第20話 俺は英雄の生まれ変わりなのかもしれない(真顔)。


 〔忌みの断痕カース〕によって海が割れた。 


 この分なら、修復にもしばらく時間がかかるはず! 


 すぐにグリムレコードのスキルを解除し、恐怖心と好奇心を胸に、続けてスキルを発動した。


 「〔夜天の翼イーカロス〕」


 表は烏羽色、裏は白銅色。

 ばさり、と深い光沢のある大きな両翼が伸びをするように広がった。


 「ぅぉおおおっ! かっけぇえ!」


 そして、はらりと幾本かの羽根が落ちるエフェクト。いいね!


 翼を折るようにして自身の前にやり、触ってみる。滑らかで柔らか。

 

 これで寝たら気持ちよさそうだ。

 ふにふにと手で翼を挟んでみると、しっかりと厚みも感じられる。高級な感じだ。厚みが飛行とどう関係するのかは分からないが……。


 慎重を期して少しだけ上昇するように念じると、特に意識をするでもなく、自然と体が持ち上がった。


 肩から背中にかけちょっとした違和感を覚えはするものの、身体が無理やり引っ張られるような不快感はなく、まるで本当に生まれたときからこの姿だったのではないかと錯覚してしまうほどの一体感がある。


 さすがスキル。

 これもまた、訓練不要ということらしい。


 念じればほら、垂直上昇。さらには空中で静止することだってできちゃう。


 この翼、凄すぎる。既に鳥のスペックを凌駕している。


 そのまま三百六十度見回してみると、森と海が果てなく続いていた。


 ふと、使用できるだけの武器系スキルを確認するという方針を速攻でかなぐり捨ててしまっていることに気が付いた。


 グリムレコードを再度使用できるのは二十四時間後。ということは、もうここで武器系スキルを確認することはできない……。

 が、そのような些事はどうでも良くなり、


 「ふふふふふ、行っくぜええぇぇええ!」


 ワクワクがその他もろもろの感情を上塗りした。


 「イヤッホォォォオオオーッ!」


 海へ向かって急降下。

 

 かなり深い。百メートルはありそうだ。その中へ突っ込む。


 「やっぱり俺はモーセだったのかあ!」


 マジモーセ状態。


 〔忌みの断痕カース〕によって斬られた水の断面は表面張力のようなものでも働いているのか、ゼリーの様相を呈している。まるで時が止まっているみたいだ。


 そんな静寂の中を滑空。時折翼をバサリとやって、速度に緩急をつけてみたり、方向を変えてみたり。自由気ままに飛翔する。


 「気持ちいいいぃぃぃぃぃいいー!」


 なにこれ! こんな楽しいアクティビティ無いぜ! 


 ひんやり気持ちぃ、極上の避暑地だ。


 振り返って翼を見てみる。

 大きく空気を掴んでいるような動きが躍動的でたまらん! もうパーフェクトッ! スキル最高! 


 「っ!?」


 と思っていた矢先、壁がうねり始め、決壊した。鼓膜に響く破壊的な流水音。


 「やべっ! 時間切れか!」


 両壁は滝となって迫り、底には既に水が流れ込んでいる。

 垂直上昇フルスピード!


 「っく」


 自力ジェットコースター。埒外らちがいのGがのしかかる。

 が、緩めることはできない。修復スピードもかなり早い。横からも下からも莫大な質量が迫りくる。翼が濡れ、顔に飛沫がかかる。間に合うか……。


 「間に合えぇええ!」


 水上まで残り数メートル。閉じ込められる寸前。つんざくような大音響。


 最後、渾身の羽ばたき。

 水に捕らえられないよう翼を折りたたみ、弾丸のように突き進む。


 「いける! いけるぞぉおおお!」


 

 出口だけを見据え――



 ――危機一髪、突き抜けた。



 「よぉぉおおおっし!」


 

 脳内麻薬ドバドバ。勢いそのまま、ドリルのように回転しながら急上昇! そして急停止からの、ガバッと両手を広げてイッツマジックショーな感じの決めポーズ! 


 決まったッ!


 「はぁはぁはぁ」


 心地よい疲労感に包まれながら下を見ると、裂け目は跡形もなく消え、水面は揺れて波を起こしていた。


 「危なかったぁ……」


 アクション映画の主人公でさえもこんなスリルを味わったことはないだろう。


 ほっと胸を撫で下ろし、バクバクする心臓も徐々に治まってきた。


 静まっていく波をぼんやり見ながら数秒。



 「ぅっぷ……げぇー」


 やべ、酔った。


 キラキラエフェクトもついていない単なる汚物が海へ吸い込まれていく。


 ポチャ、ポチャポチャポチャ。汚いの極み。


 ま、この地が汚染されることはないはずだ。

 吐けるだけ吐き出しつつ、ゆっくりゆっくりと陸地に戻る。


 コンクリートへ降り立ち、〔夜天の翼イーカロス〕を解除。

 帰還である。


 「…………はあ」


 最悪の気分だ……。興が乗り過ぎた。


 「右腕も痛いし……」


 やはり、身体を使うスキルはそれ相応に負荷がかかるらしい。


 でもまあ、それならグリムレコードを解除して正解だったかもな……。

 これじゃあ、身体がついていかない。格闘系スキルも同じような感じだろう。


 てなことで武器系や格闘系のスキルの副作用がわかったのでオールオッケーとしよう。


 よし。なら、魔法系スキルだな。

 第三階梯までの魔法系スキルを試していこう。そうしよう。


 んじゃ、ちゃきちゃきいこうか。




 ――第一階梯〔鬼灯ほおずき〕。


 提灯ちょうちん型をした、人間大もの橙色の玉が地面から顔を出し、ふわりと目の高さまで上がってきた。


 中心が輝きを持ち、辺りを照らしている。

 おずおずと指先で突いてみると、バルーンのようについと弾かれ、再び元の位置に戻った。熱くはない。設定どおり。目印には使えそうだ。



 じゃ、次。



 

 ――第一階梯〔鋼状網ラティス〕。


 目の前に大きな網が落ちてきた。


 名前通り頑丈そうだ。触ってみると、けっこうしなやかで柔軟性もあるみたい。

 うん、漁業に使えそう。


 ……なんでこんなの創ったんだろ。

 こいつは発動時間三時間。その間消えてくれないときた。少し場所を移動する。



 さ、次。




 ――第一階梯〔怪火の児戯バンビーニ〕。


 いくつかの火の玉が現れた。それぞれの大きさは、りんご二個分。


 上下左右機敏に動く忙しない奴がいたり、のんびりまったり自分の周囲を回る奴がいたり、ふらっと遠くの方まで行ってしまう奴がいたり、その場をほとんど離れない奴がいたり。単なる火の玉なのに、個性いろいろだ。


 歩いてみると、それに合わせて皆も移動する。周りがポカポカ温かい。い奴ら。痴女さんの火の玉とは大違いである。



 では、次。




 ――第二階梯〔麻痺銃スタンガン〕。


 右手で指鉄砲を形作って、自身の脇腹にあてがう。


 この性能を試すには自分で体験するしかない。が、緊張で震えが止まらない。


 第二階梯。それを考えれば大したことないはず。が、〔香炎柱フランベ〕の威力を知っている。しかしそれでも、設定どおりであれば死ぬことはないはず……。


 やるんだ! 大丈夫! 怖くない! いくぞぉおー…………はふぅ。

 ダメだ……怖い。


 これは保留。



 うん、次。




 ――第三階梯〔虹降りセヴンアロウ〕。


 上空から七色の輝く矢が落ちてきた。


 地面にめり込み、突き立っている。それらは均等に並んで円環を成しており、なかなかに美しい。


 これもしばらくは消えないらしい。木の前まで移動する。



 よし、次。




 ――第三階梯〔粛出通水サイレンター〕。


 木の幹へ掌を向けて発動すると、その先に小さな魔法陣が現れ、タイムラグなく水が射出された。ブシュッ、というくぐもった小さな音とともに、幹に微細な穴があけられた。


 木へ近づいてみると、驚いたことに貫通しているようで、覗き穴と化している。裏に回ってみると、その次の木の幹も数センチえぐられているようだ。


 非常に地味だが、凶悪極まりない。




 と、手持ちの第三階梯までの魔法系スキルはこんな感じ。 

 

 てか、考えてみればあれだな…………第三階梯って、殺傷力高くね? 


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