第13話 風雲!恋海城!(1)香子の場合

「なにしてるんですか?」

 休み時間、打ち合わせ通りに香子がふわふわさん、ユリちゃんにまずアタックする。

「え。とくになにも……」

「なにもしないをしてるんですね!」

 香子はテンションたかくアプローチする。

「……そうなのかなあ」

「拙者、あなたの声、すごく好きです!」

「え、ほんとう? なんで」

「今時のアニメっていうんですか? そういうののキャラみたいな声で!」

「そう思う?」

「ええ!」

「そうなの」

「拙者、あなたの声をもっと聞かせてほしいのです!」

「そうなの」

「良い声だなあ。可愛いいけど聴き取りやすくて。なにか練習してるんですか?」

「そりゃ」

 彼女はちょっと躊躇った。

「目指すものがあるから」

「将来は声優さんですか?」

 ちょっとびっくりする彼女。

「そう」

「すっごーい!」

「そのためにボイストレーニングとかしてて」

「すごいですね! きっとなれますよ! 声すごく綺麗だもの」

「そう、なのかな……」

「どうしたんですか?」

「……そう思えなくなってて」

 香子はそこで考え込んだ。

「なにかうまくいかないことが?」

 彼女は少し言うのをためらったが、言った。

「レッスンの先生とぶつかっちゃって」

「そうなんですか」

「良い先生なんだけど、時々こういうことがあって」

 彼女は言い淀んだ。

「その度に自己嫌悪しちゃうの」

「それは私も剣道の先生とよくあることかも!」

「剣道?」

「そうです! 私の先生、剣道強くてすごく良いんですけど、新撰組の話になると毎回喧嘩になっちゃうんです」

「なんで?」

「先生、時々新撰組のつまんない与太話するんですよ。で『先生、それ史実じゃないですよね』って私もつい言っちゃって、喧嘩に!」

「そんなことで喧嘩してるの?」

「でもすぐ仲直りするんですけどね! だって、だからどうだってことないし!」

「どうだってことない、か……。私たちもそうできれば良いんだけど」

「できますよ。同じ目的をちゃんと一緒に持ってれば! 特に先生はきっとあなたのこと、大事に思ってくれてると思う。そういうのが先生だし!」

「そうかも……」

「でも、一人だとそう思えない時はあって! そういう時には仲間が欲しいな、って思います!」

「仲間?」

「ええ。同じ歳ぐらいの友達! 拙者にもそういうのができて嬉しかった! それで鉄研つくるって今やってるんです」

「鉄研?」

「一緒に旅行したり、模型作ったり。拙者は城郭模型作りたいと思ってたので、今から楽しみです!」

「旅行と模型、ね」

 彼女は考えている。

「きっと楽しくなります。だって他の2人もすごくいい人だし!」

「そうなの?」

「そうですよ! そこで、できれば、あなたにも入って欲しいなー、と」

「そういうことなの?」

「そうです。まあ、その鉄研も今日で最後かもしれないけど」

「え、どうして?」

「もう時間がないそうです。この前のカーディガン騒ぎの準備で時間なくなっちゃったらしくて」

「え、あれ仕掛けたの、あの人たち?」

「ええ。そうだって。みんなにやる気起こさせる話したり、古着のカーディガン用意したり」

「すごいなー、と思ってたけど」

「ええ。ほんとすごいと思う。だからきっと鉄研も楽しくなると思うんです」

「そうよね」

「一緒にやりません? あの2人、すごく楽しそうだし」

「そうかも」

 香子は話し出した。

「あの2人見てると、ほんと、ラノベのキャラそのままみたいで。拙者もそういうのに憧れてました。それもこの高校であんなことできるってすごいなー、って。でも、やればなれると思うんです。つまんない我慢とかしないで、やりたいことやって。私たちの高校生活って、どうやっても今しかないんだし。声優目指してるあなたにも、高校生活を楽しむことは決して無駄ではないと思う!」

「高校生活を楽しむ……」

「なんでも物事を楽しみ、楽しくするのが鉄研のモットーなんだそうです!」

「すごくポジティブだなあ」

「でも悪い気はしませんよ。あの二人だとそう思える」

「そうなのかー」

「一緒に列車に乗って旅したいな、って思えるステキな人達です。できればその旅で拙者は先の大戦の戦跡もみたいなと思うし。たしか最初の旅行は沼津行こうかって」

「え、沼津?」

「そうです。かつての小田急ロマンスカー『あさぎり』の終着駅で、またアニメ『ラブライブ!サンシャイン』の聖地!」

「あのアニメかー」

「正直、あのアニメ、ツッコミどころあるんですけどね。結成していきなりピンでイベントやったり。人集まるわけないのに無謀だなーと思ってたらそれに人集まっちゃったりして、どんだけ沼津の人温かいんだよっ! とか、そんな温かい人達なのにものの見事に一人も誰もあの高校に入学しようとしないとか、地域の広報ビデオのネタ探すのに図書館も博物館も行かないで仲間の家でただ徹夜してたら偶然大きなお祭りを近くでやってくれてそれで解決とか、そういうストーリー」

「はい、ラブライブ!の悪口はそこまで」

 ユリちゃんは止めた。

「すみません。でもあのスクールアイドルの子たちがとてもステキなだけに、あのストーリーはなんだかなあ、って」

「うーん。でもそうなのかなあ。私、普通にラブライブ!好きだけどなあ」

「私も好きですよ。ラブライブ!。でもあのストーリーだけはしょんぼり。でも、鉄研の忍さん、同じ意見だけどAqoursの『ハッピー・パーティー・トレイン』に出てきた扇形庫作ってたり」

「え、あれ作ったの? 鉄道模型で?」

「ええ。A3のボードの上に転車台と扇形庫とAqoursのネオン作って」

「すごいなあ。豊後森機関庫を作ったのか……」

「え、知ってるんですか」

「そりゃ、アニメに出てくるそういう聖地は興味あるから調べるわ。ガルパンの大洗にも何度も行ってるし」

「じゃあ、鉄研に入ってみんなでアニメ話もしながら沼津にも行きましょうよ! それに沼津には海軍工廠があって、高射砲陣地の一部が残ってるはずなんです。ほかにも『蛟龍』の基地跡もどこかにあるんじゃないかと! あと沼津空襲で変形したのが残ってる御成橋も見たい!」

「……楽しそうね」

「でしょ!!」

 香子はこの調子で彼女ユリちゃんを鉄研に入れるべく、さらに猛アタックを繰り広げていた。

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