第三十二回 その名前について。


 ――それは、旧号きゅうごう


 僕と同じ姓の、男の子のニックネーム。永遠の十五歳の……きっとあれが三途の川と呼ばれるものだったのかな? 僕を、グイッと引き戻してくれた男の子だったの。



 去年までは……


 僕には不治ともいえる病があった。身体の自由を奪われる病だ。それは呼吸も、心の臓にも及んでいた。そう思うと多分……僕は一度、死んでいたことになる。心の臓が止まったと、手術中に……と聞いたから。なら僕は、多くの人達に命を救われたのだ。


 ううん、或いは蘇生の儀だった。


 僕は、自由に動く体を手に入れたのだから、ビッグでこの上ないプレゼント。

 それは旧号という、僕だけのヒーローが、


 また命の恩人が……そして、僕の伯父ちゃんだったの。パパから聞いたから。千佳ちか先輩にも共通の伯父ちゃんがいる。だとしたら梨花りか先輩も同様にも。



 ……星野ほしの系統は繋がっていた。


 僕らが生まれるずっとずっと前から。



 きっときっとだけど、旧号を中心に僕らの物語は繋がっていると思う。旧号こと、星野旧一もとかずという少年から、この物語は続いているのだと思えるの。それは瑞希みずき先生のお母さんの北川きたがわ初子はつこさんが、まだ『ハッピー先生』と呼ばれていた時代。令和から遡って平成までも昭和の五十四年、そこが始まりだった。


 しかしながら千佳先輩は語っていたの。……旧一おじちゃんは、永遠の十五歳から長い歳月の末に生まれ変わったのだと。それが令和三年七月二十三日、令子れいこ先生の第一子であるれん君が、その来世の姿だそうだ。確かにそれを証明する術はないのだけど、僕も信じているの。千佳先輩が語っていたことを。……きっと僕よりも関りが深いようだから。



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