第四十五回 上る朝日のように。


 ――広がる個人の世界。その中に於いても広がる感染。ニュースはそれ一色。



 今日より厳しい明日へ。


 狭まる行動範囲。そして広がる規制。自粛する項目は増える。予定されていたものが中止となる。一番の打撃は……クラブ活動の中止。そう聞かされた時、その瞬間、目の前が暗くなって眩暈に等しく、立っていられないほどだったの。


 じゃあ私学展は?


 あるの? ないの? 僕は思わず問うの。そのことを仰った瑞希みずき先生の胸倉を掴みながら。僕が卒倒して心配する瑞希先生なのに、僕は上半身を起こして胸倉を……


「君の悔しさ、本当にわかるよ。

 殴ってもいいんだよ、それで君の悔しさが軽くなるのなら」


 と、瑞希先生は穏やかに言うの。……本当は辛いのに、瑞希先生も。僕は溢れる涙をどうすることもできずに、そのまま号泣の域まで達したの。先生は包んでくれた。



 ――令子れいこ先生への約束。瑞希先生もまた、僕と同じ思いだった。


 本当なら、今日はクラブ活動はお休み。だけれど急な連絡に、芸術棟まで馳せ参じた次第だったの。そして瑞希先生がそこにいた。怜央れお君もまた一緒だったから。


 そして、明けない夜がないように、


 泣き止むの。……何故なら、高校野球のように私学展も、無観客で開催されるから。懸命に問い合わせてくれたの、様々なアクセス手段を駆使しながら、瑞希先生が。


 その末に、


「葉月さん、私学展に出展するよ。わたしも全力で応援するから。いいね、怜央君も」


 断固やり切るよ! その心意気で、瑞希先生は笑顔で言う。「は、はい!」と、宙を舞う涙の雫と共に胸も熱く、僕も笑顔になれた。怜央君も。初めて知る彼の、きっと心からの笑顔。メンタルはきっと、僕よりも何十倍も強い怜央君だと思えるから……

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