第6話 パーティ登録

「ぶーぶー!」

 ブタがいらっしゃる。

 いや、亜海。この仮想VR世界ならジークか。

 彼女は不満そうに訴えかけてくる。

「なんで美女と一緒にいるの? 康晴」

「あら。アタシと遊びましょうよ! ジークさん」

「悪いが、これはゲームだ。シュティとも仲良くしてやってくれ」

「そんなこと言っても……。だって、かわいいし。大人っぽいし」

「ゲームのアバターと、現実世界とでは違うわよ?」

「知ってるし! でもなんかいや!」

「そんなワガママ言わないでくれよ。のパーティなんだから」

 いやいやするジークを宥めつつ、シュティも牽制する。今回だけ、なんだと。

「うふふふ。でもかわいい彼女さんがいらっしゃったのね。コウセイ」

「え! か、彼女!?」

 あからさまに浮き足立つジーク。

 アバター年齢が実年齢よりも上なので滑稽に見えてしまう。

「ほら。パーティ登録だ」

 仮想モニターを表示し、シュティとジークにメッセを送る。

 シュティはすぐに即決したが、ジークは押そうとはしない。

「あら? このままではアタシと二人っきりになるわね? コウセイ」

 おいおい。なに言ってんだよ。クエスト受けられないじゃん。

「そんなのダメ! 私が不純異性交遊がないか、監視するんだから!」

 すぐさま、パーティ登録の許可を押すジーク。

 どうやら、シュティはジークの扱いを分かっているようで。

「で。どんなクエストだよ。シュティ」

 正直、さっさと終わらせて、妹の香弥の情報を引き出したい。もしガセネタなら、Gpを稼ぎたい。

 このゲームはGpであらゆるものを買えるからな。

 俺たちはギルドのクエスト掲示板をタップする。

 大量のクエストが表示されるが、難易度、メンバー、報酬、内容などで選別することができる。

 シュティがその操作をしていると、短い赤髪で獰猛な瞳をした長身の男が隣に現れる。

「マスタング……」

 記憶の片隅にあった名前を口にする。

「あん? てめーは!」

 マスタングは怒りを露わにし、つかみかかってくる。

「なんであんな楽しいゲームを回線切断なんてしやがった! コウセイさんよ!!」

「お、落ち着け。俺も故意にやったわけじゃない!」

「ああん? だから仕方ないとで言うつもりか? 知れねーよ、そんなもん!

 あんなおもしれー試合を、しかもお前は余裕だったはずだ! 俺様のメンツはどうなる!?」

 それこそ、俺の知ったことではないが、対戦格闘ゲームを楽しんでいるプレイヤーからして見れば、至極真っ当な意見だろう。

「くっ。すまん……」

「あ? 舐めてんのか? それでこの俺様が納得するとでも?」

「じゃあ、どうすればいい?」

「再戦だ! もう一度、滾るような試合を! 俺様が求めるのはそれだけだ!」

「……分かった。だが、すぐには無理だ。今日はクエストをこなさないといけない」

「ちっ! いつもなら、コロセウムまっしぐらなてめーが、なぜクエストなんぞに」

 憤りと一緒に、顔をしかめるマスタング。

「分かった。とりあえず、フレンド登録をしよう」

「しょうがねーな。ほらよ」

 てっきり断られると思ったが余計な心配だったようだ。

【フレンド登録しますか?】

 【Yes】【No】

 もしかしたら、今後何度も対戦を挑まれるかもしれない。

 そんな思いが逡巡させる。

 が、Yesを押す。

「よっしゃ。これで何度でも挑めるぜ!」

「やっぱり解消したいな……」

「終わったかしら? コウセイ。マスタングさん?」

「あん? ああ。てめーは”水帝すいていの魔女”じゃねーか。おめーには興味ねーよ」

 マスタングは手を振りながら、踵を返す。

「水帝の魔女……? って何? 康晴」

「ああ。二つ名だよ。まあ、回りが言っているあだ名みたいなもんだ。強い奴につくことが多い」

「あら。それならコウセイも”アーステイカー”と。二つ名を持っていますわよ? それとあの方、マスタングさんは”破壊の閠焰ぎょくえん”と呼ばれているわ。誰がつけたんだか……」

「なら、それなりに強いのか。あいつも、お前も」

「うふふふ。実際に戦ってみてどうでした?」

「……ああ。手強かったよ」

 あれでも出し惜しみをしていたのだから、だいぶ感覚が違うんだろうな。

「なにさ! そんなに仲よさそうにして!」

「……いや、そんな暖かなものじゃないぞ? それよりもクエストは?」

「ええ。決まりましたよ?」

「何々?」

 仮想モニターに目を移す。

 【ダンジョン深くにあるクリスタルをとってきて!】

 内容的にはクリスタルを稼ぐクエストか? そんなに金欠なのか?

 難易度的には確かにレベル八十くらいのプレイヤー向けと言ったところか。

「しかし、ジークはついてこれるのか?」

「私、弓で頑張るもん!」

「まあ、後方支援なら、そんなに問題ないか。俺も剣は使えるし」

 俺が前衛に出れば、そうそうジークがヘイトを稼ぐこともないだろう。

「削りは俺とシュティが担当。トドメはできるだけジークに任せて。それでいいか? 二人とも」

「ええ。構わないわ。それでジークさんもレベル上げになるのでしょう?」

「私も問題ないよ! 康晴と一緒で楽しそうだし!」

 シュティはいいとして、ジークは楽観的に考えていそうだな。

「よし。各自、ポーションなどのアイテム確認後、出発するぞ」

「うん! 分かった!」「ええ。分かりましたわ」


 俺たちは一時間の休息ののち、北にある公園に集まる。

 これで最低でも四時間の戦闘が可能だ。

「最奥部にはボスもいる。俺とシュティは剣も、魔法も使える万能職だが、ジークは未だに弓スキルしか取得していないしな……」

 ボス戦は厳しいかもしれない。

「でもやってみないと分からないでしょ?」

 確かに、多少のレベル差は腕前で誤魔化しが効く。が、ジークはその範疇を超えている。未だに二十三レベルなのだ。俺たちとは違いすぎる。

「できるだけ、サポートはするからジークは後方支援に徹してくれ。じゃあ、行くぞ」

「うふふふ。楽しみね!」「むぅ。やっぱり好きになれない……」

 いがみ合う二人を引き連れ、近くのダンジョンに潜る。

【常闇の鍾乳洞】

「寒い……」

 表示されたダンジョン名の通り、鍾乳洞らしい。

 外と中の温度差は十度以上あるだろう。肌寒いなんてレベルじゃない。まるで雪解けの季節のような寒さだ。

「わぁ~。吐く息が白い~」

 亜海が楽しそうで何よりです。

「アタシはそれほど寒くないわ。耐寒スキルのお陰かしら? それとも氷属性のレベル?」

「おそらく、どちらもあるな。氷属性は高レベルになると耐寒性能を発揮する。俺の情報筋だと、それぞれの属性ごとに付随する能力が違うらしい」

「あら。それなら地属性はいったいどんな能力なのかしら?」

 妖しげに笑うシュティ。

 それが俺の隠し球でもあるからな。話せないだろ。

 余談だが、地属性はあまり人気にんきがない。

 他には、”火”、”風”、”氷(水)”、と四種ある。

 それに加えて、”光”、”闇”、”無”の三種を選べる。

 例えば、シュティは氷属性と光属性の両方の性質を持つ。

 暗い洞窟内では、闇属性なら《暗視》のスキル。光属性なら《発光》のスキルで周囲を探索できる。無はどちらも取得できる。

 そのため、高レベルにはなるが、暗闇での活動に問題はない。

 低レベルのジークがいるが、シュティが先陣を切って周囲を照らしている。

「随分、暗いんだね。洞窟ダンジョンって」

「ああ。本来なら低レベルプレイヤーお断りだからな。スキル調整で、その難易度に合ったダンジョンやモンスターを倒せるように調整してあるんだ」

「つまりは、その人の身体能力だけで左右されないようなシステムになっているわ」

「まあ、昔からあるシステムだな。ポケ〇ンでいうところの”フラッシュ”とかが、それだな」

「へー。二人ともゲーマーみたい!」

「「いや、ゲーマーだけど(ですけど)!!」」

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