第七章 ――旧号。

第三十一回 駆け抜けるカート。


 ――それは、画面越しに見る景色。


 または見える景色かな? レーザービームが走るようなスピード感。



 モリオカートに熱中する二人……その親子に、僕は釘付けになった。ウメチカ戦の初日のエンディングを飾るに相応しい場面、或いは光景。少なくとも僕にはそう思えた。


 それでも群がる野次馬。


 ……でも、しっかりとソーシャルディスタンスを保つため、大画面でその模様は放映されていたの。多分、このドバシカメラの地上にも、瑞希みずき先生の嬉々とする顔も、瑞希先生のお母さん……つまりはお婆ちゃんの顔も同じように嬉々とする、その模様まで放映されていて、きっと帰る頃には、この親子のことを知らない人はいないと思えるほどに。



「ママ、カートまで旧式だね」


「新しければいいってもんじゃないよ、瑞希もスマホばっかりかけてこないで、たまには家電でかけてきなさいよ。それもダイヤル式の黒電話、電話の番号も忘れないから」


「ママってやっぱ人間国宝になれそうだね。今時みかけないよ、黒電話なんて。今度ママも使ってみようよ、スマホ。プレゼントしてあげるからさー」


「ダメダメ、まだ充分使えるんだから黒電話。古いものは頑丈なの。バイクのヒーローも旧1号で、未だ変わらずフアンなんだからね。今度、楓太そうたちゃんと一緒に見るわよ」


「……って、これで何回目? 毎週のように見てるよね? ママももう年なんだから、家に来ればいいのに。ホントに頑固なんだから」


「まだまだ瑞希には負けないよ。ほらほらゲームに集中。瑞希が『ママ』と呼ばなくなって『お母さん』と呼べるようになってから。……フムフム、一児のママが、そのお母さんを『ママ』って呼ぶのも。確かに聞いたことないわねえー、少なくともわたしはね」


「もう! ママの意地悪!」


 それでも走り続けるこの親子のカート。ずっと横並びのままで、そのままで……



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