第十回 歩く速度、その距離も。
――一定間隔を保つ。進撃するにも緩やかに、そして和やかに。
バタバタやセカセカの表現とは遥かに異なる僕らの、そのテンポ。……
「先に……行っていいのよ。僕、歩くの遅いから」
丁度そこは淳一堂のエリア内。デパートの『松坂の殿堂』その一室にある。整然と本が並んでいる。誘ったのは都築君の方だから、きっと、目的の御本があるはずだから。
「全然いいよ。僕が
と、都築君は言うの。……ううん、言ってくれたの。やっぱり僕に合わせてくれていたの。……車椅子の生活から、病気を克服して動けるようになった僕の身体。一人でできることも増えた。お風呂に入ることも、おトイレも。着替えることも……歩くことも。でも普通の人より、歩くのは遅く、動作も……まだ普通の人よりかはスローなの。
じわっと込み上げる涙。
それは、都築君の優しさに気付いた時。――都築君が何故、昨日ではなくて今日にしたのか。多分、お初にお誘いするからだけではないと思われる。それに待ち合わせ場所。どうして目的地よりも遠い、僕のお家から近くの駅にしたのか。
そのすべてに意味があった。すべては僕が関連していたの。……彼は何も言わなかったから、わからなかったけど、今もまだわからないけれど……
「うん、ありがと」
せめてその一言だけは、囁く程度であっても言わなきゃ、と、そう思ったから。都築君はニッコリ笑顔。いつしか、ぎこちなさは消え……普通の同い年の関係に。それは都築君の『葉月ちゃん』の時点で、少しばかりはクリアーされていた。
そして僕らは、一緒に御本を見て回る。清々しい空気の午前を満喫した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます