第十一章 ――秋桜。

第五十一回 夏の終わりも近し。


 ――そして静かな秋の夜に。虫の鳴き声も麗しく。



 その様な趣と思われたけど、騒めく夏の調べはまだ続いているようなの。


 それが証拠に外気温は、三十度近くもある熱帯夜。


 寝苦しくもある二学期初のサタデーナイト。執筆に勤しんでいる。不要不急の外出自粛を促されているのだけど、明日は約束。怜央れお君のお家を訪ねることにした。


 既にアポは執ってある。


 それって約束を意味している。僕は彼のお家を知らない。……ただ千佳ちか先輩と梨花りか先輩のお家から、そう遠くないと聞いたことがある? あっ、千佳先輩のエッセイに綴られていた。五番町から『最寄り駅』という冗談みたいな名前の駅の間だと推定はできる。



 でも、怜央君は……


「迎えに行くよ」と、言ってくれた。



 嬉しかったの。でも、「今度は僕から、君の最寄りの駅へ行くから」って言った。


 すると、怜央君は、


「じゃあ、僕の最寄りの駅で。朝の十時に、改札口で待ち合わせよう」と、言った。


 その声は響く、繰り返される耳の中から。


 一歩前進を飾った。僕一人で初めて、君の最寄りの駅に行けるの。……丸く大きな眼鏡は、もう掛けてない。お下げも解いたまま。きっともう大丈夫。一人で電車の中でも。


 あの日から、ずっと素顔。


 なのでクラスの皆が、驚いていたの。口には出さないけどヒソヒソと。途轍もないイメチェンのように。でも、僕は胸を張る。怜央君が一緒だから、二人で一人前だから。


 クラブ活動は、暫くお預けとなった。でも、ちゃんとした再開の日取りは決まっているので、そこからまた、次の作品を始めようと思う。また二人で一枚の絵画を描くの。



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