第11話 メンバー購入
「よし。いいぞ! ジーク」
「ええい!」
放たれた矢は放物線を描き、ライムアルマジロに突き刺さる。
緑色の体表から赤いエフェクトが飛び出し、HPゲージは削れていく。
さらに一発の矢が穿たれ、HPがゼロになり、砕ける。光の粒子になり、消えていく。
「どうだ? ドロップアイテムは?」
「うーん。ダメ。ライム三つと硬い皮が一枚」
「普通のドロップだな。ライム皮が手に入らないと弓の強化ができないからな」
「でもあと一個だよ。なんとかならないかな? あ! もう一匹みっけ!」
「まあ、経験値稼ぎが目当てだからな……」
攻城戦実装まであと一週間。
その間にパーティメンバー集めと、その強化・成長を行う。
これが今の俺にできる最良の手段だと思えた。
だが、メンバーは一向に集まらないし、弓の強化素材も集まらない。
このままじゃジークの強化どころか、攻城戦に参加することじたいが不可能になってしまう。
「とりあえず、ライム皮一枚くらいならGpで買うか……」
移動販売店から100Gpでライム皮一枚を購入。
素材アイテムは、基本的には狩るのが一番効率良くできている。そのため、Gpによる購入金額は高い。
「もともとはスキルの取得と育成に使うものだから、しょうがないか……」
俺は振り返り、ジークに声をかける。
「ライム皮ゲットしたぞ!」
「やったー! ドロップした! これで弓の強化ができる!」
おい。マジかよ。Gp無駄になったじゃん。
売る時は定価の三割。今回は100で購入したから、30Gpで売れる。
「くそ。70損した……」
「そんな細かいことはいいじゃない?」
「コロセウム三回分だけどな! PvPは大変なんだぞ!」
そもそもマスタングやシュティのような強敵が相手だと、Gpを失うリスクもある。
いざという時のためにGpを貯めていたからマシだが、これが初心者ならゲームを止めるまである。
10万Gpほど貯まっているが……、
「しかたない。メンバー集めにGp報酬をだそう。残り三人……一人当たり1万Gpの報酬に設定すれば集まるだろう」
「え! そ、そんなに! 私にはないの!?」
「バカ。お前はボランティアだろ。そもそも期待していないし」
「そんなこと言って~。この間のボスを倒せたのは私のお陰じゃない!」
「ああ。あの時、1万Gp払ったよな? それで満足だろ?」
「え、ええと……」
「おいおい。もしかして、もう使い切ったのか……?」
「ま、まあ。そういうこともあるのだよ!」
「ないから。普通に戦闘していて、1万も貯まるなんてありえないし。……そのアクセサリーはなんだ?」
胸元にある首飾りに目がいく。
金色の鎖に繋がった赤い宝石がきらめく。
「あ! ええと。これは。たははは……」
「それGpで買っただろ? いくらした?」
「……ほんの、5千Gpよ。で、でも”アンデッド特攻”と”虫特攻”がついているんだから!」
「それってPvPが基本の攻城戦には関係ないよな!?」
「い、いいじゃない! 気に入っているんだから!」
「……それに"呪い"系の付与もあるんだろ?」
「え! なんで分かったの!?」
「値段と効果からして、そんな虫のいい話があるか。それこそ1万Gpでも払わないと、その特攻はつかないぞ。で? どんな呪いだ?」
「そ、それが”鉄の
「鉄の楔かよ。”移動速度低下”と”装備スロットの占有”か……。まあ遠距離支援のジークにはあまり意味がないが」
とはいえ、攻城戦においてマイナスでしかない。
もう少し厳しく言おうと思ったが、……止めだ。
あんなに嬉しそうにしていたら、否定はできない。それにGpは確かに報酬としてあげたものだ。それをどう使うかは、その本人しだいになる。
ジークの弓の強化を終えたあと、掲示板でメンバー募集の要項を書き直す。
「報酬に……1万Gp、と。さてどれくらい集まるのか……」
「ねぇ。私にはないの?」
すごく期待した目を向けてくるな。
「ああ。活躍したら、報酬として渡すさ」
「やった!」
「活躍したら、な?」
「うん! 分かった! じゃあ、これからレベル上げだね!」
「そうだな。もう少しレベル上げしてもらわないとな。北の雪原に行くか?」
「ええ! あそこ寒い……」
「でもお前の適性レベルからして、ベストポイントだぞ? それに耐寒装備を身につければ寒くないぞ」
「……うーん。でも防寒装備ってかわくないんだよね~。こう、もさもさしていて」
「おい。エンジョイ勢かよ……。いや、そのつもりなんだろうけどさ」
防寒装備に着替えると、雪原を目指す。
装備の着替えの際には、周囲に光が放たれるので下着姿などは見えない仕様になっている。そのため、どこで着替えても一緒なのだ。
「なんだか太ってみえない? 大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ。そもそもアバターだからな」
リアルの亜海でさえ痩せすぎなくらいだけどな。
雪原に辿り着くと、周囲には”アイスピッグ”というアイスピックを持った二足歩行のブタが闊歩している。
こいつらは攻撃が単調で、かつ至近距離しか攻撃できない。その上、経験値は多い。クリスタルやGp効率はけっして高くはないが、今回に限っては丁度良い相手だろう。
「俺が前衛で惹きつける。お前は遠距離からの狙撃で仕留めてくれ」
「分かった! 新しくなった『ズー』ちゃんの威力を見せて上げるんだから!」
ジークが狙撃ポイントで立ち止まると、俺は敵MOBと距離を詰める。
察知範囲内に入った俺に突進してくるアイスピッグ。
即座に踵を返し、一定の距離をとりつつ、ジークの狙いやすいよう誘導する。
横合いから降り注ぐ矢の雨。
突き刺さる矢がHPをどんどんと削っていき、やがて消滅させる。
それを小一時間ほど続けると、街に戻る。
「どうだ? 少しはレベルが上がったんじゃないか?」
「うん! 7レベル上がって59になったよ!」
「おお! やったじゃないか! 攻城戦の平均レベルが75だからもう少しだな!」
ピピ。
個人メッセに新着あり。
開いてみると、掲示板に張り出していた依頼について、らしい。
「ちょっと用事ができた。メンバーが集まるかもしれない」
「ホント! 私もついていっていい?」
「いいけど。楽しくないぞ?」
「でも私もメンバーなら、顔合わせくらいはしておかないと」
なるほど。一理ある。
「よし。じゃあ行くぞ」
掲示板前にあるカフェに俺たちは集まっていた。
「俺の名はコウセイ。こっちがジークだ」
「おれは”ユウ”」「あたいは”リリィ”」「おれっちは”バウ”」
「よろしくお願いします。ユウ、リリィ、バウ」
「ああ。こちらこそよろしく! それよりもコウセイのレベルはいいとして、ジークは足りなくないか?」
「大丈夫だ。これから鍛え上げる。それよりも、あなた方もけっこうなレベルだな」
「ユウが102。あたいが98。バウが97。PvPにも慣れているし、攻城戦のためだけに結成される、このメンバーも悪くないと思うんだよね~」
「おれっちも、戦える場があればそれでいいっす」
「まあ、おれたちはいわゆるガチ勢だからな。もらった分の働きはするぞ? それに攻城戦の報酬は気になるしな」
現状、攻城戦の報酬は明らかになっていない。
だから自然と、みんなの注目度も高いのだ。
そして、攻城戦は各都市ごとに設けられている。その数、52都市。
「それじゃ、Gpの転送を開始する」
「おう!」「ありがと」「へへん」
なんだか、三人とも余裕の笑みを浮かべている。
これなら攻城戦も楽に攻略できるかもしれない。
《コウセイ 101940Gp》→《コウセイ 71940Gp》
7万ちょっとか……。手痛いな。
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