第二十七回 早朝を駆ける電車。
――まっしぐらに会場へ。車窓からは流れる景色。早朝の模様との共演が美しく。
僕の初陣は、すでに始まっていたのだ。
電車に乗ったことのない僕だから、この先も未知なる世界への連続となる。いつもならパパの運転するお車に同乗して、ママも一緒だったから……唯一、一人で行ける場所が学園だけだったの、今日まで。誰にも頼らず、歩いて行ける場所は……
「大丈夫?」と、声を掛けてくれる。
吊革を握って、僕と向かい合わせ。
僕は座席……その横には見知らぬ御婆ちゃん。またその隣には、前屈みでスマホを見ている高校生くらいの男の子。そういえば、スマホを見る人の殆どが前屈み……? 光の加減? 画面との距離? 何でだろう? と思いながら、幾つもの思考を重ねていた。
マスクも黒にピンク……
やはり白は一般的。でもその仕方。鼻まで覆う人と、息苦しいのか鼻出しにする人や顎まで下している人も。距離は……多分取れている。ソーシャルディスタンスは二メートルのはずだから……という具合に目が泳ぐの。それはきっと、初めて見る光景だから。
「もうすぐだから、
との、怜央君の優しい声に、ハッとする僕。
「そんなの……」と、言いかけると重なって、その横の、僕の横に座っているお婆ちゃんが「仲がいいのね。席も譲ってくれて、自慢のお兄ちゃんね、お嬢ちゃん」と、声を掛けてきたの。ビックリしたのと同時に、言おうとしたことも引っ込んで、何を言おうとしたのか忘却の彼方で、……でも、僕が怜央君の妹になってしまっていて「あの……」と訂正をしようと声を掛けるのとまたも重なって、「お嬢ちゃんたちも、ウメチカのイベント会場に向かってるの?」と、お婆ちゃんが訪ねるから、「はい、そうです」と、お答えするの。今度は僕と怜央君の声が重なって、綺麗なハーモニーを奏でていた。
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