第5話 作戦、準備

 生徒会と私たち鉄研は準備を進めて行く。

「ここまでやったんだもの、うまくいったらいいね」

 私がいう。

「総裁、それは、うまくいかせるんですよう!」

 忍ちゃんは微笑んだ。

「この作戦は文書方面、物品の供給確保方面、法務方面、物理作戦、論理作戦の5方面の作戦を緻密に連携させて実施するところに成否がかかっている。しかもこれだけの大作戦でありながら、秘密を守らねばならない」

 借りた市民センターのホールに集まったみんなの前には古着の段ボールの山がそびえている。

「法務チーム、弁護士さんとのMTGに出発します」

「市役所折衝チーム、市の局長とのMTG完了。合意に至りました」

「メディア対応チーム、カメラの進入について決定案作成中です」

「物理制圧チーム、装備の確保完了しました。操作訓練フェーズに入ります」

「A18からの残りAグループの確保は?」

「終わったと思います」

「思います? 確認を。こういうのはトドメをしっかり刺さないとダメよ!」

 そして学校近くの生徒の家にHQヘッドクォーター、指揮所が設置されている。学習机を背後にテーブルの上にはノートパソコンと幾つもの携帯電話。背後にはホワイトボード。そこで報告と指示が取りまとめられている。

「図書室ってすごいよね」

「そりゃ、古今東西の知恵が集まってるんだもの」

「小さい図書室だけど、よその図書館と繋がってて、欲しい資料がすぐに届くシステムになってるなんて知らなかった」

「あんな小さな図書室なのにね」

「もっとビビるのが、司書の先生」

「あんな見た目なのに、ね」

「それで結局僕らも乗せられてこうしちゃってる」

「だって、こうした方が楽しいんだもの」

「そりゃそうだ」


 双眼鏡で学校校舎を覗く生徒会役員。

「世の中で一番怖いのは、ああいう『そうは見えない』人だよね」

「まさしく。こえーの」

 司書の先生は、何事もないように、図書準備室で紅茶にジャムを入れて飲んでいる。

「これだけ入れ知恵して平然としてるんだもんなあ」

 双眼鏡を転じる。

「職員室に気づかれた様子、ありません。作戦実施、今のところ支障ないです。送レ」


「各教室の足並み、もうすぐ揃います」

 私の報告に生徒会長がうなづく。

「この諦めていた学校に、こんな力があったんだって思うと、私のここまでの高校生活、本当は意義あるものだったんだと思うよ。気づかせてくれてありがとう」

「それはこの作戦が終わった時まで取っておいてください」

 私は微笑んだ。

「それは、私たちのライバルのおかげでもあるんですよ」

 忍ちゃんがいう。

「ライバル?」

「ええ。ここから遠くで、同じテツ道を目指しているライバルがいるんです」

「そうなのか。それは素晴らしいし、すごく羨ましいな。幸せなことだ」

「そうですね。でもこんな時代だから、本来のことで彼女たちと雌雄を決する機会が来るかどうかわかりませんが」

「くるよ。きっと」

 生徒会長は言った。

「今の日本に必要なのは、こういうものだと思うからね。そしてそれがこうして具体化されたんだ。変化への適応、進化は確実に進むよ。間に合ってくれるといいんだが。

 こうなったのは元々、前の校長が訳ありの人だったのもある。この学校、君たちも知ってる通り、偏差値が低く、荒れ気味の学校だった。その改善のために前の校長は校則を厳しくし、不良生徒の退学処分をさっさと決めた。乱発のように見えるぐらいだった。生徒はただ怯え、その時の生徒会も事勿れでそれを追認するだけに成り下がった。でも数字にすれば不良生徒の数は減り、彼らが成績を押し下げなくなっただけ偏差値は少し上がった。しかしそれは見た目だけ。高校を追い出された不良は地域でさらに犯罪者となり、街の治安は悪化、それに伴いこの高校に魅力を感じる子供も減り、志願者が減った。そこでこの学校は弱体化の一方向の坂道を転がり落ちてきた。それに先生方も抵抗できなくなって、教育者としての意欲まで失った。残ったのは体罰当然の脳筋体育教師を校内警察として圧政する校内体制だった。生徒は怯える中、そのどん底で陰湿ないじめを繰り返してきたんだ」

 生徒会長は息を吐いた。

「それがこの高校の失われた10年。どれだけの生徒のかけがえのない高校生活が不幸に踏み躙られてきたかと思うと、胸が潰れる思いだ」

「でも、これからはそうはさせません」

 私は言った。

「この高校をみんなが希望を持てる高校にするんです。それは誰かにやってもらうのではなく、私たちの力でそうするんです。こういうことは自分でやるから、楽しく面白いんです。それを取り戻すのが、この戦いなんです」


「生徒会監視班、職員室監視の定時報告です。異常ありません。作戦実施にネガティブ要素まだありません。送レ」


「生徒はこことここでそれを受け取り、そのまま登校します。最初の関門は校門です。ここには体育教師の阿部と高城が当日の当番としています。その排除は物理制圧班2班が実施します。それを突破したら次は2箇所の昇降口が次の関門です。校門突破時に連絡されて阻止にくるのは松田・伊藤・鹿野が中心となるグループと想定されます。ここは物理制圧班の支援を得つつ、文書グループが対応します。

ここを突破したら次は校内の制圧です。放送室が次の制圧目標ですが、この時点で制圧にかかっては強襲になり困難が想定されますので、事前に物理チームが潜入して制圧することとしてあります」

「物理制圧班はエアガンとスタンガン、携帯電話と防犯ブザーを各自装備しています。また学校のこことここ、お向かいの足代さん宅の屋根に狙撃観測チームを配備、突入支援を行います」

 作戦前日、確認作業が行われる。

「こういうの、なんか、すごく物騒でいいわね!」

「忍ちゃん……そういうの、すごく忍ちゃんらしいけど、ちょっと引く……」

 





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