第五回 偉大なるツーショット。


 ――僕を語る上では、絶対に外せない人物いるの。僕の、師匠ともいえる人物だ。



 西原にしはら令子れいこ。奇遇にも、僕と同じ誕生日。


 そしてこの学園の先生。僕がこの学園で初めて会った先生だ。いつもは……多分殆どは芸術棟にいる。毎日のように、そこにいる。かつては、その芸術棟そのものが令子先生の所有物なのだ。そして令子先生も、この学園の生徒だった。しかも芸術部の原型である美術部の、一番初めの部員で一番初めの部長だったそうなの。


 その偉大なる勇者と、

 切なる思いで僕は、筆を交えたのだ。



 何ゆえ僕は彼女の……この人のことを偉大なる勇者というのか。僕と同じく、それ以上にこの人もまた、壮絶なる生死のドラマがあった。心臓に病を患っていたそうなの。発覚したのは十三歳の冬から春にかけてだそうだ。……末期。発作が起きて病院で、主治医が言った言葉だった。彼女もまた、最期を覚悟してアクリル絵に打ち込んだ。



 ……思えば何故そうなるのか?


 命と同じくらい大切な生き様。自分という人間が存在していたという証。……何かにつけて残したいと思うことは、きっと人間の心理なのかもしれない。そう思えるの。


 生き抜く彼女は、もっと絵を描きたいと思った十四歳の誕生日を迎えるその前、


 ……心停止。避けられない現実だった。


 でも、奇跡は起きる。僕の時と同じように、ホワイト・ジョーカーという名医が手掛けてくれたそうなの。しかしながらそれは、遠い意識の中でのこと。事実は定かではないのだけど。今はこうして生還し、また描けているの、アクリル絵を。


 彼女は今、生まれてくる新たな命のために、産休を取っている。また御一緒にアクリル絵を描けるように、僕はキャンバスに向かいながら、あなたのお帰りを待っています。



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