建物でも一階にある柱で支えている。

 だから、その全てを破壊してしまえば遺跡は崩れる。

 俺は遺跡の外に飛び出すと、手を振る。

 同時に全ての柱が爆炎に呑まれる。

 膨張した空気が熱気を孕み、俺の腹に響く。

 遺跡はガラガラと音を立てて崩れ始める。

「……ははは。仲直りするつもりだったのにな。何をしているんだ? 俺は」

 闘争心で、シュティを攻撃してしまった。

 話し合えば分かってくれたかもしれないのに。

 シュティを目の前にした瞬間、頭が真っ白になった気がした。

「しかし、」

 魁が香弥の、AIの軍事転用を狙っていると言っていた。

 ”完全なる電子生物”

 その意味するところが分からない。

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