第十九回 そしてその時間内に。


 ――場所は未だアトリエ。


 月の光にはまだ程遠い今時分。夕映えにもなれないままなの。



 距離が近づく都築つづき君の顔。女の子の僕から見ても綺麗な顔で、これから彼を描くのだと思うとね、思うと……心躍るの。そう思ってもいいよね? 眼鏡を外した僕の、……僕の顔を見たのだから。これって、裸を見られるよりも恥ずかしいことだからなの。



 裸になっても、眼鏡だけは外さなかったから。


 素顔は今まで、家族か、令子れいこ先生しか見せたことがなかったから。


「あのっ、僕の顔、変じゃないかな? そばかすも目立っちゃって」と、自ら言っちゃう始末。都築君の……まだ膝枕の上で。「可愛いよ、眼鏡のない葉月はづき」と、笑顔で言う都築君に対して、その……「バカ」と一言だけのお返し。顔から火が出そうだから。


 できるだけササッと、眼鏡を掛ける僕。都築君の膝枕から起き上がって……



「さっ、描こう描こう、仕切り直しよ、怜央れお……あっ、つ、都築君」


「葉月、今……」


「わ、悪い? 君の名前、下の名前で呼んじゃ? 君だって僕のこと、葉月って……」


 クスッと漏れる笑い声。それは怜央のもので、


「大歓迎。葉月にそう呼ばれるなら」


「これって不公平だからそうするんだからね、僕は君のこと、いい奴と思ってるだけだから。あくまで一緒に絵を描いていく仲間、お友達なだけなんだから」


 それ以上ではないの。ましてや恋人だなんて……


「はいはい、わかってます」


 と、怜央は満たされたような顔で、そう返事するものだから、本当にわかっているのだか? と、そう思いながらも、ドキドキするのは何故? 変な感じを覚えたの。



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