第五十三回 二人ぼっちなお家。
――ほら、見つけた!
改札口で君のこと。君も僕のことを、同じタイミングで引き合う磁石のように。
そして驚いたのは、
「早かったね」という単語が共通して、奏であったこと。そして
「まだ歩くけど、
と、顔を向けて訊いてくれるの。
「うん、平気」
ちょっと息は上がりそうだけど、……ううん、大丈夫。怜央君と一緒なら、このまま歩いて行ける。思えば、いつからだろう? 怜央君のこと、とても頼りにしている。少なくとも以前は違っていた。僕の方が彼より強くてしっかり者だと思い上がっていた。
……でも、実は違っていたの。
そのことが、これから物語られるの。
彼のお家に着いた時、それが物語られていた。僕のお家とは全然異なる、別の世界観を感じざるを得なかった。彼のお家は最寄りの駅から歩くこと……僕の歩く速さを基準としたら十五分程。そこは公営住宅。全二十棟が並んでいる。そのうちの九棟。二〇一号室が彼のお家だった。中に入ってみると……誰もいない。散らかっている荷物。段ボールも不規則に並んでいるの。そして怜央君は、そっと告げるの。
「お父さんは、仕事で夜まで帰ってこないんだ。中等部一年生の秋に、学園に転向してきたんだ。なのに水泳部っておかしな経歴とは思うけれど、男らしくなりたかったから。想像と違っててごめんな。……葉月に、見せてあげなきゃと思ってな、僕の状況を」
驚かない……と言ったら、真っ赤な嘘だ。僕には怜央君の真意が、読めなかった。
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