第21話 新たに手に入れたスキルを試すのってめちゃ楽しいよね。
つい先ほどナイスガイが言っていたことを改めて思い出してみる。
『基本的に殺しはなし。第三階梯までは使って良し』
たしかこんなことを言っていた。
言っていた気がするんだけど…………これ、死んじゃわない……?
〔
あ、これ死んじゃうやつだ、って。
ああ、不安だ……。
それに、すっかり忘れていたが、詠唱をしなくてはならないのだった。
それはもちろん、ロマンのためでもあるけど、もっと現実的な問題として、自己防衛のために必要なんじゃないかと思う。
馬上で茶髪くんとおしゃべりした結果、無詠唱も可能のようだが、それなりに高度な技術であるらしいという類推が立っている。一般ピープルを演じるなら、詠唱はなるべく
とはいえ、詠唱ルールを知らない。というか、ルールがあるのかすら知らない。しかしどんな形であれ、しないよりはした方がいいはずだ。これは皆さまと同じ魔法ですよぉ、というカムフラージュになるはずだ。
ひとまず、茶髪くんの使っていた第三階梯<
それからというもの、第三階梯までのスキルのリキャストタイムを待っては、それらを発動しまくり、試行錯誤を重ねた。
そもそも、第四階梯のスキルを使用したとしてそれがバレるのかは疑問だが、一応、フェアにいきたい。
ていうか、〔
それに、第三階梯までというルールがある以上、それを判断するための何かが存在していると考えられる。これは第三階梯以下の魔法だ、と判断できる何かが。
魔法がかなり体系化されている可能性があるな……。
だとすると、けっこうマズイかもしれない。
自分のイメージに過ぎないが、スキルは魔法っぽくないものも多い。
これは完全に自分の感覚的な話になるが、やはりスキルと魔法には質的な違いがあるように思える。
ま、なるようにしかならないか。
とりあえず、魔法の種類が豊富であること祈って、ダメっぽかったら逃げよう。
そんなこんなも考えながら、いくつかのパターンを想定した戦略をまとめ上げた。
実戦経験は皆無。が、妄想を含めれば百戦錬磨の自分である。
幾千幾万の敵との攻防を制してきた。そんな経験の蓄積によって生み出された戦法だ。脳内シミュレートは抜かりない。
試合の準備は、整った。
〔
リキャストタイム長すぎである。第十階梯様であればそれも当然か。
いや、そも、この『階梯』というのは自分で設定したものではなく、おそらくこの世界の魔法に照らし合わせてつけられたものであるため、何階梯まであるのか知らない。でもまあ、数字が上がるほど強力なものになっていることには違いあるまい。
ともあれ、これはかなり貴重な時間だ。
スキルを好き勝手にぶっ放せる状況などそうそうあるはずもない。
ということで、スキル検証のため、というのは表向き、興味本位で第四階梯以上の派手目な魔法系スキルを発動しまくった。
時間は有効活用しなければね。
もちろん、逃走することになった場合のためのスキルまで使用してしまうなんて愚は犯さない。
いざというときに「リキャストタイムが経過してない!」なんてコメディはいらないからね。
んで詳細は省くとしてその結果は、……ほんと、たまげましたよ。ええ。
現状ですでにマジチーターって感じ?
まあ、〔
ともあれ、今やっておくべきことはやり終えた。
時間もいい感じになって来たので、明かりの灯る我が家(牢屋)へ戻ろうか。
*****
独身男性(おっさん)が自慢の
なんやかんや、自身で創ったスキルと対面してテンションぶっ壊れぎみである。
あるいは試合を前に緊張しているのかもしれない。
そわそわして落ち着かないため、石板を呼び出す。
朝食まで、あと二十五分ちょっとあるはずだ。今のうちに最終確認を。
試合のために選抜したスキルを改めて見直した。
多分、大丈夫…………。
よーしっ! いつでも来いやっ!
*****
それから。
えっ? あの話って嘘だったの? てくらいナイスガイが来ない。来る気配すらない。本当に不安になってくる。
放置プレイが好きなの?
正直、その間ここから脱出しようと考えたのも一度や二度ではない。スキルがあれば決して難しいことではないとも思う。
というか、けっこう不用心だと思うのだ。魔法使いの希少性やら脅威度やらは知らないが、魔法が使えるかもしれない人間に対する処置としては甘いような気がする。すぐ近くに見張りがいるわけでもないし、トイレの時もあの青年が一人来るだけ。
その青年が手練れという可能性もある。だがそうだとしても、二人制やら何やら、もっとやり方はあるように思える。
手枷はされているが、行動を阻害するものはそれだけだ。
もしや、太ったおっさんと舐められているのだろうか。だとしたら心外だ。まあ、スキルがなけりゃ全くその通りなんだけども……。
そこでふと、この街へ向かう道中の茶髪くんとの会話を思い出した。
茶髪くんに、魔法衣を着ているか、或いは魔石を持っているのか? と訊かれた時のことだ。これが魔法衣であるかは分からないし、魔石も、どういう仕組みか石板が回収していたようではあるが、少なくとも自分は認知していなかった。
だからその時は、適当に答えを濁し、会話が途切れた。
その前に確か、茶髪くんが『高度な魔法を使えてすごい』みたいな感じに褒めてくれたはずだ。
ということは、自分のスキルが疑いなく魔法として認識されているということになる。
つまり、だ。それらを照らし合わせれば、こういうことになるのではないだろうか。
魔法を使用するには、魔石、或いはそれに準ずる何かが必要。
もしそうであるならば、ここの警備体制にも一応の納得がいく。
仮に魔法が使えたとしても、魔石を所持していなければ脅威ではない、と判断することができるのだろう。
ということは、この服も魔法衣ではないと判断されたのだろうか。
そして、そうした状況であるならば、自分はその例外であるため、警備を突破しやすいとも考えられる。
しかしその先のことを考えると逃げるのはやはり
脱出しても、行く当てがない。
冒険者という道があるにはあるが、この街のギルドに顔を出してもまたすぐに捕まる気がする。
他の地へ移るにしても、手持ちスキルでの移動は賭け要素が大きすぎるし、強盗して金銭を得ることはできるだろうが、そこまでの倫理観の欠如はいまだ起きていない(爽やかイケメンが硬貨を落とした場合を除く)。
うん。
やっぱり、金髪美青年との試合に臨むのが今の最善だと思う。
それより、試合のことを考えるなら魔石を持っておこう。
自分の推測、というか、茶髪くんの言っていたことから窺える事実に照らし合わせれば、魔石を持たずに試合でスキルを使ったら面倒なことになりそうだ。
そのことに気がつけてよかった。
早速、石板を呼び出す。
現在所持しているのは、三等級が一個だけ。
やっぱり取っといてよかった。
『三等級の魔石』をタッチし、『取り出す』を選択。
すると、手のひらの上に石が現れた。そのまま受け止める。
ずしん、と想像以上に重量がある。
大きさは幼女の拳大くらい。
思ったより小さい。けど、思ったより重い。かなり密度が高そうだ。
見た目は鈍い紫色をしているってことぐらいで、取り立てて美しい光沢があるだとか目を引く形をしているだとかいったことはない。
っていやいや、ダメじゃん。
俺はなに馬鹿なことをしているんだ。牢屋にいた自分が魔石持ってたらなんか疑われちゃうじゃん。たぶんそうじゃん。
ただ、そうなると……、第三階梯までの魔法使用可能というルールはどうなるのだろう。
もしや、あちらで用意してくれるという武器や防具に秘密があるのだろうか?
とにかく、やっぱり魔石は邪魔だ。戻そう。
と思ったのだが、石板のどこをどう見ても、取り出した魔石をもう一度回収してくれる仕様にはなっていないみたい。
まあ、ならば仕方ない。
ポケットに入れとこう。
どうしても膨らみができてしまうが、特別意識を向けられない限り不審に思われることはないだろう。
重さだけは一人前なため、ズボンがずり落ちないか心配したが、それも杞憂に終わった。
このズボンのホールド力は信頼を寄せるに十分なようだ。
酷く無意味なことをしてしまったが、考えられる限りの準備を終えて、一段落。
それにしても、遅くね? もうあれから十日経ってるんですけど……。
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