第十四回 それは七夕を指して。


 ――ちょっとちょっと! まだそんな関係じゃないから!



 せっかく千佳ちか先輩が、とても前向きなエッセイを書いたと思ったら、僕のナイト……それも立派なナイトって言うから……名前を出してないから、まだ良かったけど。


 まあ、それよりも、


 可奈かな先輩のことは、多分だけど、千佳先輩だけが初耳なだけと思われる。僕ら芸術部の中では知れ渡っていることだ。でも、梨花りか先輩の悲しそうな顔が印象的で……


 それで、あまり言わなくなったの。

 梨花先輩の前で、可奈先輩のこと。……僕らの中では暗黙の了解だから。



 だからかな?


 恵比寿えびす君が何かと構うの、梨花先輩に。


 千佳先輩に訊けないからって、僕にも都築君にも訊いてくるの。……例えば、梨花先輩の好きな食べ物とか。趣味とか。その中でも難易度の高い質問は、どうして梨花先輩は女の子が好きなのか? ……つまり、それは何故、梨花先輩が百合なのか? という意味なので、僕はもちろん都築君も未体験ゾーンな話なので、答えられない質問と化した。


 するとだね、


「じゃあ、千佳に訊く」


 と言うものだから、慌てて僕らは制した。千佳先輩のことを呼び捨てにしたこともあって、細やかな罰も加えて、彼を止めたのだ。……その頃の千佳先輩は、学園を脱走するほどに、梨花先輩とギクシャクしていたそうだから。まあまあまあ、今はもう持ち直してだね、喧嘩の原因も些細なこと……いやいや、千佳先輩の病気。思い込みのようだから、問題はなし。それが証拠に今宵の、天文部が主催のイベントに、お揃いの浴衣を着てくるって言っていたから、いつもの仲良し姉妹に戻ったみたいで安心安心……


 そして今宵が訪れるのも、案外早いものだ。場所は、この芸術棟に於いてだ。



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