第48話 上野駅モジュール、着手!

 プランをみんなで立てていく。

総裁「輸送考えると余り大きく出来ないのよね。でも駅は大きいから、工夫しないと」

忍 「むずかしいなあ」

 でもそのとき、恋海が笑った。

総裁「どうしたの?」

恋海「いや、いかにも鉄研らしくなったなあ、って。レイアウトプランでみんな思案投げ首なんて」

忍 「そうね。やっと鉄研っぽいかも」

香子「拙者、モジュールレイアウト作るの始めてであります!」

ユリ「私もよ。こんな大きなの作るの、初めてだもの」

総裁「私たち歩(総裁)、忍、香子、ユリ、静、恋海の6人のうちでレイアウト作りしたことあるのは」

恋海「お父さんとお母さんと一緒に作った。稚拙なものだったけど楽しかった」

忍 「一応作ったことある。うちも父母と一緒に」

総裁「いいなあ。うちのお父さんもお母さんもそういうの関心持たないから。でも休日に家族で模型を作って過ごすなんて、すごくステキだなあ。幸せな家族って……」

 その裾を忍が引っ張っている。

総裁「あ」

恋海「いいのよ。あのころ私も幸せだったんだから。それは事実だもの」

 恋海の両親の離婚のことを総裁は忘れていた。

総裁「ごめんなさい」

恋海「謝らないで。私も私の中で決着させようとしてることだし」

 ちょっと間が開いた。

忍 「エビコーさんたちはどんな感じで進んでるんだろう」

静 「……エビコーさんたちツイッターやってると思う」

総裁「見てみましょう!」

 みんなで @ebi_tekke_n のツイッターをケータイで見る。

忍 「そっか……私たちの工作のターンなのでプラン作りだけね。線路もダブルクロスとY字ポイント3基、その先の直線線路と車止めをベニヤ板に貼り付けただけ」

恋海「いわゆる『ベニヤ平原』って状態ね」

総裁「でも私たちの作業が遅れれば、エビコーさんたちの新宿駅モジュールも自動的に遅れちゃう」

恋海「なにげに責任重大じゃない!」

総裁「今回ビッグサイトには私たちの上野駅。エビコーさんたちの新宿駅を一緒に展示する。それを依り代の著者さんの時間をシェアして作ることになるわね。私たちがひどく失敗すれば、エビコーさんたちもなすすべなく失敗する」

恋海「エビコーさんたち、私たちをライバル、って買い被りすぎよ。私たち鉄道ファンではあるけど、模型も活動もエビコーさんたちほどできないもの」

 みんな俯いた。沈黙になる。

総裁「でも、やれることはやりましょうよ! その結果未完成でもエビコーさんたちのターンに繋げればいいから。初めから怖気付いて何もしないのはエビコーさんたちに申し訳ないと思う!」

 流山総裁はそう声を張り上げる。

忍 「そうね。いろいろあったけど、やれるだけやって、エビコーさんたちに喰らいつけるだけ食らいつきたい。それでこそ私たちが鉄研を作った意義だもの」

香子「正々堂々と挑戦して、その結果莞爾として散るのもまたサムライらしくていいと思います!」

ユリ「もー! 散っちゃだめだよう」

静 「……でもそれはそれでいい思い出になる。このままよりずっといい思い出に。それは意味がすごくある」

総裁「静ちゃんいいこと言うなー。そう、後悔のない思い出を作りましょう!」

忍 「『モノよりオモイデ』」

恋海「いつのコマーシャルなのよ……」

忍 「でも」

恋海「そうね……上野駅に挑戦するんで、私もいろいろ考えた。鉄道模型として運転を展示するには上野駅は立体的すぎる。13番14番線の上には高架ホームが乗っかってる。それをそのまま作ったら13・14番に入った模型列車が脱線したりした時に救出ができない」

忍 「そうね。メンテのこと考えるのだいじ」

恋海「そこで高架ホームを北側、上野公園側にずらします。そうすると13・14番の上がクリアになってよく見えるし、メンテの手も届く。支えてた柱は立てるだけにする」

忍 「確かに駅の屋根をどうするかはいろんなレイアウトで難しいところ。キッチリ再現すると屋根のせいで発着の列車がほぼ見えなくなる。かといって屋根を作らないと雰囲気が出ない」

恋海「上野駅13番線は確かに高架ホームの下で昼でも薄暗いけど、それ以上にあの柱が並んだホームは印象深いと思うの」

静 「……あの柱、何気によく目立つ。寝台列車の発着YouTube動画でもよく出てくる」

ユリ「車窓そのままの再現は難しいけど、列車の発着見てる人には連想的にわかるんじゃないかな。私もなんとなくわかる気がする!」

総裁「それしかなさそうね。恋海さん、全体の構成イメージ作り、お願いします。忍ちゃんはそのサポート。香子・静・ユリと私はさっそく上野駅の取材に行きます」

忍 「あ。取材私も行きたいなあ」

恋海「一番楽しそうなこと持ってっちゃうんだから」

総裁「でも感染拡大でみんなで行くのはちょっと憚られるもの。私たちも2回に分けて行こうと思う」

忍 「密を避けるのね」

総裁「そういうこと。2人でマスク手洗い徹底すればいいんじゃないかなと思って!」

恋海「仕方ないなー」

総裁「という訳でいってきます」

忍 「写真ケチっちゃダメだよ。惜しみなく撮ってきて」

総裁「わかってまーす」

 恋海と忍は総裁と静の後ろ姿を見ながら、口にした。

恋海「あれ絶対わかってないわよ」

忍 「多分ね。チョーシいいんだから」

 ふー、っと溜息を吐く二人。

恋海「でも、対決だし、リレーなんだから、やれるだけやるわよ」

忍 「CADと3D設計なら任せて」

恋海「できるの!?」

忍 「JW-CADとShade3D持ってる。Shadeは古いやつしかないけど」

恋海「そう。じゃ、お願いするわ」

 そういうと恋海は大学ノートを取り出し、スケッチをさらさらと書き始めた。そのシャーペンの先を忍が見つめている。

恋海「私の記憶が確かなら、上野駅13・14番線はこんな感じだったはず」

忍 「そうね。私の記憶でもそんな感じ」

 恋海はいつのまにか夢中になっている。

恋海「上野駅、私も思い出の駅なの。いろんな列車でここから旅立ち、帰ったから」

 忍はうなずくと、PCを起動した。忍のPCはWindowsの自作機である。

恋海「製図おねがいするわ」

忍 「ガッテン承知」

 まだ、2022年の季節は春に向かっている段階だった。

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