第12話 はっ……! どん底からの成り上がりものかっ!?


 それから、どれだけ歩いたのか。


 何やら建物に入ったのを感じた後、右左しばらく直進左左右……。

 道順の暗記は断念した。


 さらに階段を下りてしばらく。

 ようやく歩みが止まり、目隠しが外される。


 最初は目を細めていたが、今いるのは薄暗い場所らしく、その必要はなかった。


 左右後方には無機質な壁、前方には鉄格子。


 うんうん分かります、牢屋ですね。地下牢というやつですね。


 手を引いていたと思しき大柄の男が外から錠をかけ、カチャンと硬質な音が響く。


 その隣には、黒の燕尾服を来た初老の男性。特に威圧感はない。柔和な感じだ。かなりデキる! と思わせる泰然とした佇まい。 

 端的に言って、めちゃくちゃセバスチャンしてる。


 じゃなくて、とにかく誤解をとかなくては。


 「あのっ、これは何かの間違いだと思うんです。えーっと、互いに説明する機会を設けてくだされば、これが不幸な事故だとご理解いただけると思います! そのー、ですからえーっと、ここから出してはもらえませんでしょうか? へへっ」


 セバスに希望を見た! きっと大丈夫!


 が、こちらを一瞥したきり、二人とも去ってしまった。特別、憤りを表しているわけではないように見えた。


 でも一体、どうなるんだろうか…………。


 牢にはお向かいさんもおらず、静かなものだ。牢の中には何もない。


 ほんとなーんにも。


 今後どうなるか分からない。考えることもままならない。


 ということで、とりあえず寝ることにした。まだ疲れは抜けきっていないのだ。というか、移動中に疲れが増大した。


 寝転がる。


 固い床はひんやりしていて気持ちいい。今が夏のようでよかった。






◇◇ ◇






 隣から聞こえる音で目が覚めた。

 横になり、そのまま寝てしまっていたらしい。


 隣からは、カチャカチャと金属が擦れる音。

 

 まさかお隣さんがいるとは。


 これは吉報だ。何もない牢の中、さすがに一人は心細い。


 隣から届いてくるのは、「ふんっ」といった鼻息交じりの女声。


 妙に艶めかしい。


 この「ふんっ」からは、いくら尋問されようと答えるものか、というような意志を感じる。


 白状するくらいなら死んでやる! くっ、殺せ! 的な。


 くっころ系女騎士と見た。

 何やら、SMの予感。そんなスメルがぷんぷんだ。


 しばらくして鉄格子の軋みが響き、錠のかかる音が続いた。


 自分のいる牢の前を一人の男が通り過ぎていく。その歩みはゆったりとしている。


 オヤジだ。

 食事処のおやじのように、坊主というのではない。正真正銘、禿げ散らかしたハゲオヤジだ。その上、肥えている。品の良いローブがこれでもかと押し上げられている。

 足を大きく広げ、自身の体重を支えるようにのしのしと進む様子は、どこか痛々しくもあった。自分も太ってはいるが、これほどではない。


 多分、このオヤジが推定美女さんをイジメていたのだろう。


 あ~んなことやこ~んなことをしていたのだろう。


 あっ、ちょっと元気出てきたかも。


 だって、なんか興奮すんじゃん。あんなオヤジでも裏組織のエージェントな美女騎士(妄想)を相手にあんなことやこんなことができるんだぜ? これに興奮しない方が嘘ってもんだろ?


 気分の沈みが晴れやかになった。こんな場所でも、前を向いてやっていけそうな気がしてきた。


 そうだ、自分にはスキルがあるじゃないか。これがあればこの状況だって切り抜けられるはずだ。


 早速、石板を呼び出した。


 目の前に浮かぶ石板、その画面の端っこに、『NEW』という小さな項目があるのを発見した。


 いつの間にできていたのやら。


 それをタッチしてみると、次から次へと情報が流れた――




 『コブリンを倒しました。七等級の魔石を入手しました』


 『コブリンを倒しました。七等級の魔石を入手しました』


 『モグリを倒しました。七等級の魔石を入手しました』


 『キュノプを倒しました。六等級の魔石を入手しました』


 『コブリンを倒しました。七等級の魔石を入手しました』


……


……


 『灰威角獣ビナイラントを倒しました。三等級の魔石を入手しました』


 『彩小鬼を倒しました。四等級の魔石を入手しました』






〔燦華零雷〕で倒していたのだろう。通知が連なっていく。すごい数だ。




 灰威角獣ビナイラントはでっかいサイのことか。


 そういや、ロニーたちが白い彩小鬼から魔石が出ないと言っていた気がするが、この石板が原因だった模様。どんな仕組みになってるのかは全くもって謎だが。

 まあ別に仕組みが知りたいわけじゃない。そこはFANTASYでオケ。

 

 にしても、コブリンって。安直すぎだろ。


 前の画面に戻ると、新たに『魔石』と『スキルコイン』の項目ができていた。



 『魔石』


 ・七等級の魔石:九十二個

 ・六等級の魔石:四十一個

 ・五等級の魔石:四個

 ・四等級の魔石:一個

 ・三等級の魔石:一個



 どうやら、魔石をスキルコインに変換することができ、そのスキルコインを消費することでスキルをガチャれるみたいだ。


 七等級と六等級と五等級、そして四等級の魔石を全てスキルコインに変換する。


 やっぱ一番いいやつは取っておきたいよね。好きなおかずは最後まで取っておく派だし。


 得られた九十九枚のスキルコインをすべて使用し、ガチャる。


 静かな牢内に流れ出す陽気で軽快な音楽。


 隣の牢から、一瞬ビクついたような声と音。


 可愛い。

 

 テッテレッテッテッテレッテッテッテーン。余韻を残し音楽がフェードアウト。




*****




『新たなスキルを獲得しました!』


 〔滅後遊戯〕/〔武連舞〕/〔L・ジョーカー〕/〔式魔召喚:反抗鬼〕/〔表通りの曲折〕/〔戦線乱麻〕/〔四対丹田〕/〔一撃二衝・烈破〕/〔粛出通水〕/〔降り頻る極彩色〕/〔ライトニングゴッドファイア〕/〔不可思議回帰〕/〔視覚過敏〕/〔微笑む人形〕/〔禁下明星〕/〔暗澹たる霧〕/〔波視豚〕/〔アガジェの罪証〕/〔自信錯誤〕/〔ホワイトファベル〕/〔鋼状網〕/〔累加紫電絶壊槍〕/〔欺瞞の便り〕/〔最善選択振り子〕/〔疼く片腕〕/〔悪童のお宅訪問〕/〔小さな雪国〕/〔契り千切り〕/〔超蝶々跋扈〕/〔夜引の暴犬〕/〔死苦八杭〕/〔半減倍化分裂筒〕/〔聖徒の焔〕/〔多段双拳骨〕/〔煉核の顎〕/〔解離性方向〕/〔影喰いム〕/〔悲喜葬送〕/〔青天蓋〕/〔到らずの空壁〕/〔天帝昇華〕/〔ゴードン〕/〔茶目な風精霊〕/〔超スーパーウルトラ烈風拳!〕/〔召喚:簒奪呪剣グリムレコード〕/〔部分隔離〕/〔奇術師見習いの小技〕/〔二閃・細流〕/〔喪泣の丘〕/〔積む詰む〕/〔鬼灯〕/〔性変態〕/〔儚き陽炎〕/〔ミザリーショット〕/〔忌みの断痕〕/〔強制伝達樹〕/〔鹵獲〕/〔虹降り〕/〔暮々三町影法師〕/〔白煌道〕/〔形状記憶ゴキリン〕/〔怪火の児戯〕/〔騒音爆発〕/〔打上げ案内図:ぐるぐる脚〕/〔佰式・参ノ型・原理の太刀〕/〔麻痺銃〕/〔汚濁の五芒星〕/〔大海獣の渦潮〕/〔火輪の平方根〕/〔ダークイリミネイター〕/〔背陣裂呼〕/〔戒の手折り〕/〔裂罅水操泉〕/〔起源の胚〕/〔俗書三章十四節『豊穣の残雨』〕/〔虚飾の天眼〕/〔黒歴史の落丁〕/〔投下滅槌〕/〔ワイドワインドワンダーワンド〕/〔魚雨〕/〔壊土堰堤〕/〔奇術師の本領〕/〔蝕既〕/〔鏡界の絶佳景象〕/〔翻弄する跳躍者〕/〔臭撃〕/〔局所的滅光線〕/〔非道なる全美血界〕/〔雹爆霰散〕/〔聖水〕/〔連斬り・だるま落とし〕/〔満ちる星印〕/〔主屠露我乃訃〕/〔秘宝が眠る箱〕/〔呪詛の仮面〕/〔不絶無為〕/〔参列の奏者〕/〔淡墨〕/〔乗法の十字〕




*****




 わーお。


 コイン一枚で一ガチャ。歴史上類を見ない超親切設計である。

 神運営様の世界かな? 


 これぞチート。


 

 どうやら、俺TUEEEが幕を上げたようです。



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