第6話 職員室制圧作戦
早朝。
「はじめよう」
生徒会長の声で、生徒会の各要員が生徒たち各部隊へ作戦開始を発令した。
校門で2人の体育教師が竹刀を持って、生徒を待っている。まだ肌寒い春の朝の空気に、寒いですなあ! と声を出して堪えている。
そこに1人の生徒が歩いて行く。
「なんだ! そのカーディガンは! 校則違反だぞ! 脱げ!」
彼女は震えている。
「お前! なんだと思ってるんだ!」
だが、彼女の様子がおかしい。
「お、おまえ!」
彼女はカーディガンを脱ぎながら言った。
「私、お前って名前じゃないです。1年2組、佐々木智美、って名前があるんです」
そして脱いだカーディガンの下は、なんと、素肌!
「先生、私の名前、いい加減覚えてください」
驚いてのけぞる先生の虚をついて、そこに曲がり角で待機していたカーディガンの生徒20名が一斉に殺到する。
「お前たち!なんだ!」
そこで先生はこの謀に気付いた。が、もう遅い。その竹刀はカーディガンズとともに突入したヘルメットにプロテクターにニーパッドのタクティカル装備の物理制圧チームが奪っていた。
そして見下ろす佐々木は、カーディガンの下は、競泳水着……。
「正門、2名クリア! 損害なし!」
そしてつぎつぎとカーディガンの生徒たち、カーディガンズが校門から突入していく。
昇降口。
「正門の生徒たちがきます!」
そのカーディガンズの先頭は家宅捜査令状のようになにか書類を掲げた副生徒会長だった。
「生徒会です! 高校指定制服の選定に関わる疑惑についての調査を実施します!」
「なんだ調査って! 生徒会にそんな権限ないだろ!」
「これは流山市長の我々の調査に対する同意書です。市長の公印が押された正規のものです」
「なんだと!」
「これは、市の監査が学校に及ぶことの生徒への教育的悪影響を回避するための方策として、臨時的に生徒会に監査が委託されたと理解願いたい」
「そんなバカな!」
「抗告するなら市の監査委員会にどうぞ」
そしてカーディガンズがその両脇を奔流のように突入して行く。
「くそ! 全生徒がカーディガン着て蜂起するなんて」
「警察は! 警察に通報しろ!」
職員室は混乱に陥っていた。
「放送室、放送室から放送で呼び掛けるんだ!」
「警察、電話に出ましたけど『学校内の問題でしょうから、よろしくお願いします』って」
「前にいじめで生徒が警察を呼んだのを『学校内の問題だ』として帰したから、か」
「なんてことだ」
「放送室はどうなった!」
放送室では慌てて入ってきた先生が、先に潜入した物理制圧チームが置いた粘着ボードのトラップにハマって動けなくなっていた。
「放送室、2名クリア!」
「校舎A棟、全フロアクリア、占領完了」
「B棟及び体育館、プール、占領しました」
「管理棟、制圧進行中です」
音楽室では、音楽の先生が待っていた。
「先生?」
「よくやってくれた。僕らができなかったことを君たちがやってくれたんだ。感謝するよ。君たちは、僕ら教師の高校生活も取り返してくれたんだからね」
彼らは、そういうと歌と演奏でみんなを称える曲を奏で始めた。そう、音楽の先生も怯えていたのだ。
保健室では、保健の先生と救護班が待機していた。
「ほんと、あの司書の先生、ヤバい人だったわね。密かに前からそうだと思ってたけど」
事務室。
「はい、書類。まとめてあるから確認して」
事務員のみんなが笑顔で待っていた。
「俺らの無駄なストレスもこれで終わりだ」
そして最後は職員室だったが、それは完全にカーディガンズの十重二十重の包囲の中だった。
「あの、私、失礼します。私は生徒の勇気ある行動を支持します。彼らは確かに危なっかしいけど、だからと言って、私たちが彼女たちの希望と機会を奪い続けていい理由にはなりません」
籠城する先生の1人が言った。
「なんだと! 裏切るのか!」
「生徒を裏切る方がもっと重い罪です」
「ここまで我々を追認しておいてよく言えるな!」
「ええ。罪は自覚してます。でも、それを重ねるのはまっぴらです。これから罪を償う方がずっといい。その方が、生きる希望を持てる。カーディガン禁止は学校規定のカーディガンを導入し、それでキックバックもらうための策だったなんて、恥ずかしいです。それ抱えて生徒に授業してきたのは本当に辛かった」
「勝手なことを言うな!」
教務と校長が叫ぶ。
だが、この職員室のドアのバリケードが破られ、カーディガンズが入ってきた。その向こうには地元のケーブルテレビのカメラが待っている。
「校長先生、教え子の前で無駄なことをしないでください。すでに教育委員会にも市長の要請で市の監査が入っています。また教育問題NGOも我が校の問題を取り上げるべく活動中です。もう、罪を重ねないでください」
生徒会長の最後通牒に、校長たちは顔を隠して職員室の続きの校長室に逃げ込もうとする。
だがその顔から赤い液体が飛び散る。狙撃の精密なヘッドショットだ!
そう、隣の建物に布陣した物理制圧チーム狙撃班の狙撃エアガンの放ったペイント弾が命中したのだった。
ペイント弾を受けて崩れ落ちる校長と教務に、生徒会長が手を添えた。
「もう、やめにしましょう」
校門からわずか18分、高校生徒会はこの職員室制圧作戦に成功した。
「これで職員室からあの陰気な空気は一掃されるね。この高校は、変わるよ。カーディガンズの乱はマスコミ沙汰にもなったけど、幸い校長たちの悪巧みは処分にはなったけど、正当な処分で終わる」
「よかった」
「何やっても無駄だ、ってのは、この高校ではなくなる。やれば、その責任もあるけど、自分でやって行く希望が戻った」
「そうですね」
生徒会長は息を吐くと、言った。
「ところで総裁と忍くん、忘れてないか」
「え?」
「鉄研の同好会申請、この騒動で浮いてるんだ。このままだと、部になれるか申請却下で同好会も消えるか、あと数日でどっちかになっちゃうよ」
「あ!」
「あ!」
私は愕然とした。すっかり忘れていた。
「こんなときこそ、みさいるどっかーん!!」
「ははは。それはぼくには効かないよ」
忍の「みさいる」を軽くかわしながら生徒会長は笑っている。
いや、笑うところじゃないって。
これ、マジほんとに大ピンチだから!
どうなる流山東鉄研!
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