第十回 歩く速度、その距離も。


 ――一定間隔を保つ。進撃するにも緩やかに、そして和やかに。



 バタバタやセカセカの表現とは遥かに異なる僕らの、そのテンポ。……都築つづき君は、常に僕と一定の間隔を保っていた。今になって、そのことに気付いたの。


「先に……行っていいのよ。僕、歩くの遅いから」


 丁度そこは淳一堂のエリア内。デパートの『松坂の殿堂』その一室にある。整然と本が並んでいる。誘ったのは都築君の方だから、きっと、目的の御本があるはずだから。



「全然いいよ。僕が葉月はづきちゃんのペースに合わせたいから」


 と、都築君は言うの。……ううん、言ってくれたの。やっぱり僕に合わせてくれていたの。……車椅子の生活から、病気を克服して動けるようになった僕の身体。一人でできることも増えた。お風呂に入ることも、おトイレも。着替えることも……歩くことも。でも普通の人より、歩くのは遅く、動作も……まだ普通の人よりかはスローなの。



 じわっと込み上げる涙。


 それは、都築君の優しさに気付いた時。――都築君が何故、昨日ではなくて今日にしたのか。多分、お初にお誘いするからだけではないと思われる。それに待ち合わせ場所。どうして目的地よりも遠い、僕のお家から近くの駅にしたのか。


 そのすべてに意味があった。すべては僕が関連していたの。……彼は何も言わなかったから、わからなかったけど、今もまだわからないけれど……


「うん、ありがと」


 せめてその一言だけは、囁く程度であっても言わなきゃ、と、そう思ったから。都築君はニッコリ笑顔。いつしか、ぎこちなさは消え……普通の同い年の関係に。それは都築君の『葉月ちゃん』の時点で、少しばかりはクリアーされていた。


 そして僕らは、一緒に御本を見て回る。清々しい空気の午前を満喫した。

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