第九章 ――閃光。

第四十一回 今、十三日金曜日。


 ――猛暑で始まった初夏も、冷夏へと変貌を遂げたように思える今日この頃。



 雨が多いのも独特な……まさしく真夏の雨。しかしながら最近の雨は、基本的に小降りが多く、体感するも掠める程度のもの。以前の雨の方が、もっと激しく思える。


 青いお空はまだ遠く、


 マスクの影響もあると思われるのだけど、夏もまた眩暈をしているような、そんな感じに共感を覚える。その真意は定かでないが、僕は今日も学園内の芸術棟に入る。



 もう確立した、オープンフェイス。


 丸くて大きな眼鏡とも御別れを告げた。それが今朝、まさに十三日の金曜日。昨日起こしたマイレヴォリューションは、今日を乱すものと思われたけど、白い世界へと変化をした。お空と同じ色、洗練された白色なの。それが僕にも反映される背景の色彩。



 でも、単調な白色ではないの。


 そこには海の色もある、かつて見た母なる海……その色なの。喩えるなら、令子れいこ先生が初めて見た海の色と同じ、十数年の時を経て完成を迎えた百号のキャンバスの、あの絵のような海の色、お空の色。そしてまた、千佳ちか先輩がまたも綴ったエッセイに登場した海も同じもの。その画像を送ってくれたの、スマホに……ただ、ただね、派手派手。


 梨花りか先輩と並んでお揃いの、ビキニスタイル。


 おまけに、お決まりのピースなんかしちゃって、僕の方が恥ずかしくなった。


 それもそうなの。その海は僕にとっても関係のある場所で、北の陸地と称する、パパの生まれた場所だから。千佳先輩たちと共通の、御祖母ちゃんがいた場所だから。


 遠い記憶にある、この海……


 この千里の町に来たのは、僕が小学校に入る少し前だった。それまでは望郷の海と戯れる遠い記憶が、僕の……怜央れお君と一緒のこの絵に反映される、大切な鍵だから。



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