第九回 あくまで明日の出来事。


 ――都築つづき君から、僕のスマホに通話してきたのは昨日のこと。あくまで昨日だ。



 なら、約束の日は今日。今日の午前十時に改札口で待ち合わせだ。

 改札口で君のこと……


 君が来る前に、僕が先に着いていた。間違いなくこの駅……僕にとっては最寄りの駅だけど、君にとっては、お家から遠ざかるのでは? 君にとっては最寄りの駅ではない。


 向かう場所は、君の最寄りの駅から、まだ向こう。


 つまりこの待ち合わせ場所は、君にとっては目的地の反対方向だ。本来なら僕が、君の最寄りの駅に向かうところなのだけど、君が此処を選択したのから。



 そして、ポツリポツリと雨の雫が奏で始めた時、


葉月はづきちゃん」――と、僕を呼ぶ声が弾んだ。男の子のソプラノヴォイス。


 綺麗な面に、広い島のような赤い帽子。線の細い体格と思いきや……意外にガッチリと引き締まった身体。白いTシャツや帽子の色とお揃いの短パン。その上から見ても想像できる。肌は色白……僕と同じほどに。僕は白のワンピースと……赤いポシェットで、女の子している服装。ボクッ娘らしからぬだけど、僕はいつもそうだからなの。


「待った?」と、君が訊くから、


「別に、予定通りだから」と、僕は答えてしまう。


「都築君、今度から待ち合わせは、君の最寄りの駅にした方が効率的と思わない? 淳一堂は京の都方面だから。僕の最寄りの駅に合わしたら、反対方向になっちゃうし……」


 と、更なるツッコミも加えてしまうの。……本当は、本当はね……


「僕は一向に構わないよ。コーユーのって普通は誘った側が出向くものだから。ましてや男の子が女の子を迎えに行くのだから。葉月ちゃんならとくにね……」


 と、都築君は言うの。こんな時に限ってハッキリと。


「バ、バカ……」耳まで火照る。こんな紅い顔なんて、見せられない。



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