第15話 風雲!恋海城!(3)篠原総裁の場合
「良い事例になると思うんですけどね」
職員室。私は先生にそう言った。先生は地理の鳴川先生。前からこの人と決めていた。おとなしい人だが、私はそれはそれで見込んでいた。
「そりゃそうだけど……」
先生は口ごもっている。その寝癖頭が揺れる。
「私も先生の事情、わかってます。やめるとよその高校と『角が立つから』って未だにやらなくていいはずの夜間電話対応のような余計な残業をいくつも強いられている。今の働き方改革なんてまるで別世界の話。結局それで進んだのは勤務時間の過少申告と改ざんの嵐。この前のTwitterでの『教師のバトン』騒動でそれが公になったけど、文科省は相変わらず現状の危機をまるで理解してない。だから明後日の方向の施策ばかりして、先生たちはさらに犠牲になり続ける。それは私達生徒から見ても辛いこと。それでも我が校で陸上部やって成果を出してる先生はすごいけど、みんながそうできるわけじゃない。それに合わせられても困るのは当然な話で」
「鉄研はその点、社会学習ができるし、生徒の自主活動でできるし、成果は高校生鉄道模型コンベンションで出すことができる、って言うけど、ねえ」
先生は難しい顔をしている。
「それがうまく伝わるかどうか」
私は言った。
「私たちが部になって、それで成果を上げればできるはずです」
「すごい自信だね」
「ええ。正直、忍ちゃんや香子ちゃん、それに目下交渉中の恋海ちゃん、ユリちゃん、静ちゃんが入れば、我が鉄研はきっと大きな成果が挙げられると私は強く確信してます。とくに課外活動としての鉄研の可能性がまだよく理解されていない今こそ、先手で手をつけらえる、絶好の大きなチャンスだと思います」
「うーん」
先生は迷っている。
「この前の変の件で、教育委員会とか市の方も妙なことになっててね」
私は答えた。
「もともと変じゃないですか。あの人達も」
その言葉に先生は驚いている。
「くだらないことでもめて、こうやって地域社会教育をしっかりできない状態を作ったんですよ。あの人たちが」
「容赦ないね」
「そりゃそうです。私の大事な高校生活かかってるんですから。私たちには高校生活をまたやり直すことなんて、不可能なんです」
私は語気を強めた。
「それを守れないんなら、私は、ほんと、なんだってしますよ」
「うわ、怖いねえ」
「冗談じゃないです。そういう無責任な大人たちに愛想を尽かした子が多いから、地域が停滞するのは当然です。それを高校の統廃合だけで改善できるはずもないのは当然でしょう。私達高校生をなんだと思ってるんですか。私達が未熟だからって、正直なめてませんか」
私は啖呵を切った。
「私達、未熟で力ないかもしれませんけど、その代わり、何やっても『少女A』で済んじゃうんですよ。信頼関係をまともに構築することを怠ったら、ほんと、どこまでもひどいことになります」
「何を言って」
「私が話してるんです。話遮らないでください。私の話ちゃんと聞いてますか?」
私はこのとき、本当に何も怖くなかった。鉄研のあのみんなと一緒なら、私はなんだってできる。本当にそう思っていた。
だって恋海ちゃんのYou Tube見てると、どんどんそういう気になったのだ。
あの完成度の高いコンテンツを技術と美術で支える静、声と演技で支えるユリ、それをまとめる高校生YouTuber恋海ちゃん。彼女たちのチームがめちゃくちゃ有能なのはすでに証明されている。
それに加えて単純だけど聡明な香子ちゃん、そしてあの洞察力とつよつよキャラの忍ちゃんが加われば、最高の冒険者パーティーを組めるのは明らかなのだ。
あとは私がしっかり彼女たちをマネジメントすればいいんだけど、彼女たちみんな才気煥発で聡明だから、それはそれほど難しくはないだろう。
私がひどく間違えなければ、ほんと、あのエビコー鉄研を十分脅かすことができるのだ。
そのとき、私はハッとした。
――まさか、エビコー鉄研総裁はこうなるのを見抜いていたの?
――そんな、まさか!
でも、思った。
――その彼女がライバルとして認めてくれたのだ。
――私には、できる。
――もう、なにもこわくない。
私はなおも続けた。
「先生には選択肢はもう2つしかない。この絶好機をスルーして、つまんない上に残業だらけのただの高校教師に甘んじてすり減っていくか、私たち鉄研の顧問として、ともに胸が踊るような冒険をして名誉と成功を手に入れるか。そのどちらかしかない」
「なんか『半沢直樹』みたいだなあ」
「私、『高校生チャンバラ』も辞さずの覚悟です」
「じゃあ、高校生コンベンションで惨敗したら、『土下座でもしてくれるかな』」
「いいですよ。全然平気です。だって『私たち、失敗しないので』」
「『ドクターX』……」
「選択はもう2つしかない。鉄研顧問をやるか、やらないか」
私は追い詰めた。
「『どっちなんだー!!』」
「ひいい、そんな歌舞伎役者みたいな表情しなくてもいいよ。わかったから」
先生はうなずいた。
「君が僕のことをよく考えてくれてるのもわかったし、覚悟をしてるのもよくわかった。これに応えないなら、私も教師になった意味がない」
「では」
「うん。顧問、引き受けた」
「ありがとうございます!」
先生はそう言いながら、机でハンコとハンコマットを探し始めた。
「でも、恋海くんたちは説得できたの? それと、時間間に合う?」
「間に合わせるべく、香子と忍が頑張ってくれてるはずです」
「そうか」
先生はくすっと笑った。
「ほんと、いい仲間を作れたね。すごく素敵だ」
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