第二十八回 縁は会場をも結ぶ。


 ――会場といえば、もちろんウメチカにある『第二次ウメチカ戦』の会場。



 初めて令子れいこ先生とアクリル絵を経験した時のような……

 またはそれ以前に、一人で車椅子で、自分だけの力でお外に出た時の……


 そうトキメクようなあの感覚。僕は堪らない興奮を覚えることとなったの。自分の知らない世界は多々とある。きっと同じ十三歳でも、他の子よりかは知らないことの方が多いと思うの。だからこの手は、怜央れお君と繋がっているの。


 僕の知らない世界を、いっぱい知っていると思うの。だから結ぶの。僕が持ち合わしている、運命という名の赤い糸を。少なくとも君は受け入れてくれるのかな?


葉月はづき、会場に到着だ。それにお婆ちゃんも、着きましたよ」

 と爽やかな、ソプラノヴォイス。


 怜央君は声変わりしていなくても、そのままでもカッコよく思える。


「ありがとう坊や、それにお嬢さんも。

 あなたたちのように親切な子がいると、この『ウメチカ戦』というイベントも、オリンピックに負けてないわね。きっとファンになるよ、娘と一緒にね」


 と、お婆ちゃんは深々と一礼をするなり、意味深い言葉も絡めたその直後、


「ママ、こっちこっち……

 ってあれ? あなたたちも参加するの?」


「こらこら瑞希みずき、また『ママ』って。あなたはもう一児のママなんだから、わたしのことは『お母さん』でしょ。それにこの子たちって、あなたの生徒……」


「うん、わたしのクラスの子。

 都築つづき怜央君と星野ほしの葉月さん。どお、二人ともいい子だったでしょ」


 って二人はもう、二人だけの世界。お婆ちゃんは、瑞希先生のお母さんだった。とても仲のいい親子だね……そう思えるの。「君たち受付まだでしょ。案内するから」と、瑞希先生は僕らに声を掛ける。おかげ様で初陣たる緊張も程よく解れたようだ。



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