第7話 リミットは48時間
「『カーディガンの変』はうまくいったけど、その分鉄研が犠牲になるとは……うぐぐ」
忍ちゃんが唸っている。
「でもなー、どうもいかないよね。あれマスコミ沙汰になったし」
「なったし? したのよ」
「そりゃそうだけど」
「今時地域ケーブルテレビでどうなるもんかと思ったけど、案外影響大きかった」
「でもそれを時事系YouTuberが取り上げたのも大きかったわね」
「取り上げた? 取り上げさせたのよ」
「うっ、マジ?」
「そりゃ、SNS拡散もしかけたから」
「そっかー。でも鉄研、どうしよう。もう2日、48時間しか時間ないよ。このままだと時間切れで同好会で立ち消えになっちゃう」
「こまったなー、まいったなー」
そうメッセでやりとりしながら2人でYouTubeを見ている。
「このチャンネルでもカーディガンの変、また面白おかしく取り上げてる」
「ほんとだ。でもこの人、時々見るけど、なんかうちの高校の子っぽいんだよね」
「この登録者数20万人のYouTuberがうちの高校に? まさかあ」
「うちの高校、訳ありの子が多いっぽいから、もしかすると、だけど」
「篠原総裁もそうじゃない。ほんとは小金高校に行くはずだったんでしょ」
「はいそこカサブタむしらないー。私、まだ受験失敗のこと辛いのに」
「ごめーん。でもこのYouTuber、妙ね。やたらカーディガンの変に詳しすぎる。内部でないと知らないことも言ってるし。よその高校じゃなさそう」
「でしょ」
「でも誰だろう」
無言になった。
「……ちょっと、探ってみたくならない?」
忍が言い出した。
「だめ! だって私たちの鉄研が時間切れで虫の息なのよ!」
「でもこの子、案外鉄道ネタの動画多くない?」
「もー! 鉄研! ……でも多いわね、雑談コーナーの鉄ネタ。ツボ外してるとこはあるけど、鉄道は好きっぽい。でも小田急線の業績悪化は複々線化の過大投資じゃなくてコロナ禍の影響が大きすぎるだけなのに。よその私鉄だって今、フツーに減収減益してるじゃない」
「北海道新幹線はいらない、って言ったって、あそこ、あのまま単線非電化でやってくのは無理すぎるし、電化複線化するならキャパ大きくて防災上有利で運転しやすい新幹線にするのはフツーの選択なのになあ」
「でも寝台特急『北斗星』乗った思い出語ってるとこは……なかなかエモいわね」
「北海道への家族旅行で『北斗星』と『カシオペア』乗るんだもん。いいなー。うらやましいー。もう私たち乗りようがない。北斗星は無くなったし、カシオペアはカシオペア紀行でめっちゃ高くなったし」
「ふーん、その家族旅行を動画に撮ったのがYouTube始めたきっかけなのね。今はダンスとか小ネタとかメイク動画とかそんなフツーのYouTubeコンテンツ多いけど」
「……誰だろ、これ」
「私、思ったんだけど、この子、もし私たちとつながったら、高校生活楽しくなるんじゃない? 意見の違いで喧嘩しそうなとこはあるけど、でも」
「そうね。相手にとっては不足なし、ね」
「鉄研がもし今回できなくても、この子と三人なら、またまっさらな同好会からやり直せるかも。というか、やりたい!」
「ハードル上がるけどね。却下された同好会の再申請って難しいらしいわ」
「そうよね……。でも、ほかに部員増やす方法が見当たらないし」
「諦めてテキトーな子に名義借りるってのは?」
「それで一時しのげるとしてもリスクは大きい。こういうのはね、『部員は少なく、支持者は多く!』が鉄則」
忍がまたドヤ顔で言う。
「もー。なんかそれもまたどっかで聞いたセリフだなあ。でもどうしましょう」
「うーん、うーん」
また忍はこめかみに拳をぐりぐりとやり始めた。
「ぴっきーん!!」
「ええっ、また?」
「このYouTuber、がんばって特定しちゃいましょう!」
「できる?」
「司書の先生とか生徒会のみんなでここまでのこの人の放送を手分けして調べるんです!」
「ひいい、ネット特定班しちゃうの!? ヒドいっ!」
「きっと何か手がかりがあるはずです! こうなったらきれい事は言えないのです!」
「手段選ばず……これも忍ちゃんらしいけど、やっぱり引く……」
*
というわけで特定作戦が開始された。
「YouTubeの解像度って案外低くて難しかったけどさ」
生徒会副会長がiPadに画像を出した。結局鉄研の二人を生徒会が応援してくれることになった。二人が死に体の生徒会を救ったことは大きな貸しになったのだ。
「はいこれ、彼女がYouTubeライブで撮影してるときに見てる部屋の中。彼女の瞳の反射から割り出したよ。後でなんかおごってね」
「ひいい、科捜研の女じゃなく男状態……」
「顔バレやだって彼女がしてた仮面のメーカーも突き止めたよ」
「あとこの動画の3分21秒のとこで妙な物音が聞こえるんで拡大、ソフトで分析したら、これ、どうやら踏切の警報器の音みたいなんだよね」
iPadにその特定の様子を出す生徒会書記。
「で、この音、聴いてみたら馴染みのある音っぽい。で、ヤマかけて流鉄の踏切音と音紋照合したらビンゴでした。いくつかの踏切の警報音と合致してます」
「え、ええと……音紋って……みんな、うちの学校、偏差値44だよね? なんでこんなことを。みんな切れ者過ぎる!」
「いやー、学校の試験はつい手抜きしちゃって。つまんないから」
「こういう面白いことにはついがんばっちゃって」
「学生だから学割のきく分析とかのソフトはどんどん入れちゃうんだ。テへ」
「もう! テへ、じゃないー!! 学生の本分は勉強です!」
「まあまあ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます