第8話 リミットまで24時間
うーむ、ある程度特定できたものの、これではまだ雲をつかむような話だ。
私はそう思って、忍の真似をしてこめかみに拳で繰りぐりぐりとやってみたが、痛いだけで何も思い浮かばない。
しかし忍ちゃん、ほんと今の私にとっては貴重な友人だけど、ほんと、ヘンな子だよなあ。いや、読者の皆さんから『何を今更』といわれそうだけど、でもホントにヘンなんだもん。往年のレトロラノべの登場人物かよ! とツッコみたくなる。まあ私もこうしてラノベにでてるわけだから仕方ないとこはあるけど。
忍ちゃんのこと、著者が描写し忘れてるみたいだからここで私が書いておきます。
忍ちゃん、成績はちょっと見せてもらったら物理とか理系の科目が得意みたい。私は文系科目で彼女に少し上回れたけど、忍は全然意に介さず気負いもなにもなく、アユムちゃんすっごーい、って目を丸くしてた。ほんと表情豊かで、くるくる変わるその顔は見ていて飽きない。
背高くて運動神経もムダによくて、それで顔面偏差値は64。これも偏差値かよ、と思うかもだけど、偏差値って統計学だからいろいろ便利なんですよ。ちなみに私は55ぐらいかな。忍ちゃんの方が悔しいけど美人。髪はすこし青みがかかってるのを長く伸ばしてる。風にあおられて散ると瑠璃色になってすごくきれい。
で、その忍ちゃんの胸とふくらはぎ。これ正直、女子の私から見てもすごくヤバい。この前体育で半袖短パンになったときみたら、もう、ね。
ふくらはぎめっちゃきれい。すごくきゅっと締まったとこと膨らんだところのバランスがきれい。
そして胸。胸おっきくて、それでいてすごく形がいい。制服のブラウスの中に収まっていても、はっきりとわかる。思わず私この前『充電させてー!』って言っちゃった。それは冗談めかしたけど、私、内心はすごくドキドキしちゃってた。そのとき触ったけど、マジふわふわでビビる。私も胸ない訳ではないんだけど、あの忍ちゃんの胸はたまらないものがある。そりゃ男子たちも注目するわけだけど、忍ちゃんはそのたびに「みさいる」で迎撃してる。
要するに女同士でも、私は軽く忍ちゃんがうらやましい。というところなのです。
うん。ココで書いとかないと、私もどうにも収まらない。
「どうもあとすこしが絞り込めないなー」
教室にその忍がやってきて、顔を曇らせている。
「あと24時間で候補は6人。でもそろいもそろって、みんなテツ分ありそうに見えないんだよなー」
「でも、一見そうは見えない人がヤバいじゃん」
「そうねー。でもこの子見つけても残り3人見つけないと」
「むずかしいなあ。でも、この子見つけたら突破口になるんじゃない? それが『ぴっきーん!』の意味でしょ?」
「わからぬ。わたくしにも正直わからぬ」
「え、じゃ、あれただの天然?」
「かもしれぬ」
忍ちゃんはそう言って口をまたアヒル口にしている。
「時間ないのになー」
「生徒会のみんな、がんばってくれたけど、最後のピースが見つからない」
「まいったなー、こまったなー」
そのとき、あのハンドバッグ・パパ活女子、あるいは援交女子と想っていた子が、鉛筆を机からおとした。
「!!」
その直後、私と忍ちゃんは目を見合わせた。
「見た?」
「見ちゃった」
そう、彼女の机の上のノートの落書きがちらっと見えたのだ。
「リプレイできない?」
「無理。肉眼で見たのは無理。でも、あの落書き、多分、E531系のダブルデッカー
「だよね。ちょっとパースに癖あったけど、めちゃ精密だった」
「だけど……えええっ、援交してる子がテツな落書き?」
「いや、それ関係ないから。それはそれ、これはこれ」
「でも、そうなのかなあ」
「どういう事情があったかわかんないけど、多分そうなんでしょう」
「でも……どうする?」
「ここは
忍ちゃんはそう言うと席を立った。ホントこういうとき率先していくのは忍ちゃんのいいところだなあ。
「あの、桂さん、ですよね」
この援交女子、
忍の声に顔を上げる彼女は、すごく色っぽく物憂げな眼だ。うわー、生々しいなあ。改めてみると、身体がむっちりしてていかにも男性が好きそうなスタイル。私はそこからいやらしい妄想をしそうになって、慌てて数学の対数表を思い出してこらえる。でも彼女、パパとあんなところであんなことを……ひいい! 危険すぎます!
「なあに?」
「ちょっと、ノートの落書きが見えたので」
「あら。何のことかしら」
露骨にすっとぼけるその仕草もいちいちいやらしい感じ。うわー、こりゃパパはたまんないよなあ、と想った私は思わず顔が赤くなる。
「勝手に私のノート見ないでくれませんか。私、そう言うのじゃないので」
でもガード高いなあ。さすがかなあ。
「あれ、E531系のダブルデッカー」
「なんのことかしら。私、知らない」
忍も苦戦している。
「へんなこと言わないでください」
「せっかくだから、私たちの鉄研に入ってくれませんか」
「興味ないです」
「でも、きっと楽しいですよ!」
「ないです」
うぬう、ガードめちゃつよつよだなあ。
「一緒に模型作ったり。旅行行ったりして楽しいですよ」
「しつこい」
彼女はそう言うと、ぷいっと顔を背けた。
「でも」
「やめてもらえます?」
彼女の拒絶の強さに、さすがの忍も攻め手を失ったようだ。
「桂さん、思ってたんですが、そのハンドバッグ」
それでも忍が食いつく。
「やめてください!」
ついに彼女が大きな声を上げた。
「あなたたちに関係のないことに、いちいち口を挟まないでいただけますか!」
その異様なほど強い拒否の声に、教室はしんと静まりかえった。
気まずい沈黙のなか、忍はもどってきた。
「玉砕、轟沈しました……」
「そうよね……。相手がわるかったみたい」
「いいかとおもったのに」
「そんなこともあるよー」
「篠原総裁優しいなあ」
そういう忍は軽く涙ぐんでいる。
「そうかなあ。でも、あと24時間しかないよ」
「どうしよう……」
さすがの忍もこれにはすっかり困っている。
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