第2章 チート開幕
第13話 めちゃくちゃにしてあげたいわ……(ランルイス王国近衛特殊部隊隊長 エスタ・レニロータ視点)
「お疲れ様です。隊長」
「うん、お疲れさま」
柔和な笑顔を心掛け、交代の部下に挨拶を返す。
男の部下はこちらから視線を逸らし、どこか落ち着かない様子であった。
その頬には僅かに朱が差している。
童貞くんかな?
ふふっ、可愛い。
「これといって伝えることはないかな。それじゃあ、後は頼んでもいい?」
「はいっ、大丈夫です」
「うん。よろしくね」
随分と張り切っている様子の部下の子に内心にまにましながらも、仕事の引継ぎを済ませる。
問題が起こることなどほぼないため、いつもこんな感じだ。
特殊部隊だなんて大仰な名前がついていても、実態は王子の身辺警護。
二人いる王子はまだ共に幼いため、この王城から出ることはない。
要するに、単なるお守りだ。
つまらないことこの上ない。
まあ、こんなこと口に出そうものなら、不敬罪になりかねないのかもしれないけど、事実なのだから仕方ない。
何か大事が起きたときには前線で戦ってもらうことになる、と言われてはいるものの、戦争の予兆もなく概ね平和な現在、そういう場面はなさそうだ。
「……はあ」
ほーんと、つまんねえ。退屈だ。
昨日の変態は、なかなか良かったんだけどなあ。
「おっ、レニロータか」
王城の中を若干ブルーな気分で歩いていると、右の通路から耳によく馴染んだ、自身を呼ぶ声が聞こえてきた。
「マクドネル先生!」
おっと。喜びのあまり、素が出てしまった。
はしゃぎすぎだ。これじゃあ、はしたない奴と思われてしまう。
大人しく控えめで、清純な感じに表情を作り直す。
これでよし。
安心感を与えてくれる微笑みを浮かべながらやって来るのは、現筆頭宮廷魔法師、そして、かつて私の教師であった方。
学院を卒業するまでは「ジュピター先生」と苗字で呼んでいたが、それ以降も偶然を装いつつちょこちょこ少しの時間でも会えるように画策していると、自然と「マクドネル先生」呼びへ移行することに成功した。
先生の方は未だに私のことを苗字で呼んでいる。そのことは少し寂しい。
先生はきっと、私のことを単なる元生徒としてしか認識していないのだろう。
まあ、年齢的に見れば、親と娘の関係。そうなるのも仕方ない。
そして確かな倫理観を持っているために、生徒と教師という枠組みから安易に逸脱するようなことはできないのだろう。まして、既に妻と子を持っているのだから。
けれど、そんなところがまたいい。
私のことを名前呼びせざるを得ない気持ちになるように浸食していく楽しみがあるから。
ふふっ。
「元教え子にこんな感情を抱くなんて」と罪悪感に駆られながらも、恥ずかし気に、しかし誠実なる愛をもって、我慢できずに呼んでしまう。
「……エスタ…………」。
ああ、……いい。そういうのが良い。
いつも柔和で優しく、それでいて堂々としている。そんな先生を罪悪感の谷に突き落とすのだ。
ああ、それはさぞ、興奮するに違いない。
お互いがお互いに恋心を持っていることを確認し合うように、
さらに時が来たら、その時に初めて私の本性を明かすのだ。
先生がどこにも逃げられないように魔法を封じる手枷をつけ、ベッドの上に転がす。事態に追いつけていない先生を尻目に目隠しをつけ、万が一騒がれ他の人たちに邪魔されてはいけないから、口輪をはめる。
清楚清純清廉を行ってきた私とのギャップに、先生は驚愕するはずだ。それが失望か落胆か興奮か歓喜か。ことここに至っては、そんなのどれでも構わない。どれにしたって素晴らしいものだとおもうから。
先生を、めちゃくちゃに犯してやるのだ。先生が私との快楽以外頭からなくなってしまうほどに愛撫して、放心状態になるまで気持ちよくしてあげるのだ。それで先生も私に夢中になって…………。
「どうした? 平気か?」
「あっ、はい」
妄想トリップしていた私を気にかけてくれるなんて、やっぱり先生は優しい。
一刻も早く愛し合いたい、犯したい……。
「忙しいのかもしれないが、あんまり無理しちゃいけないぞ」
私が気落ちしているのは退屈な仕事に辟易としているためであるから、先生は根本的なところで勘違いしている。
でも、好きだ。好きです。お慕いしております。愛しています。
「ありがとうございます」
誘える庇護欲は誘っておく。それが正道。
だから、疲労を装い
これでまた一歩、愛する形へ近づいたはず。
ふふふふふ。
「最近はどうだ? 何か変化はあったか?」
「いえ、特に変わりないです」
「そうか。変化がないというのも大切なことだ。とくに問題がないならそれでいい」
ああダメダメ! もう会話が終わってしまう。何か探さなきゃ、何かっ!
あっ、そうだ……。
「あっ、でも……」
「ん? 何かあるのか?」
「いえ、その……問題というほどのことではないのですが…………」
「うん」
「昨日、不審人物を見かけました」
「不審人物?」
「はい。露出狂、とでも言いましょうか……。その、ちょっと言いにくいのですが……下着姿で王都の門へ駆けてきた者がいたのです」
「そ、それは何とも凄い話だな……」
「……ぇえ、はい」
恥ずかし気に目を伏せておく。
好感度アップ間違いなし。
「それで、その不審者は王都へ入ってしまったのか? そうであれば少し問題だと思うが……」
「ああいえ、入って来たのではなく、出て行ったのです」
「ん? ということは、王都に駆けこんできたのではなく、王都から逃げて行ったってことか」
「はい」
「……なるほど。多分、色街で何かしでかしたんだな。いつになってもこういう奴は減らないもんだ」
先生が呟いた。
「なんとおっしゃったのですか?」
「ああいやいや、レニロータには関係ないことだよ。気にしないでくれ」
先生、本当は全部聞こえてましたよ。こんな
もう力の限りぎゅってしたいです。全身ペロペロしたいです。
「にしても、そうか……」
「一応捕まえた方がいいと思って魔法を使ったのですが、結局逃げられてしまいました……」
「へえ。レニロータの魔法を受けてなお逃げ切るなんて。もしかしたら、学院の外れ者かもしれないな」
「ええ、そうかもしれません」
どう見てもただのおっさんだったけど。
けど、私の〈
見た感じ、ダメージを負ったようにも見えなかった。おそらく、先生ですら無傷で防ぎきることはできないだろう。それほどの魔法を放った。なのに、あの変態は防ぎ切った。
気に食わない。
ショタでもイケオジでもなくおっさんごときが。
でも、…………面白い。
「次会ったら絶対に捕まえてみせます」
「はははははっ、そうだな。【
「ふふふっ、先生ったら。魔王なんていませんよ」
「ま、そうだな。御伽噺での存在だ」
先生の笑顔をこんな間近で見てしまった。もう死ねる。ダメだ。こんなことで満足してはいけない。まだまだ先に、もっと深い幸福があるのだから。
「ま、とにかく気をつけろよ」
「はい」
無駄のない優雅な歩みで先生が去っていく。最後の最後まで私を気遣ってくれた……。
今日のおかずは決まりね。
あ、いつのまにか濡れちゃってる……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます