第52話 ピラミッド決着戦
「決着だと? どういうことだ?」
「それをおれに聞くか? てめーとおれのデスマッチってことよぉ!」
「そうか。なら始めようじゃないか。マスタング」
「へっ! いいぜ。コウセイ!」
視界が切り替わる。
既存のデータを流用したのか、見慣れた大地が広がっている。
黄色がかった茶色い大地。広さはさほどなく、周囲を覆う壁は弧を描いている。
その円の端と端に人影がある。
片方は俺。もう片方がマスタング。両端に位置する二人は目視で、人差し指程度の大きさにしか見えない。それでも敏捷性の高いステータスなら、一瞬で詰め寄れる距離だ。
観客席は寂しく、椅子だけが並んでいる。
「”コロセウム”のデータを流用したのか。シュティ、そっちはどうなっている? 座標が狂ったんじゃないか?」
『確かにコウセイの位置座標は存在しないエリアですわ。でも転移する前に座標データを取得し、ロックしました。これで二人が対戦中でも随時データのダウンロードを行えます』
「優秀だね~。お陰で香弥は救えそうだよ。どうすればいい。持久戦をするか? それともソッコーで片をつけるべきか?」
『……勝てるなら早くても問題ないでしょう。とにもかくにも時間いっぱい負けないでください』
「了解」
『康晴。香弥ちゃんのこと頼みよ』
「おう。任せろ!」
マスタングの後方に砂埃が舞う。
「くる!」
あまりにも直線的な運動に、俺はギリギリまで引きつける。
「はっ! てめーはこの剣の錆にしてくれるわっ!」
「ならねーよ!」
切っ先をかわし、最小限の動きでかわす。
マスタングは背にあった壁を蹴り、宙に舞う。
振り下ろされる剣にタイミングを合わせ、蹴りをいれる。
「がっ! くそったれ! てめーは大人しくやられていろよ!」
「冗談!」
バランスを立て直し、着地するマスタング。
一気に距離を詰め、一閃。
金属音が鳴り響く。
「ちっ! 剣でガードしたか!」
「あたぼうよっ! アブねぇ奴だな!」
「互い様だろ? マスタング!」
肩についた砂を払うマスタング。
「へっ! よく分かってんじゃねーかっ!」
肉薄するマスタング。剣と剣がぶつかり合い、激しい火花が散る。
「ぐっ! 横から蹴りを入れやがった」
呻くように呟くと、マスタングはしてやった! という顔をしている。
「ハハハ! てめーの真似をさせてもらったぜ! え! おい」
「ふ、ははは! 楽しいな! このバトルは!」
アドレナリンが分泌されているのか不思議と痛みはない。むしろ高揚している。
視界がクリアに感じる。
「行くぞ!」
「来いよ!」
地を蹴り、マスタングの剣とぶつかりあう。
『康晴! なんで背後をとらないの? いつもならそうしているじゃん!』
「亜海! 男同士の間に入るな!」
「ハハハ! てめーの言う通りだ! これは試合じゃない! 決闘なんだよ!」
『ダウンロード30%完了!』
剣と剣が交じりあい、バトルフィールド内を走り回る。
漆黒の軌跡と紅の軌跡が何度もぶつかり合い、弾ける。
「ハハハ! やっぱ、てめーとの戦いがサイコーだな!」
「そりゃどうも! でもそれはお前だけじゃないんだよ!」
大剣を片手で振るうマスタング。
魔剣を両手で振るう俺。
つばぜり合いになり、マスタングはその空いた手で拳を握る。
「マズい! ”クロノス”!」
魔剣”クロノス”は漆黒の光を放つ。
”高速化”のバフがかがる。
上がった速度でバックステップ。拳を回避する。
「はっ! やるじゃねーか! なら、よぉ!」
この距離ならマスタングの大剣も届かない。そんな距離に逃げたというのにマスタングは剣を振り下ろす。
「”ソニックブーム”!!」
「なっ! バカな!」
大剣から放たれた光の刃は一直線にこちらに向かってくる。
「ちっ!」
体をひねり空中で半回転する。衣服の一部がダメージを受けるが、
「直撃はかわせた!」
服の耐久値から察するに先ほどの技は通常攻撃の七割くらいの威力しかない。
「おいおい。マジかよ……。てめーとの戦いにせっかく用意してやったのに」
「けっ! この程度で負ける訳にはいかねーよ!」
剣を構えなおす。
「俺には負けられねー理由があんだよ!」
「はっ! またそれか! しがらみなく、純粋に戦いを楽しもうぜっ!!」
剣を振るうマスタング。その光の刃はバトルフィールドに大きな爪痕を残していく。
俺のかわした直後を狙っての二撃目。
着地硬直を防ぐため、剣の重心を傾けわずかな時間、空中にとどまる。その少しの間に地面を切り裂く光の刃。
「はっ! まるでサーカスだな!」
「俺は道化師ってか? ふざけんな!」
矢継ぎ早に繰り出される光の刃を切り裂く。
「遅い! 俺には勝てないようだな! マスタング」
「この程度で勝ったつもりかよ? いくらなんでも気が短けーんじゃねーか?」
鼻で笑うマスタング。
こちらも余裕の笑みで返す。
ダッシュ!
光の刃でできた森を潜り抜け、マスタングを目指す。
懐に飛び込み、指を鳴らす。そのままマスタングを追い越す。
「はっ! ミスったか! 攻撃できてねーじゃねーかよっ!」
笑うマスタング。直後、顔色が豹変する。
「くっ! な、なんだ!?」
地面が隆起したのだ。
それは槍の形をしている。
”アーススピア”
「バカな! てめーのアーススピアは地面を二回叩くのが条件じゃねーのかよっ!」
「おいおい。バカにするのも大概にしろよ? 俺だってショートコマンドを変えたくなる時があるのさ」
槍に貫かれるマスタング。
「へっ! 言うに事欠いて。だがな!」
槍が砕けると剣が膨張し始める。
二倍。いや三倍に膨れたそれは、振り下ろされただけで致命傷になるのは間違いない。
「くそ! 攻撃範囲の上昇と物理攻撃の上昇か!」
「よくぞ見抜いた! 同士よ! だが、それだけじゃねーんだよ!」
大剣を両手で構えたマスタングは、そのまま横薙ぎに振るう。
俺は跳躍でかわす。
「遅いんだよ!」
追尾するように光の刃が追ってくる。
「おいおい! マジかよ! 追尾性能があんのか!」
後方から迫ってくるそれを剣でガードする。
体が木の葉のように吹き飛ぶ。
バランスを崩しながらも着地。そのまま地を転げ回る。
「……止まった?」
よく見ると上にはマスタングの不適な笑み。
足で腹を押さえられて身動きがとれない。
「これで終いだな! コウセイ!」
「はっ。お前はバカか? そんな獲物で俺を突き刺せるとでも思ってんのか?」
今やマスタングの大剣はその身長の五倍はある。地面にねそべっている俺を突き刺すには
つまり、
「取り回しの悪い武器にすっからな! 俺の勝ちだ!」
マスタングの目の前で”アース・レイ”を構える。
「はっ! 舐めんな! コウセイ!」
途端に大剣は縮み、もとの大きさに戻る。
そして柄を起点に半回転させる。
「「これで終いだ――――っ!」」
「アース・レイ!!」
剣と魔法がぶつかり合う。
閃光が視界を覆い、激しく爆発する。
爆発の渦が収束し、強烈な閃光と熱波が収まる。
爆煙が晴れ、俺とマスタングは同じ体勢のまま睨めつける。
『こ、康晴? 大丈夫!?』
『こちらは80%完了しましたわ! そちらはどうなっているのですか? コウセイ』
マスタングの口元が歪む。
「へっ。やるじゃねーか」
マスタングは崩れ落ちると光の粒子となり砕ける
「勝った、のか……?」
【You Win】
「勝った。勝ったぞ! やったー!」
子どものようにはしゃいでいると、耳をつんざく音が鳴る。
『康晴! 勝ったんだ! 良かった!』
『おめでとうございます! コウセイ!』
「ああ。ああ!」
感慨にふけっていると、視界が揺らぐ。
《これより”ピラミッド”最上階にて、優勝の義を執り行います! お時間のあるユーザー様はふるってご視聴くださいね!》
これでようやく香弥を取り戻せる。
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