第五十四回 それでも、大丈夫。


 ――このお部屋で、これから起ころうとする出来事さえも。



 玄関の傍にあるお部屋こそが、怜央れお君のお部屋……だそうだ。生活感は、このお部屋もそうだけど、全体的にあまりなくて、殺伐としている。第一印象も同じだ。


 この状況だけど、僕は男の子のお部屋に入るのは初めてで……

 それ以前に人様のお部屋にお邪魔したこと自体が初めてで……



 今は怜央君と二人きり。


 二人きりなのはアトリエでも。それもお互い全裸で描きあった仲。でも、それを凌駕するほどの異様な光景なの。脳内に広がるベースの色自体が異なるように見えるの。


 全くの別もの。全くの異色だから、

 不安も纏わりつく。纏わりつくマスクも外し、オープンフェイスとなる。


 そんな中、怜央君はお茶を運んできてくれた。お盆に載せた冷たいお茶。喉の渇きを覚えていたから丁度良かったの。飲み干して今一度、脳内の整理に励むのだ。


 そして話してくれた。


 ……この異様な風景を、納得させる経緯とでもいうのか、怜央君は怜央君のことを。


 本当なら、彼の言葉で綴りたかったのだけど、……僕が、脳内の整理をする必要があったから、僕の言葉で語るに至ったの。もちろん、静かに語ってくれたから。



 怜央君は今、お父さんと二人暮らし。


 だけど一人の時が多いと言っていた。お父さんのお仕事は、とある工場の警備。一日おきのお泊り勤務なの。……それも、一年前から始まったルーティン。されどもまだ、怜央君自身はルーティンになれないの。学園生活の前に、自分の生活の定まらずだから。


 その前は、優しいお姉さんが二人いたそうだ。お母さんも一緒に生活をしていた。新型ウイルスによる生活苦によって、……家族がバラバラになったと、そう語っていた。



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