第8話 VS BOSS戦

 ゴーレムの拳を弾き返すと、ゴーレムの周囲を走る。

 隙が生まれる、その瞬間を狙う!

 後方から飛んでくる氷魔法。

 シュティの支援が少しづつ、HPを削っていく。

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 68

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「ダメージが低い? 魔法耐性が高いのか?」

 ゴーレムはうなり声をあげ、跳躍する。

「またかよ!?」

 シュティへのヘイトが高かったのか、そちらに向かっていく。

「くそっ! 間に合えよ!」

 ゴーレムと並走する形で、シュティに向かう。

 手を伸ばし、シュティを後ろに吹っ飛ばし、もう片方の手で地面を叩きジャンプ。

 後方で大きな重低音。

 回転する視界の端でゴーレムをとらえ、体勢を整える。

 剣を持ち直し、地を蹴る。

 ゴーレムの奥でシュティがかわしている。

 頭上からの氷柱攻撃をかわし、一気に加速する。

 ゴーレムの懐に入り込むと、一閃。

 カキンッ。

 金属が弾かれる甲高い音が鳴り響く。

「硬い……! 防御力も高いのかっ!」

 通常、この手のモンスターは魔法耐性か、物理耐性のどちらかが、低く設定されている。いわゆる弱点の設定だ。

 だが、このゴーレムにはそれがない。

 設定ミスか。挑戦レベルミスか。それとも他の……、

「コウセイ! かわして!」

 凜とした声にはっとし、ゴーレムの”岩投げ”攻撃をかわす。

 かすったダメージが痛みを伴う。

「ちっ! こいつ!」

 遠くから飛んでくる矢がゴーレムにヒットするが、1。

 ジークではレベル差がありすぎる。

「ジーク! お前は攻撃するな! 回避に専念しろ!」

「う、うん! 分かった!」

 怒声のように張り上げ、注意を指示をとばす。

「数合わせなんだから、死んでもいいでしょう? コウセイ!」

 氷の刃がゴーレムを切る。

「シュティ! 俺の仲間だぞ! 分かっているのか?」

「そんなこと言ったって!」

 ゴーレムの棘が弾丸のように放たれ、一直線に飛んでくる。

「デスペナルティだけでしょうに!」

「だからと言って見捨てていい理由にはならないだろ!」

 少なくとも、一度でもダメージを与えたジークにも経験値は入る。死ぬと、それすらもなかったことになる。

「かわせ! シュティ!」

「ええ!」

 ゴーレムの拳が宙をないでいく。ついで、小ジャンプ。

 着地。

「上!!」

 氷柱が降り注ぐ。

「かわすぞ!」

「どこかに弱点はないのかしら!?」

 焦ったシュティが悔しそうに唇を噛む。

 確かに。未だにHPゲージは90%も残っている。

 いくらなんでも硬すぎる。


「戦闘開始から二時間……」

 俺は視界端にある時間を確認する。

 HPゲージは未だに80%だ。

 四時間で休息時間に入る。再ログインすると、街でリスポーンされてしまう。

 つまり、休息時間に入れば最初からの戦闘になる。

「くそっ! こっちはパーティパブがかかっているのに……」

 パーティを組むと、全能力値が数%上昇する。

「人が少なかったのかしら?」

「それはない。人数が多くなると、ペナルティが発生する。普通は三人から六人程度だ」

「それにしては、耐性が高すぎるわね」

 そう。防御が高いのだ。

 恐らく、俺とシュティならレベル100のモンスターですらも楽に倒せるはずだ。

 このゴーレムは85。明らかに設定がおかしい。

 降り注ぐ氷柱の雨をかわし、ゴーレムを切りつける。

 入れ替わるように、シュティが氷の刃で切りつける。

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 明らかにシュティの攻撃にデバフがかかっている。

 40以上の差は乱数調整の域を超えている。

 となれば、残るは……、

「そうか!」

「何か分かったのかしら?」

「あいつの頭上、氷柱を狙ってくれ!」

 シュティは逡巡し、そしてはっとした顔をする。

「分かったわ!」

 シュティは氷の矢を氷柱に向けて、放つ!

 ヒットした氷柱は揺れ動く。

「思った通り。あれが奴を攻撃する方法だ」

 昔からよくある手段だ。

 相手の攻撃やフィールド上に存在するオブジェクトを利用した攻撃方法。

 氷柱は真っ直ぐにゴーレムに向かって落ちていく。

 そのダメージはたいていが大ダメージになる。

 直撃。

 つまりは唯一の攻略法。

 ゴーレムは呻き、HPの20%が消し飛ぶ。

「あら! 楽勝じゃない!」

 シュティは再び氷柱を落とす。

 さらに20%減少。

「よし! 残りHP半分を切った!」

 喜びもつかの間。

 ゴーレムの砕けた氷が剥がれ落ちていく。

 内部から熱気が吹き出し、氷の鎧がみるみるうちに溶けていく。

「第二段階かしら?」

「ああ。だろうな。ここからが本番だ!」

 氷の鎧の中から現れたゴーレムは鍾乳洞のそれと同じ乳白色をしている。

 身構えると、高速でフィールド内を駆け回りだす。その速さは時速60キロは出ている。

 その振動につられて氷柱がランダムに降り注ぐ。

「マジかよ……耐久型から一点、敏捷型に変化するのか」

 落ちてきた氷柱を手で弾き、そのまま攻撃に利用するゴーレム。

「うそ!?」

 シュティはしゃがんで回避するが、砕けた破片がダメージを与える。すでにシュティのHPはレッドゾーン。90%以下まで削れている。

 そこに淡い緑色の光が舞う。

「回復ポーションか? ジーク!」

「ふん。余計なことをしてくれちゃって……」

 苦々しく呟くシュティ。

「あら?」「おかしい……」

 ゴーレムがこちらに向かってこない。

「まさか! 回復ヘイトか!」

 俺はすぐにマップを開き、ジークの位置を確認する。

 ”加速”のスキルを使い、フィールド端にいるジークを目指す。

 回復を行うプレイヤーに攻撃が集中するようプログラムされているとは。

 ジークのレベルでは一撃すらも耐えられない。

 ゴーレムの股下を潜り、ジークをお姫様抱っこすると、壁沿いに駆け抜ける。

 先ほどいた空間を氷柱がないでいく。

「あ、ぶね~。ひやひやもんだな」

「危なかった、んだ……」

 未だに自覚がないのか、どこか楽観的な表情をしているジーク。

「ん? どうした? 胸なんて押さえて」

 ダメージはないはずだ。でなければ、光となって消滅しているだろう。

「うん。ちょっと、ね。それよりもありがと」

「それはこの戦いが終わってからな」

 後ろを追従してくるゴーレム。

 今はまだスキルによる加速効果が持続しているが、このままではいずれ効果が切れる。

 スキルを使ってゴーレムと同等の速さなのだから、いつかは追いつかれる。

「マズいな……」

 横合いから氷解が飛んでくる。それがゴーレムを直撃。

「この攻撃……シュティか」

「あらあら! こっちですわ! お人形さん!」

 連続で氷魔法を叩き込む。

 ゴーレムのヘイトがそっちに集まったのか、方向転換。

「よし。今のうちに降ろすぞ」

「ええ!」

「……なぜ、否定する?」

「え。あ、いや。なんでもない……」

 なんでそんなに残念そうなんだ?

「俺も前衛で戦う。ジークはもうポーションも使うな。いいな?」

「う、うん。分かった。気をつけてね」

「ああ」

 短く応えると全速力でゴーレムに向かう。


 氷魔法の”アイスニードル”がゴーレムのHPを着実に削っていく。

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「さっきよりも手応えがあるわ! やっぱり形態変化系のボスだわ!」

 喜んでいる暇もなくゴーレムの拳。その直撃を受けるシュティ。

 吹っ飛ばされ壁に激突する。

 先ほどまで80%あったHPが今やたったの6%だ。

「負けちゃう……」

 目の前のゴーレムは拳を振り下ろす。


「何弱音を吐いているんだよ!」

 俺は地面に手をつける。

 ”ジェムウォール”

 鉱石でできた壁が地面からせり上がり、ゴーレムの拳を受け止める。

「俺を甘くみるなよ!」

 回復ポーションをシュティに選択。使う。

「ありがとう」

 シュティは立ち上がるが、HPは40%程度。

「そこで休んでいな。あとは俺がやる!」

 鞘から剣を引き抜き、構える。

 ジェムウォールの効果が切れると同時に、横薙ぎに切る。

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