第四十九回 新出発は、いつも。


 ――お下げも、丸くて大きな眼鏡も、もうしなくなって、そのまま新出発へ。



 夏休みの終わりは、八月三十一日かと思われたけど……


 九月半ばの説もあれば、その日まで待てずに一週間ほど早くなる説も。ある程度は予測していたようにも? どちらかといえば潜在意識の奥深くにある勘が当たったもので、


 ……後者となる。


 朝まで待てない恋の囁きのように、新学期は早くなったのだ。


 三年生は修学旅行の予定だったそうだけれど、それは延期で、その代わりに新学期が早くなって、偶然にも修学旅行の出発予定日だった今日、八月二十六日がその日となる。



 私学展への道程をまっしぐらに、

 進んだ夏休みの余韻は少しだけを残して、いつもの平日と変わらない朝の光景。


 夢とも思える一瞬だったけれど、

 描いた作品は、間違いなく芸術棟から出発している。完成した翌日に業者様たちが、運んで行ったその一部始終が脳内に、その奥深くに残されているメモリーズ。


 スマホでチェックすれば、

 私学展の会場で見事に咲き誇っている、その様が拝見できる。


 無観客なれどウメチカの三番街。とある立派な趣の、美術館のような場所で、僕らはありのままの姿で飾られている。丸い大きな眼鏡とも脱皮した、身も心も露わとなりながらも最高の彩りの……怜央れお君と一緒に、人間の始まりを描いていたの。



 西洋絵画の趣は、令子れいこ先生だけではなくて、

 僕も同じ。怜央君もまた、僕と同じだから。


 これからも、二人で一人前の部員。……学園の新学期もまた、お家から怜央君と一緒に通う。夏休みは現地集合だけれども、登校日は迎えに来てくれるの。



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