第14話 風雲!恋海城!(2)忍の場合

「なにしてるんですかー?」

 その忍の声におどおどさん、静ちゃんはびっくりして、座ったまま3センチほど飛び上がった。

「な、なんでもないです……」

 ところが。

「あれ、なんで授業用スマートパッドでそうやってYou Tube見れるの? これ、そもそもアプリ入れられないように、渡されるときに設定されてるはずなのに」

 忍は気づいた。

「なんでもないです!」

「そうよね。私も黙ってるわ」

「え」

「たまにいるって聞いたことある。こういうセキュリティを突破できちゃう子」

「そんなんじゃないです」

「そんなことない。あなたならできるんじゃないかな」

「……そんなことないです」

「だってあなた、Live2Dのリグ組んでるんでしょ? すごいなあ」

「……そんな」

「あなた、自信持っていいと思うわ。私、あれやりかけて挫折しちゃったもの。すごくむずかしくて、やってたら『ひーっ』ってなった」

「……そうですか」

「あなたを尊敬しちゃう」

「……そんな」

「いいなー。あのリグって、ココナラとかで注文受けてやれば、結構良いお金になるわよね」

「……え、ココナラ?」

「知ってるかと思った。そういう仕事を請け負ったり頼んだりするサイト。いいバイトになるわよね。いいなー。私もお金になるバイトしたいー」

「……そんな」

「恋海ちゃんのYou TubeLIVEのLive2dアバターのリグ組んであげたんでしょ」

「……知ってるんですか」

「聞いたのと類推でね。あれ、見たけど、すごくモーションが自然でよかった。どうやればああいうの作れるの?」

「……うーん」

「ほんと、あなた、なにかに怯えてるみたいだけど、すごい力持ってるわ。実はね」

 彼女は目を上げた。

「この学校の校内LANに侵入者の形跡があって。『カーディガンズの変』のとき、資料見てたらそれ見つけて」

 彼女は引いている。

「あれ、あなたよね」

「……違う」

「黙ってるから、教えて」

「……関係ないです」

「というか、私もその一味に入れて!」

「ええっ!!」

 彼女はまた4センチほど飛び上がった。

「だって、私、そういうの、めっちゃ大好きなんだもん!」

「ええっ!!」

「楽しそうだし!」

「そんな、楽しいって」

「あなたもせっかくなんだから、楽しもうよー。高校生活一回きりなんだから。あなたぐらいできれば、高校生活を楽しくするなんてチョロいと思う」

「でも、私なんかじゃ」

「あなただからできるのよ。自信持って!」

「そんな……」

 彼女は少し怯えている。

「怯えてるかもしれないけど、それだけ繊細で慎重だってとこは長所だと思う!」

「長所、なのかなあ」

「あなたの美術部での作品も見ました」

「それじゃすっかり私のストーカーじゃないですか」

「そう。『♪3丁目、3丁目』」

 歌い出す忍。

「ひいい! それ以上歌うとJASRACが来ますよ!」

「それは怖い」

(著者注:こういう『ストーカーの唄』阿部真央(2011年)て歌があるんですよ。私聞いてめちゃビビりました……。ひゃー!)

「でもさ、凄くいい絵だった!」

「え」

「あのコンテナ貨車牽引のDF200、凄くカッコよかった! 迫力もありながらあの屋根上の給排気部分、繊細でなおかつ枯れた感じが凄くステキ。よく観察してるな、て感服したわ!」

「本当?」

「ええ。あの絵はテツの心を鷲掴みにするわ。題材もいいし。あの絵、DF牽引になった石北貨物よね。北海道の旬の新玉ねぎ満載のコンテナ列車をDF200ディーゼル機関車2両でプッシュプル、前後から押し引きして北海道の原生林を抜ける石北本線を走る、重たい列車。でもその重みはただの玉ねぎの重さじゃない。北海道を開拓してきた志ある農家の人達の思いの重さ。かつて古いDD51ディーゼル機関車で牽引していたときは、石北本線の過酷な勾配や曲線に対して非力で、乗務する運転士さんがとても苦労する運用だった。それを今は強力なDF200が引き継いでるけど、それでも楽ちんとは行かない運転。そしてそれは北海道新幹線が伸び北海道の路線がさらに整理されてしまう時代を迎え、DF200ももう後継形式が建造されることになった。でも、変わらないのは、載せた思いとそれを運転する思い。

 そう、思いは、時代を超えて引き継がれる」

 忍はそういうと、静は思わず拍手していた。

「すごい。私、そんな褒められたの初めて」

「てへ。一部小田急のさよならムービーの演出からパクっちゃったけどね」

「でも、嬉しい」

「え、褒められたこと、そんなないの? あんなうまいのに」

「うん。褒めてくれるのは恋海ちゃんぐらい。親だってあんま褒めてくれない」

「そう。だから恋海ちゃんとチーム組んでるんだね」

「でも……恋海ちゃん、最近いろいろやってもちょっと反応薄くて」

「え、そうなの? そりゃつらいよね」

「うん」

「じゃあ、『私達と契約して鉄研部員になってよ!』」

「え、それ、『まどマギ』じゃないですか」

「鉄研に入ったらそんな悩み、吹っ飛ぶわよ。みんな聡明で才気煥発!」

「そうなの?」

「そう。特に部長、私たちは総裁って呼んでるけど、彼女はすごく人心掌握に優れてる。彼女と一緒なら、安心して高校生活できる。私はそう信じてる」

「そんなにすごいの?」

「ええ! もちろん!」

「でもなー、部活かー。プログラミングとイラストで時間ないんだよね」

「こういうときは!」

 忍は口を結ぶと、


「みさいるどっかーん!!!」


「痛っ!! ひい、何するんですか!!」

「迷ってる背中押したの!」

「突き飛ばして何言ってるんですか」

「もうウジウジしてても仕方ないですよ。『迷ったら飛び込め』です!」

「なんか不安だなあ」

「もう一回、みさいる」

「わああ、やめて!!」

 忍もこうして猛攻を続けているのだった。

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