第7話 ヒーロー戦隊、だとっ…………!?


 いざ連行、ってことになったわけで、そうなってからの面々の動きは非情に迅速だ。


 手を掴まれ縄をぐるんぐるん。からのキュッ! キュッ、キュッ、ぎゅぅうぅうぅううう!


 痛ってぇ。

 めっちゃ食い込んでる。


 こんなもん? 縄で手を縛るときってこんなぎゅうぎゅうするもんなの?


 疑問を口に出そうとしたけど、縛るあんちゃんがすげえあんちゃんな感じだったので止めた。

 

 そうして手が紫になったとこで大体の準備が整ったのだろう。


 「悪いが、後ろに乗せてやってくれ」

 

 「……え…………」


 ロニーの言葉を受けて、茶髪くんはすんごい嫌そうにした。

 「僕ですか……?」言わんばかりの表情だ。


 そりゃあ、嫌だろうさ。おっさんだもんな。


 「……はい、わかりました…………」


 それでもしぶしぶ受け入れた茶髪くんはさっさと馬に乗る。そこへ連行される俺。


 こんな間近で馬を見たことないけど、なんか凛々しい顔してんな。いちゃうぜ。


 大柄な男二人がかりで、マイボディが持ち上げられる。


 「自分で乗ってくれよ」


 こちらは手が自由に使えないため上手くバランスがとれない。

 故に、そんなこと言われてもどうしようもない。

 

 これやったのあんたたちでしょうが。


 一応自ら足を上げてみるが、脂肪が邪魔してただ抵抗しているような形に。男たちの一助にはなっていないようだ。


 「ちょっと大人しくしててくれないか」


 どっちなんだよ…………。

 鬼畜だろうか? 鬼畜かな? 


 イラっときて割と叫び出したい気分だ。

 が、まあ、ここは素直に従っておくことにする。


 せーの、という二人の小さな掛け声。続いて、ふっ、と微かに息を吐き出す声。


 おっさんは見事に高々と掲げられ、ストンと茶髪くんの後ろへ座ることに成功した。うん、恥ずかし……。


 そんな羞恥心を味わう暇もなく、きらりと光って降下するものを見て焦った。現在の全財産である一枚の硬貨が、草の上に着地したのだ。


 「あっ」


 反射で声がでた。


 「何だ」


 何かここでお願い事をするのは躊躇ためらわれたが、それ以上に一文無しは困る。


 「えっと、その…………それ、取っていただけませんか?」


 手が使えない都合上、視線で硬貨の方を示すと、赤い短髪の青年が腰をかがめて取ってくれた。


 なんだ、けっこういいやつじゃん。


 「ありがとうございます。その、できればポケットに入れていただきたいのですが……」


 親切ついでに頼んでみるが、返事がない。何やら思案気げな表情をすると、「これって……。隊長! ロニー隊長!」と心持ち焦った様子でロニーの元へ。


 なんだなんだ?

 てか持ち逃げですか? なんなんですか?


 「ん、どうした?」


 「見てください、これ」


 「これは……。でも、そうか。だとしたら…………」


 ロニーが何やらぶつくさ言っている。何が起きているのやら、さっぱりわからん。


 「先ほどの地揺れ。もしかして、あなたが関係しているんじゃないですか?」


 こちらに視線をよこしたロニーから質問が飛んできた。


 なに、この唐突に核心突いてきちゃう感じ。どうしよう、こうしよう。なんてことを考えるのが面倒臭くなってきた。

 もう、黙秘を貫いちゃうか。うんそうしよう。

 せめてもの対抗心としてロニーの顔をぼうっと見つめてみた。


 「どうなんでしょうか?」


 ロニーが改めて問う。


 「…………」


 「答えられませんか?」


 「…………」


 黙秘や。無言だ。

 そんでなんとなく余裕ある感じの笑みを浮かべてみる。ロニーの声をしっかりと聞きながらも、そのイケメンフェイスはゲシュタルト崩壊を始めていた。


 「分かりました」


 分かっちゃったらしい。なにが? と思わないでもない。

 ただとりあえず、ロニーがふっと笑んだのでこちらもふっと笑んでおいた。


 「これまでの無礼、申し訳ありませんでした」


 とっても真摯な面持ちで謝罪される。予期せぬ事態に茶髪くんはこちらを振り返り驚きを向ける。


 当然、一番驚いているのはこちらである。こんなイケメンに頭をさげられたことのないおっさんは驚愕である。


 ん? なんで? 全く訳が分からない。

 が、曖昧な顔でへらへら笑っておくことにする。そういうのは得意だ。


 「何のことですか?」なんて素直に訊くような場面じゃないだろう。なんか良い方向に転がってるみたいだし。このまま流されてしまえ。それが今のベスト! 

 ……なはず。


 「それでは、こちらはお返しします」


 ロニーがナイフで縄を解き、硬貨を返してくれた。

 紫色の手がじんじん痺れてあやうくとり落としそうになったが、無事ポケットにイン。


 「私たちはとりあえずテラフォード領に戻りますが、タキタさんはどうしますか?」


 いつ着くかもわからないどこかへ、このまま徒歩。それはちょっと厳しい。


 「あの、できれば一緒に連れていってもらいたいのですが…………」


 「はい、それでしたらもちろん。……でも、このまま後ろに乗ってもらう形でも大丈夫ですか?」


 「はい、大丈夫です」


 馬など操れないため、即応した。どうやらこれで、人里に向かうことができるようだ。


 いやー、良かった。



 なんだかざわついている面々の反応が気になるが、自分も茶髪くんにしがみつき準備オーケー。いざ出発。


 てなことで、馬がドッドッドッドと草原を軽快に走り始めた。






*****





 は~い。こちら、中継地点のタキタで~す。今現在の状況を中継いたしま~す。


 おっさんは、比較的小柄な茶髪くんの背中にしがみついている模様。ちらちら横顔を窺ってみると、茶髪くんの顔は時折嫌そうに歪んでいま~す。


 以上、タキタから現在の状況を中継いたしました~。



 ってなことになっている。


 とてつもなく申し訳なく思っています。


 でも、こちらだって我慢してるんだ。さっきから茶髪くんが肩に背負っている矢筒がコツコツ当たってんだよ。いくら小柄だからって、もうちょっといい感じの人選が無かったものか。

 

 今更ながら、ロニーの采配に疑問を覚える。

 自分だっておっさんに抱き着かれるのは嫌だし、まだ若いとあっては尚更だろう。

 

 ごめんな。こちらは落とされないよう必死なんだ。どうか辛抱してくれ。お互い頑張ろう。


 目をぎゅうと瞑りながら茶髪くんをがっちりホールドしていると、にわかに馬の歩みが遅くなり、止まった。


 もう着いたのか?


 目を開けると、前方にファンタジー生物が五体。


 多分、ゴブリンだ。

 またかよって感じだが、さっき遭遇したゴブリンよりもゴブリンしてる。


 赤青黄色、白黒~。


 ゴブリン……だよな? 


 ヒーロー戦隊みたいにカラフルだけど、グリーン不在のままでいいのだろうか。

 てか、よくよく見てみると、思いのほか精悍な顔つきをしている。


 これ負けてないよね? さすがにゴブリンには負けてないよね?


 とまあ、ロニーたち、屈強な野郎どもが守ってくれているから悠長にしていたわけだが、……皆、なんで黙ってるの?


 「……だ、大丈夫ですよね?」


 茶髪くんに問うてみるが、ゴブリンを見据えたままその童顔には緊張を湛《

たた》えている。

 

 一拍の後、


 「彩小鬼……。少し苦戦するかもしれません」


 茶髪くんの代わりにロニーが答えてくれた。じんわりと額に汗をかいていそうな言葉の響きなんだけど……ほんとに強いの?


 でっかい男たちが小さなヒーロー戦隊相手に怯んでいると考えるとかなり滑稽だ。

 くすっとしたくなる。…………が、どうやらマジらしい。演技じゃないんだって。ふうん。やるじゃん、正義のヒーロー。おかげでちびりそうだ。


 「……申し訳ありません、タキタさん。もしもの時はご助力願えないでしょうか?」


 「あ、はい。大丈夫です」


 いきなり畏まってきたロニーに返答。


 …………って、反射的に了承しちゃったし! 

 てか、何故に自分が当たり前のように戦力と見なされてるわけ?


 こちらは自分を除き十人、彩小鬼は五体。

 戦闘素人の疑問は脇に置かれ、騎士たちは迅速に展開し、すぐに二対一の形が生まれた。


 すごい連携だ。素人目に見ても相当な訓練を積んできたのだろうと分かる。


 茶髪くんの前に先行するのはロニーだ。

 ずっしりと重そうな棍棒を持つ赤と対峙した。


 シュッと鋭い音とともに、ロニーが剣を引き抜く。と同時、赤がロニーへ向かい駆け出した。


 速い! 

 強靭な筋肉を持っているらしく、赤は一歩踏み出すたびに大きく加速した。そして跳躍。棍棒を軽々と大上段に掲げ、ロニーの背丈を超えて躍りかかる。


 確かにすごい。でも、それは愚策だろう。

 空中に身を投げた奴は敗北する。それが、戦闘におけるセオリーだ。

 中二病には解るんだ。


 当然、ロニーはその隙を見逃さない。左から右へ、剛腕の一閃。

 その軌道は、確かに赤の足を斬り落とすかに見えた。が、風切り音。ロニーの剣筋は虚しく空を切っていた。


 見ると、赤の足はさらにその上。棍棒を振り下ろす反動を用い、華麗に回避していた。そのままロニーの脳天を叩き割ろうと棍棒が勢いを上げる。

 

 これはダメだ! 

 反射的に目を逸らそうとした時、


 「問題ないですよ」茶髪くんが平静に呟いた。


 既に剣を振り切り、ロニーは絶体絶命、隙だらけ。

 しかし彼は、普通ではなかったらしい。コンマ一秒で剣を振り戻し、自身の頭と棍棒の間に刀身を差し入れた。


 互いがぶつかる鈍い音が響く。赤は腕の筋肉を隆起させ全体重を乗せるものの、力比べはロニーが優勢。ロニーは棍棒を押し上げた。


 そして、それが狙いであったのか否か、赤はロニーに弾かれるままに身を任せ、しなやかな動きで前宙。ロニーの背中側へ着地を決めると、彼には目もくれず、こちらへ一直線に向かってきた。


 鮮やかな身のこなし。身体操作が並じゃない。それに、射手を最初に潰そうという算段だろうか。なかなか鋭い知性も合わせているようだ。


 って、そんな評価してる場合じゃない! どうすんの! こっち来てるよ! 問題大ありじゃん!



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