第十五回 未体験ゾーンを訪れ。


 ――時は今宵。七夕前夜。僕らは未体験ゾーンに入った。



 喩えるなら、天空のプラネタリウム。響く可奈かな先輩の声……ややお姉さんなヴォイス。


 ほんのりと、石鹸の香りのする浴衣姿の千佳ちか先輩。梨花りか先輩もまた然りで、僕は……僕もまた浴衣姿。赤、青、黄……三色揃う「まるで信号機ね」って笑う可奈先輩。


 久しぶりの、ご登場だ。


 場所は芸術棟なのだけれど、三階よりも上の場所で、きっと誰も入ったことはなく。アトリエに続く第二の、開かずの扉だった場所。それが今宵解禁となった。……しかしながら、そこを開けた鍵は、可奈先輩が職員室から黙って持ってきたという疑惑も。


 笑って誤魔化すから……


 と言うよりも、七夕論を用いて巧妙な言い訳に転じたから、皆が笑うに至ったの。


 百合もまた然りだ。


 可奈先輩の気になる男子は天文部の先輩。今宵、初対面となる。可奈先輩の名字が藤岡ふじおかなら、その先輩は一文橋いちもんばし。何かの特撮ヒーローのような繋がりだ。


 偶然とはいえ、クスッと……笑いを堪えていた。さて本題の梨花先輩と可奈先輩のこととなるけど、……別れはなしだ。しかしながら、恵比寿えびす君に説明するには難しいの。


 それに都築つづき君にも。……二人は今宵、参加しなかったからなの。



 つまり、僕流の解釈をするならば、可奈先輩は両刀遣いとなったようだ。普通の女の子のように異性にも興味はあるし恋もする。されども同性も大好き。その理由は梨花先輩にも通づる。仲が深まって、ちょっとだけ親友の域を超えただけだから。それはそれは梨花先輩が、お友達を大切にする人だから、とっても大切にするから。


 皆が仲良くなれること。

 それを誰よりも願っている純粋な人だから。


 お友達のありがたみを知っているからこそ、梨花先輩は百合に突入したのだ。

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